無人島サバイバル〜修学旅行に行くはずだったのに〜

アキラ

無人島サバイバル〜修学旅行に行くはずだったのに〜

 今は20XX年。

 私、栗原世衣加せいかは中学二年生。

今日はずっと楽しみにしていた修学旅行に行く……はずだった。

なのに私は、砂浜に横たわっていた。


 これじゃあ修学旅行に行けないじゃないの!

いや、今はそれどころじゃない。とにかく起きなければ。


 朝日が出ているからもう朝だろう。

辺りを見渡すと前は海、後ろは森、横は砂。

 はぁ、私の楽しい修学旅行……。どこへ行った。

 何でこんな事になったんだろう。



 まず、どうしよう。

って!? あそこに誰か倒れてる!?

私は倒れている人の方へすぐさま駆け寄る。

ん? これはゆかりちゃんだ!!


 彼女は高橋ゆかり。

ちょっと言葉はキツイけど、幼稚園の頃からの仲でもあり、私の大親友。一緒の中学なの。


「ゆかりちゃん! どうしたの!? こんな所で寝ちゃだめだよ~!」

大きく体を揺さぶると「んんっ?」と声がする。


「世衣加?」

ゆかりちゃんは砂から起きる。


「無事で良かった~」

私は反射的にゆかりちゃんに抱きつく。



「世衣加、突然で悪いけど、ここってどこ?」

ゆかりちゃんは体についた砂を払いながら辺りを見渡す。


 「私もついさっき意識を取り戻したばかりだから全く分かんないの」

私がそう言うと「そうなの……」と、残念そうにゆかりちゃんが俯く。


「あ。でもね! ゆかりちゃん。私、サバイバルは得意だから安心していいよ! まずは状況を把握することからしようよ!」

私はゆかりちゃんの背中をポンポンと叩いて励ます。


 私はよくお父さんお母さんとキャンプに行くし、サバイバル番組も欠かさず見てるもん!

 だから人よりはサバイバルが得意、と言える……だろう。


 私はゆかりちゃんの手を引き、小走で走ろうとしたら、ゆかりちゃんが急に立ち止まった。


「それじゃあ、サバイバルが得意な世衣加に質問。あそこから走ってきてるのって同じクラスの蒼太じゃない?」

ゆかりちゃんが私の手を振り払って右を指す。


「走ってきてるのって? ――うわぁっ!」

私が言い欠けていると急に人が目の前に走って来ているのに驚いて腰が抜けた。


 彼の名前は広瀬蒼太くん。私達のクラスメイト。

運動全般が得意で女子に人気。いつも休み時間になる度に周りは女子で埋め尽くされる。


 すると急に蒼太くんが声を荒立てる。

「何で俺達、無人島に居んだよ!?」

狼みたいに目の前で吠えられると耳が痛い……。


「急に走って来たと思ったらそんな事言われても……こっちが聞きたいわよ」

突然の言葉にゆかりちゃんが疲れたように言う。


「本当だよ。私達だって全然分かってないんだもん。……って! む、無人島!? こ、ここって人が居ないの?」

ゆかりちゃんに加勢している途中に蒼太くんが言ったことを思い出して私は言葉が止まる。


「そうよ、どうしてここが無人島だって断言するのよ!?」

ゆかりちゃんも問い詰める。


「俺達は一時間くらい前からこの島を調べてたんだよ! その結果分かったことはこの島には人が居ないことだ! この島すんごい狭かったから探しやすかったぞ」

そっか、と私達より先に蒼太くんは起きて調査をしてたんだ。

それなら納得だね。蒼太くん、狼みたいにいつも吠えてるけど根はいい子だから信用して大丈夫。

 

「蒼太。今、俺達って言ったわよね。私達以外にもこの島に人が居ると言う認識でで良いのかしら?」

あ、確かに蒼太くん俺達って言ってたね。

こんなとこまで気がつくなんてゆかりちゃん、いつもに増して鋭い……。


「そうだ! 俺以外にもこの島に数人居るぞ! 今から合流するからついて来い!」


「えぇ、案内を頼むわ」

ゆかりちゃんが蒼太くんについて行く後を私も追っていく。 私達は蒼太くんの案内の下、無人島に居る人が集まっている所に向かっている。

何人くらい居るのかとかどんな人が居るのかは全く聞いてないけど、無人島で三人だけの状況よりマシになるのは間違いないだろう。


 急に横から声がかかってきた。

「蒼太く~ん、遅いよぉ~。あれぇ、もしかして後ろにいるのってぇ、世衣加ちゃんとゆかりちゃん?」

この子、見覚えがある様な……。


「そうだ! 本田! やっと合流できたな!」

本田ってクラスの?


「本田さん!」

ゆかりちゃんがそう言うと私の記憶から彼女のことが思い浮かんできた。


 横から出て来たこの子は本田創ちゃん。

いつもふわふわ笑顔だけど機械が得意という一面も持っている不思議な女の子。

確かゆかりちゃんと一緒に学級委員をしているはず。


「本田さんもこの島に居たのね」


「そうなのぉ、二人も入れて六人来てるみたいなの~」

え、それだけ……? 私のイメージ、もうちょっと居るんだけど……。


「六人って事は私、ゆかりちゃん、蒼太くん、創ちゃん。残りの二人は?」

私が指折り数える。


「男子が二人~。司くんと陽太くんだよぉ」

成程、女子は三人か。半々で丁度いいね。


 えっと、一応名前が挙がった二人の紹介をしとく。

 一人目は再希笑さいきえ陽太くん。

名字が珍しいよね。

何かよく知らないけど分かってることと言えばお金持ちって事くらいかな。

だけどお金とかに関係なく、誰にでも優しいんだよね。

 で、二人目が隅田すみだ司くん。

こっちはもっとお金持ちで陽太くんと仲がいい。

いつもリーダーシップを持って行動している。

生徒会にも入っていて次期生徒会長候補トップらしい。


「現在二人はどこに居るのかしら?」


「えっとねぇ、確かぁ~、向こうの方で食料調達してるはずよぉ~」

そっか、無人島だから食べ物が探さないと無いんだ。

ご飯の事考えると、お腹空いてきたなぁ。


「なにか取れたのか!? 今ものすごく腹が減ってるんだが!」

どうやら蒼太くんもお腹が減っている様だ。

寝起きはお腹空くもんね。


「えっとねぇ、私が探しておいたのはここに置いてるきのみだよ~! 好きなのを取っていいわよぉ~」

私は「やったあ!」と直様食べ物に駆け付ける。


 私が取ったのはりんごの様な感じだ。

明らかに歪な形をしている。


「これは、りんごなのかしら?」

ゆかりちゃんは私が持っているりんごを横からチラチラ見てくる。


「多分そんなんだろ! 食えりゃ何でも良いんだよ!」

と、蒼太くんもりんごらしき物を「シャキッ」と音を立てて食べる。


 私も蒼太くんが食べたのを見て、食べてみる。

すると口の中に甘みと酸味が伝わった気がした。


「うん、甘くて美味しいよ!」

私は創ちゃんに感想を伝え、もう一口食べる。


「嬉しいわぁ~」


 うん、確かに美味しいけどこのりんごって、真っ青で不気味な感じがするなぁ。

味が良い分勿体なく感じる……。


 あれ? ゆかりちゃん、りんごを手にとったものの口にしていない。

「ゆかりちゃん、食べないのぉ?」

創ちゃんは心配したように声をかける。


「だ、だってこれ、ほんとに無毒だって言えるのかしら? ほら、だってこれ、人が栽培して無いでしょ? 菌とかが付着していたら……。そもそも貴方達、こんな状況下に居て、そんな変なのを口にするのってどうなのかしら……? あぁ、考えるだけでも悍ましい……」

えぇ、まさか……そんな筈無いと思うけど……。


「ちゃんと水洗いしたし大丈夫だよぉ~」

創ちゃんがふわふわ流そうとしていると「でも……」と、ゆかりちゃんが続ける。


「でもでも、水洗いじゃ落ちないかも知れないし……。そもそもその水がキレイだって保証は無いのよ! それに……」

次から次へと不満を打ち込んでいくゆかりちゃんを抑え込む。


「私も蒼太くんも食べたから大丈夫だよ~。 ね、ね?」

私がそう言ってもゆかりちゃんは顔を顰めたままだ。

 

「でも、ゆかりちゃんが言いたいことも分かる気はするんだよねぇ。だってここの食べ物、どれも美味しいんだもん~」


「え、つまり本田さんはこの島の食べ物に毒が入っているかもと心配もせずに食べたの? しかもどれを食べてもと言える程の量を?」

ゆかりちゃんは鋭い目で創ちゃんを見る。

その目からは軽蔑すらも感じられる様な気がするのは私だけ……?


「私が食べたのはぁ、ここにある物だけだよ~。それを確認したのは司くんと陽太くんの二人と協力してだし~」

創ちゃんは手をブンブン振って「あはは~」と否定を続ける。

その姿からはオーラを感じられる。


 ちょっと喧嘩っぽくなって来たのでは……。


「そんなのはどうでもいいがこの島の食べ物って何なんだ?」

蒼太くんが最後の一口を口に放り込みながら言う。


「このりんご、味は申し分無いけど色とか形とかおかしくないか? こんな種類、見たことも聞いたこともないぞ」


「でも青りんごって言うよ」

私はりんごを手にとって観察してみる。


「青りんごって言うけどぉ、緑じゃない~?」

創ちゃんが頬に人差し指を当てる。


「信号とかもそうよね」

うん、確かに。

 

「それよりも早く二人と合流しないと」

私が言うと蒼太くんはりんごを両手に取った。


「今度こそ二人の所へ案内、お願いするわ」



「海だ~!」

私が両手を広げて大きな声で言うと、ゆかりちゃんが白い目で見てくる。

その後ろに創ちゃんも、うわぁと後退りしている。

うぅ、今は遊べる状況じゃないか。


 私達はあれから蒼太くんと創ちゃんの案内で再希笑陽太くんと隅田司くんと合流した。

二人はどうやら川で魚を釣ろうとしていたらしく、海に潜っていた。

 いや、陽太くんだけが海に潜って司くんはそんなの嫌、って言ってマイ釣り竿を両手に握りしめていた。どうやって作ったんだか。


 収穫は大量にあり、陽太くんが29匹。司くんが28匹。

どっちが多く釣れるか勝負していたらしく、負けていた司くんは悔しがっていた。

かなり取れてると思うんだけど、相手が悪かったね。

二人はいつも勝負してはどちらかが負け、悔しがっている日常を送っているから見慣れてきたなぁ。


「よし、皆揃った所で早速、作戦会議と行こうか」

砂浜に円になって座って、話し合いが始まった。

一応メンバーと顔を照らし合わせよう。


 まず私、栗原世衣加。

次に右の高橋ゆかりちゃん。

左に居るのが隅田司くん。話を進めて行く司会的人物だ。

他には本田創ちゃん。

広瀬蒼太くん。

再希笑陽太くん。


 この六人で無人島での困難を逃れることになるわけだ。

緊張してくる……。


 やっとのことでメンバーが揃ったので話は進んでいく。

「まず話し合うべき事は、なぜ僕らがこの島に居るかだと僕は思う」

司くんは咳払いをしてから言う。


「そうね、まずは私がこの島に居る理由が知りたいわ」

ゆかりちゃんも賛同しているようだ。

私もそう思う。何でこの島に居るんだろう。

それに何故このメンバーになったのかも。


 このメンバーって全体で見たら仲良しでは無い。

私とゆかりちゃん、司くんと陽太くんの二組しか仲良しは居ない。

だから仲良しが集まってこうなったとは思えない。

だけど何か共通点があるのかも。頭の隅に何かがあったような記憶がある様な気がしないでも無いけど……。

いや、難しい事を考えるのは辞めだ!


 皆が完全にその事について話し合う流れになっている時に創ちゃんが「あのぉ」と恥ずかしそうに手を挙げる。


「確かにぃ、私も何でこの島に来てるのかは気になるんだけどぉ、それよりもぉ、今後について話し合ったほうが良いんじゃあないかなぁ? 食料は確保できてるけど寝泊まりする場所はどうするのよぉ。気候に対策とかも考えたほうが良い気がするぅ」

創ちゃんは手で顔を煽る。


 確かに……。

アイス食べたいよぉ。


「確かに睡眠時間は必要だし、その事から考えよう。最初の方に起きた人はもう三時間以上動き続けてるから休憩も取りたいね」

陽太くんが司くんに創ちゃんの意見を伝える。

司くんは頷く。


「二人の言う通り、今後の事についてから考えることにしようか。その事について何か意見がある人は居るかい?」

と、皆の顔を見渡す。


「私、考えたことがあるの」

ゆかりちゃんがそう言うと、皆の視線がゆかりちゃんに集まる。


「一旦話は逸れるけど、この島について考えてみたことはある?」

皆は首をブンブン横にふる。

ゆかりちゃんは「はぁ」とため息を付いて言葉を始める。


「皆はおかしいと思わなかったの?」

「おかしい?」

私は首をかしげる。


「そうよ、この島はおかしい。考えてみて。本田さんが持ってきた食べ物について」

ゆかりちゃんは近くのりんごの山を指す。


「あぁ! そのりんご、美味しかったよな!」

蒼太くんはりんごを見て凄い勢いでりんごを手に取る。


「えぇ、確かに皆に勧められて食べたら意外と美味しかったわ。だけどこんな島に生えている食べ物、どれを食べても大丈夫な事ってあると思う?」

うーん、確かに普通の生活でも食べられない植物いっぱいあるもんね。


 推理小説の探偵のようにゆかりちゃんは続ける。

「それに海水よ」

海水?

「あぁ、それは僕も思った」

司くんがゆかりちゃんの言葉の途中に入って納得している。


「ここの海水って除菌や殺菌をしないでも飲めているのよ」

ゆかりちゃんがそう言ったけど私にはよく意味が分からない。


「確かにそうだわぁ」

創ちゃんは驚いている。

「どこか不自然だと思ってたのよぉ。やっぱりこの事だったんだわぁ」


 私はゆかりちゃんに問う。

「ゆかりちゃん、私、海水が飲めることの何がおかしいのか分からないんだけど……」

私がそう言うとゆかりちゃんは聞いてくれる。


「分かった。世衣加のために説明するわね」

ありがとうございます~。


「皆、突然だけど人の体内の塩分って何パーセントだと思う?」

体内の塩分が何パーセントか? 全然分かんないやぁ。

優秀な皆もうーんと唸っている。


 ゆかりちゃんは分からないのね。やれやれ、と言うように顔を振って言葉を始めた。

「答えを発表します! 皆悩んでいる、人の体内の塩分濃度は約0.9パーセント。一方で海水の塩分濃度は約3.5%《パーセント》。つまり、人の体内にあるべき塩分濃度の約四倍。本来、人間の体は、塩分を摂取した場合、腎臓が余計な塩分を尿として排出するから、常に一定の塩分濃度が保たれているの。だけど海水はさっきも言ったように塩分濃度が体内よりも高いから、海水を飲むと塩分濃度が上昇してしまって、塩分濃度を戻すために更に水を欲するの。そこでさらに海水を飲むとまた塩分濃度が更に上昇して水を欲し海水を飲んで……という風にループしてしまうのよ。長い説明だったけど分かったかしら?」

「うん、大体は。ありがとう!」


「つまり皆は今、海水を飲んじゃったから体の塩分濃度が高くなって水を欲しているはずだけどそうでは無いって事がおかしいって事?」

私は頬に人差し指を添えて言う。


「その通り。それに海への到着経路が漂流でもしていたのなら尚更」

漂着?


「そっかぁ~。海から流れ着いたならもう、沢山海水を飲んじゃってるもんねぇ」

創ちゃんの方を見てゆかりちゃんは頷く。

 

「私達がこの島に来た理由でもおかしいことは沢山。どこかから流れ着いたとしても全員の記憶が無いなんて事は無いだろうしさっき行った通り海水を大量に摂取しちゃってるだろうしね。だからと言って誰かが私達をこんな所に運んでくるってのもおかしな話。本当にこの島は意味が分からない」

うーん、考えれば考えるほど謎は深まるね……。



「この島が普通じゃ無いって事は十分分かった。本題に戻ろう」

そうだった、ゆかりちゃんのせいでとは言わないけど、この島のおかしさについての話になってたんだった。


「今後の事よね……」

ゆかりちゃんは難しそうに頭を抱える。


「ここでの難しい事はこの島が普通ならまだしも変わった島田から対策も普通の島とは変わってくる事ね」

うーん……。


「あのぉ、その件なんだけどぉ、私、考えた事があってぇ~」

何か創ちゃん、自信なさげな雰囲気だけど、意外と話し合いじゃ発言力あるのよね。

いつもくらすで話し合いする時とかも大体司くん、ゆかりちゃん、創ちゃんだもんねぇ。


えてこの島の変わってる所を取り入れてぇ、対策を立てるべきだと思うのよぉ」

司くんは創ちゃんが言ったこと聞き、メガネをカチャッと上げる。


「そうよぉ。この森に生えてる食べ物って食べられたじゃない? だからどんな食べ物でも食べる、とかぁ。私が保証するわぁ」


「保証するって言ったってっ……。本田さん、あまりに無防備過ぎるわ。証拠はあるの? もしもの事があったら、責任なんて取れやしないでしょ?」


「まぁ~、確かにそうだけどぉ~」

創ちゃんは面倒くさそうに言う。


 まだまだ口論は続くのか……。

 確かにどちらの言っていることも納得できる。

だけどゆかりちゃん、厳しすぎる気もして来る。

創ちゃんはふわふわしてるけどどこかオーラを感じる所もあるし。

二人共仲良くしてよぉ。


「まぁまぁ、二人共」

と、司くんが宥めてやっと二人の言い合いは落ち着いた。

いやぁ、次期生徒会長候補の力を感じたよ。


「結局本題について全然話し合いが出来ていない。まず今一番にするべき事は何だと思う?」


「俺は拠点探しするべきだと思うぞ!」

久し振りにずっと黙っていた蒼太くんが言う。


「寝たりするにも拠点は大事だし行動の中心地としても活用していけると思うんだ!」

うん、そうだね……。

少ししか行動してないのに全身が疲れてる感じがする。


「そうだね。そろそろ日が暮れそうだ。拠点を作っておいたら行動が楽になりそうだ。さっきまでもずっと皆が集まらないで困っていたからね」

誰かさんのせいで。と言うような目つきに私達はグキッとする。


「確かになるべく早めに行動したほうが良いと思うな」

こちらもお久し振りの陽太くん。


「あのぉ、寝る所とかの話だけどぉ、流石にこんな海辺に寝るのは私嫌ですぅ。以上です~」

謎の圧に押し負けてしまいそうだ。


「それなら良い場所があるぞ!」

蒼太くんが言う。

そう言えば蒼太くん、私達と合うまでは森の探索をしてたんだよね。


「ついて来てくれ」

蒼太くんは向こうをそそくさと向いた。


「分かったわ。だけど皆で行動するよりも二グループに分かれて行動したほうが効率的だと思うから男子達が蒼太について行って。私達は準備をするから」

男子たちを追っ払おうとするゆかりちゃん。


「別行動ってことぉ? この少人数なのに別行動したら危険じゃないかしらぁ?」

創ちゃんはどうしても男子とは離れたくないようだね。


「そんな事言ってる暇無いだろ! 司と陽太がついてくりゃ間に合うぞ!」

蒼太くんは大雑把な考えだね。


「うぅ、蒼太くんがそう言うなら……」

そう言って創ちゃんは意見を取り下げた。

これでゆかりちゃんの計画通り、完全なる女子だけの空間を作り上げたのだった。



 夕日が差し込む森の中に少し肌寒い風が吹き荒れる。

 俺、再希笑さいきえ陽太は、広瀬蒼太の案内で拠点を探している。

何故拠点を探しているのかって?

そりゃ、無人島に来ているから宿泊するための拠点を探してるんだ。

勿論自分の意志で来たいんじゃなくて、起きたら無人島に居た。


 今はグループに別れて行動してるんだけどさ、何となく怪しい事があるんだ。

まずはゆかりの行動。

グループ分けを提案したのも実際に分けたのもゆかりだった。

これは彼女にしてはとても不可解な行動だ。

彼女は男女関係なく実力や効率を考えてグループを分けるはずなのに荷物を運ぶ可能性の高い仕事に力の弱い二人を持っていった。

拠点なんかも自分が気に入らなかったら絶対文句を言うような奴なのに自分が残るというのも謎。

仲良しと一緒になりたいからと言ってもゆかりは分かるが絶対あいつ、創の事キライだ。

なのに自分から一緒になる理由が分からない。


 他にも創の行動気になっている。

グループ行動に対して以上に反対していたし、言動も気になる。


「そろそろ着くぞ!」

蒼太の大きな声で吠えたのがガンガン耳に聞こえてくる。

もうそろそろなのか。

意外と近いな。


「陽太、さっきから黙り込んでるけどどうかした?」

司が顔を近づけて問い掛けてくる。

司って必要以上に人の心配しがちだよ。


「特に何も。司こそ真面目な顔で考え込んでなかった?」

俺は司に質問で返す。

ずっと仲が良いけど今まで何回質問されたのか分からない。

人一倍どころか三倍くらい質問してくるもんな。


「いや、ちょっと本田さんの様子がおかしいなと思って……」

へ~、司も意外と色々見てるんだな。


「実は俺もその事について考えてたんだけど……」

と、俺が問い掛けた時蒼太が割って入る。


「俺も話に入れろよ~!」

話してる途中だったのに。


「いや、大した事じゃないよ。それよりももうすぐ着くんだったよね」

あ、司がすんなりと流してしまった。


「チェッ、何だよ~!」

蒼太も今日、様子おかしい気がするが気のせいか?



「ここだ、着いたぞ!」

蒼太の相変わらずとしか言いようのない大きな声がする。


「お! 良いじゃないか! なぁ、司」

司に言うと司が口を開く。


「思った以上の場所だね。ここなら皆気に入りそうだ。ここに決定で良いんじゃないかな」

蒼太は自慢げに鼻を擦る。


 もうオレンジ色に染まった夕日に合う、おとなしい雰囲気の木々。並びもとてもきれいで見栄えも良い。小さい泉もすぐ側にある。水の調達が簡単そうだ。それに丁度寝床に使えそうなスペースもある。何かのスポットだと思えていしまうな。

 でも、よくこんな場所あったし探せたな。


「じゃあ女子グループにこっちに用意したものを持ってきてもらおうか」

司の誘導で女子たちを迎えに、来た道へ戻って行く。


 今更だけど、女子たちは何をしているのだろうか。拠点に持って行く物を準備すると言っていたが。

 まああのメンバーなら平和に過ごしているだろう。



 陽太達が拠点を探していた頃――。


「私達は何をしましょうか」

グループを分けたゆかりちゃんは自分達が何をするのかは考えていなかったみたい。


「多分~、良い拠点を見つけてくれるだろうからぁ、私達はぁ、食べ物とかを持って行く準備をぉ、すれば良いんじゃないかなぁ~?」

創ちゃんはゆっくりと木の椅子に腰を掛けながら喋る。


 その態度を見て、ゆかりちゃんはブチギレた様だ。

「ちょっと、本田さん! 私、ずっと思ってたんだけど、貴方、無人島で遭難してるってのに何でそんなに余裕そうなの!?」


「ゆかりちゃん、落ち着いて……」

私がゆかりちゃんを落ち着かせようとすると、

「世衣加は黙ってて!」

と、見向きもせずに厳しい答えが帰ってきた。


 これはまずい。ゆかりちゃん、お怒りモード……。

ちょっと危険なんじゃないか? ここまで来たら。


「私、そんな事ぉ……」

創ちゃんがゆかりちゃんのお言葉にビクッとして言う。


「そう! その喋り方だってそうよ! いつも学校でそんな喋り方してんの!? ふわふわしてる感じが危機感を感じない! 正直に言わせてもらいますけどね、私、貴方の事怪しいと思ってるわよ!」

うわぁ~、思ってること全部暴露しちゃってる。

私は「怪しいって何が?」と言いかける自分の口を塞ぐ。


「でもっ、私いつもこんな感じだよ。ゆかりちゃんが私の事をよく知らないだけ! それにゆかりちゃんだって!」


「何ですって!?」と言うようなゆかりちゃんの視線を避けて創ちゃんは言う。

「ゆかりちゃん、いつもは皆と楽しそうに笑ってるのに、ここに来てからはどうなの!? ピリピリしてばっかり! せっかくなら楽しんだらどうなのよ!」

創ちゃんは早口の大きな声で言って息切れしている。

ゼーゼー言う創ちゃんは、ゆかりちゃんを厳しい目で睨みつける。


「本田さん、喋り方、普通になってるわよ」

ゆかりちゃんは冷静だ。


「も、もうっ、ゆかりちゃんなんて」

創ちゃんは少女漫画のヒロインの様に顔を覆って走って逃げていく。


「本田さん……」

ゆかりちゃんはあぁっ! と言う様に手を差し伸ばした。だが、差し伸ばした手はゆっくりと落ちていった。


「ゆかりちゃん……」

私の口からも小さな呟きが溢れていく。


「世衣加……。流石に私、厳しすぎるかしら?」

ゆかりちゃんは困ったように私の方を見てくる。


「ゆかりちゃんは間違って無かったよ。確かに私もそう思ってた。だけどちょっと厳し過ぎたかもしれないよ。もう一回話せばちゃんと創ちゃんとも仲良くなれるよ」

ゆかりちゃんは私の言葉を聞くと、いつもの様に目をキリッと吊り上げた。


「なら、私、もう一回本田さんと話してくるわ!」

そう言ってゆかりちゃんは創ちゃんの方へ真っ直ぐ走っていく。


 さて、どうしようか。一人取り残されてしまった。

ゆかりちゃんを追うか、それとも男子グループを探すか。


 はぁ、もう疲れちゃった。

私はもう足を動かす気にもなれず、すぐそこにある木のベンチに足を引きずっていく。



 私は、高橋ゆかり。

今は傷付けだだろう相手、本田創を追って、ここまで来ている。

傷付けた理由はあの人の喋り方とか動きとかが合わなくて……。


 もう手が届きそうなくらい、目の前なのに差は縮まるどころか広がっている様にも感じてくる。


 ん? 本田さんが止まった。流石に疲れたのだろうか。

私は本田さんが止まったのを見て、ゆっくりと歩く。


 少し様子を見ているとヤシの木の影に座り込んだ。この人ヤシの木、大好きなのかしら。ここで初めて見たのもヤシの木の所だった様な……。

顔を覆っているという事は泣いているんだろう。

私は本田さんの方へとゆっくりと歩いて行く。


「グスン、グスン」と、如何にも私泣いてる感を出している。

どうしよう。

いや、謝ったら一件落着だろう。世衣加も心配だしちゃちゃっと終わらせちゃおう。


「本田さん」

私は泣いている本田さんの顔を覗き込む。


「ゆかりちゃん……」

私の声に反応して本田さんは目を少し出して、私の方を見る。


 その目は腫れていて、大粒の涙が今にも零れ落ちそうな位沢山だ。

だけど「何?」と言いたげな雰囲気もする。


「私、貴方に言わないといけない事があると思うの……その」

と、謝りかけると本田さんの今まで聞いた事の無いような強い声が聞こえた。


「謝るとかいいから、一人にさせてよ!」

その声には、色々な感情が籠もっている気がする。怒り、悲しみなど。 


「じゃあ、一言だけ言ってから戻るわね」

私はそう言ってから一歩手前に足を引く。


「ごめんね。私、本田さんの事も考えないでヘラヘラしててバカみたいとか言って……。人にはそれぞれ個性があるって分かってたのに」

そう言うと私の目からも、何故だか涙が溢れてきた。


 本田さんからは私の顔が逆行でよく見えていなかっただろう。きっと夕日の色に染まった海が光っているだけで。

だけど、私が考えて居る事が伝わると嬉しい。


「ゆかりちゃん、私の事、そんなに考えてくれてたなんて、知らなかった。私もちょっと素直になれたのかも知れない。ごめん」


 暫くの間、私達は話す事も無く、唯々立ち止まっていた。

私は涙を手で拭うと本田さんの顔をキリッと見る。


「じゃあ、私は戻るわね、いつでも戻ってきて頂戴」

そう言って本田さんを背にすると私の手が誰かに引っ張られた。

首を少し回すと、その光景が見えた。


 私の腕を掴んでいたのは、他でもない本田創だった。

「私、ゆかりちゃんの後に絶対追い掛けるから」

「じゃあね」と後ろから言って来る声が聞こえる。


 私は世衣加の居る方へ走っていく。



 誰かぁ。

私、今、一人になってます。

もともと六人だったのがグループ分けして三人になったらすぐにグループ割れして私一人に……。悲しい。


 もう十分くらいベンチに座って足をブラブラしているだけ。

はぁ……誰か戻ってこないのかな。

皆色々大変何だろうけどさぁ、こんな夕暮れ時に一人で無人島に居るのって普通の中学一年生には厳しいよ~。


「世衣加ちゃん~」

ん、この声は創ちゃん!?


「創ちゃん! 心細かったから良かったよ~!」

私は即座にベンチから立ち上がり創ちゃんの方へ向かう。


「ゆかりちゃんと仲直り出来た?」

私が聞くと創ちゃんは嬉しそうに言う。


「うん~! これからも仲良く出来そう~! 嬉しいわぁ~」

創ちゃん、本当に嬉しそう。


 あれ? だけどゆかりちゃんの顔が見えない。

「――創ちゃん、ゆかりちゃん、どこ?」


 私、テッキリ二人一緒かゆかりちゃんが先に帰ってくると思ってたんだけど……。


「ゆかりちゃん? 先に帰ったと思うんだけどどこに行ったんだろう? 私も知らないよ~」

う~ん、ゆかりちゃんはどこに行ったんだ? 


 私と創ちゃんがゆかりちゃんの行方について話していると元気な声が聞こえてくる。

「拠点、見つかったぞ!」

蒼太くんだ!


「皆お疲れ様。女子グループは何かあったの? ゆかりさんの姿が見えないけれど」

蒼太くんの後についていた司くんはどうかしたのかと首を傾げた。

流石司くん、ゆかりちゃんみたいに観察力や洞察力が鋭い。


「うん、それが見当たらないのよぉ」


「実は創ちゃんとゆかりちゃん、ちょっと揉めちゃったんだよね。で、創ちゃんが居なくなったの。だからゆかりちゃんが探しに行った。そこからは創ちゃんの方が詳しそう」

私は創ちゃんにバトンを渡す。


「私、ヤシの木の下で蹲ってたんだけどぉ、ゆかりちゃんが来てくれてぇ、帰った行ったんだよねぇ。ゆかりちゃんの後を追っていったからゆかりちゃんが先に戻って来ると思ってたんだけどぉ」

私はその場面を想像しながら聞く。


「本田はゆかりの姿、本当に見なかったのか?」

陽太くんは明らかに創ちゃんが怪しいと言わんばかりの様だ。それに何か不自然な気がする。


 そうか、今まで創ちゃんのこと、本田って言ってなかったんだ。

何かあるのかな?


「成程、大変だったんだね。今から皆で手分けして探そうか」

司くんの指示で暫くの間、ゆかりちゃんを探す事になった。

 

 まだ夕日が出てて良かった。

それにしてもここ、中々夜にならないなぁ。ま、便利だから良いんだけどね。



 多分もう、一時間は経ったよね。

私達はゆかりちゃんの捜索をしたけど、全く見つかる様子は無かった。

島の隅々まで探したのに……。


「はぁ、全然見つからないじゃないのぉ」

創ちゃんはお疲れ気味の様子。


「もしかしてこの島にはもう居ないんじゃないのか!?」

蒼太くんは汗を手で拭く。


「そうかも知れないわねぇ、だってこんなに探しているなんてぇ……」

うーん、本当にそうなのだろうか。


「よく分かんないよね、この島って」

陽太くんはこの島に対してか呆れ果てた模様。


「ちょっとお腹も空いてきたし、そろそろ夜ご飯にしないかしらぁ~?」

創ちゃんはポンポンとお腹を叩く。


「えぇ、創ちゃん、もうお腹空いたの。あんなに食べてたのに!」

私は有り得ないと思うが実際、よく考えてみたら私だってお腹が空いている。

どうしてだろうか。


「お腹いっぱいになったと思ったんだけどねぇ……」


「もしかしてこの島の食べ物、食べても食べても腹に溜まる事は無いんじゃないか?」

陽太くんがまた新しいきのみを手に取りながら言う。


 この人、本当に無限に食べ続けてる気がする。

あんなにあった山がもう最後……。


「こんな時、ゆかりちゃんが居たら……」

私は悲しみの声を呟く。

ゆかりちゃん、どこに行っちゃったんだろう……。


 いいや、ゆかりちゃんなら絶対にこんな時にでも諦めない!

何か作戦とか方針……。

……あっ! 私、気付いた……。


「皆、聞いてくれる」

私は思いっ切り手を挙げて言う。


「ゆかりちゃんが言っていた通り、この島はおかしいよね。だって海水も飲めるし、きのみだって食べられる。それって本当? 私は有り得ないと思う。だってそんな島、現実では見たことも聞いたことも無いでしょ?」

それがどうしたんだよと言いたげな蒼太くんの視線を振り切って私は続ける。


「それで私、思ったの。『この島って実在するの?』って」

皆の視線は私に釘付けだ。


「そんな馬鹿なって思ったよね? だけど他にどう考える?」

それは……と陽太くんは口元に手を近づける。


「この島が実在しないと考え、これは夢では無いと思えば……」

夢という言葉を聞くと創ちゃんは頬を掴んで「痛いぃ……」と呟く。


「餓死の危険性がある」

自称、私の綺麗な声が皆の耳に響き渡っただろう。


「餓死? それはどういう意味かな?」

司くんはいつもの手を挙げて首を傾げる行為をする。


「この島が本当に存在しているとしたらお腹だって溜まる。だけどここではどう?」


「え? 私、お腹いっぱいになってた気がするよぉ!」

嘘でしょ~! と創ちゃんは立ち上がる。


「でもそのお腹いっぱいって本当なのかな? 人ってのは満腹中枢が刺激されてお腹いっぱいになったと感じるらしいよね。だけど私達の場合は、食べたと思っているからお腹いっぱいだと思った」


「食べたと思った? どういう事ぉ? 満腹中枢が刺激されてお腹がいっぱいになるのだって同じでしょ~?」

ちょっといつもより真剣風だ。


「いや、満腹中枢は噛む事によって刺激されてるはず。だけど私達は食べていなかった。と、思う。食べ物を口に含んで噛んでいるフリをしてるだけでは? って思うのよ」


「噛んでるフリしてるだけっていうのか!? 皆実際に食べ物、触れてただろ。それに見てたしっ……」


「まあ普通に考えたらそうだよね。だけどさ、もし食べ物を口に含んでいるフリをしていただけだと考えたら私達は今日、何も食べてないよね。これだけ動き回って何も飲み食い出来ないってのは随分とマズい。人は三日飲まず、七日食わずだったら死ぬってよく聞くけど私達の場合は全く水分補給出来ないからあと二日で死んでもおかしくないのよ」


「なるほど、確かにもしもの事を考えたら危険だね。方針はどうするつもりだい?」

司くんを見て私は言う。


「うん、方針はね、脱出方法の考案と行動が良いと思う。もしあと二日で死んでしまうと考えたら脱出してしまった方が寝泊まりする場所を確保する事よりも大事だよね。脱出できるかも考えないと。それにこの島の不思議な点を利用する考え」

この島の不思議な点? と創ちゃんは謎めいた顔をする。


「そう、あれを見て」と、私は空を指す。

「空?」と皆、上を見る。


「ここでは全然夜にならないと思わなかった? 夏だと言っても流石に夕日の時間が長すぎる。異常だよね~。だからね、この島ってずっと夜にならないと考えで脱出計画を立てたら良いんじゃ無いんかなって」

「なるほどっ」と陽太くんは手をポンと打つ。


「もしかしてこの中で一番賢いのってゆかりちゃんじゃなくて世衣加ちゃんだった?」とこっそり呟く創ちゃんの声がする。

いやいや~、それ程でもぉ。

 私、意外と耳良いんだよね!


「早速脱出方法を考えようか」

司くんの仕切りでまた話が進んでいく。


「脱出方法って言ってもぉ、この島って広い海のどこかにあるってことでしょ~?」

うんと私は頷く。


「ならぁ、むやみにどこかの陸にたどり着く事を祈って泳いで行くのって無理じゃない? そもそも私、泳げないし……」

後半に成るに連れて、ブツブツと言う。

まぁ私も水泳、得意では無いんだけどっ……。


「じゃあどうやって脱出するんだ?」

う~ん、と皆同時に唸る。


「そうだわぁっ」

創ちゃんがポンっと言いそうな感じに手を打つ。


「もし世衣加ちゃんの話が本当ならぁ、脱出する所があって良いんじゃない? ほらぁ、よくファンタジー小説とかでさぁ、あるじゃない? ピッカピカに光った扉があってぇ~」


 あ、創ちゃんがファンタジーに没頭し始めた。創ちゃんなだけに。

 

「ファンタジーにもハイファンタジーってのとローファンタジーってのがあってぇ、この場合だとぉ~。ローの方なのかなぁ~?」

皆頭を抱え始めた。


「創ちゃん? お~い、創ちゃん~!」

私は創ちゃんの目の前で手を何回も振って彼女を現実に及び戻す。

 

「あれぇ? あ、私、ファンタジー没頭モードになってたぁ」


 没頭モード……。

確か本気モードもあったよね。

この人何モードあるんだろう。

人格的な感じなのかな……?


「……まぁ、ここが本当に存在していないのであれば、その様な考えがあるだろうね」


「ホントにピカピカのドアが出てくるってか?」

司くん達は創ちゃんの考え方をそれなりに考慮してあげてる風を装ってる様だ。


「蒼太くんはどう思う?」

私はずっと難しい顔をしている蒼太くんに聞いてみる。


「俺はドアなんかが出てくるとかより泳いだ方が全然いいと思う! その方が現実的だろ!」


 うーん、考え方は色々だなぁ。

まあ現実的に考えたら泳ぐという結論に至るのか?

何かもっと違う考え、無いのかなぁ~?

私的には泳ぎたくない……。


「そうだ、SOSよ!」

私は頭を捻って考え出した結果を皆に伝える。


「SOSをここから出したとしたら誰かが気付いてくれるかも知れないけどぉ。この世界からSOSを発信して通じるのかが問題だわぁ。それに通ってくれる人が居るとしても二日以内にって事は難しいと思うんだけどなぁ」

私に続けて創ちゃんが言う。


「でもこの中では一番現実的な考えではあると思うよぉ。ファンタジーが大好きな私でもぉ、ピッカピカのドアは……有り得ないかなぁ。それに泳ぐなんて考えよりも全然良いと思うわぁ! 泳ぐなんて絶対嫌! 無理! それくらいなら死んだほうがマシぃ……」


 無理と嫌を物凄く強調している。

それに死と比較するなんて……。


「じゃあSOSの準備を、と言いたいのだけれど正直に言って眠いから早く睡眠時間を……」

司くんはそう言って目を擦る。


「司はいつも九時に寝てるから眠いのか」

陽太くんは呆れた様に言う。


「えぇ!? 司くんが九時寝ぇ~?」

創ちゃんは驚きを隠せていない。

蒼太くんも目を見開いている。


 意外……。

お坊ちゃまだからかな?


「まぁどうせ睡眠は取らないといけないしぃ、そろそろ寝る~?」

創ちゃんも目を擦る。


 私はいつも十二時とか一時とかに寝るからまだ体の疲れは感じるけど眠くは無い……。

もうちょっと早く寝ようかなぁ?


「睡眠って言ってもここじゃ布団とか色々の準備、出来ないだろ。睡眠なんて必要無いだろ~?」

陽太くんは面倒くさそう。


「陽太くぅん、それなら心配しないでぇ~。私、気付いた事があってぇ」

創ちゃん、何か気付いたの!


「世衣加ちゃんの話を聞いて分かったの~。この島って汚れないし痛くないのよぉ~!」

皆は同時に首を傾げた。


「痛くないし汚れないって?」

私は創ちゃんに聞く。

その私を完全スルーし続ける創ちゃん。

私、今日だけでこの人に何回無視されたっけ? 嫌われてるのかな? 悲しぃ……。


「汚れないってし痛くないってのはねぇ、実際の事なのよぉ。皆、自分の足を見て~」

皆は足を上げて自分の足を見る。

あ、私、スニーカー履いてたんだ。


「……ね、汚れてないでしょ? 一応サンダルとか靴とかはそれぞれ装備してるけど全然砂とかで汚れてないのよぉ。それに痛みも感じてないの、見てぇ!」


 そう言って創ちゃんは近くに落ちてた木の棒を拾って自分の頭を叩く。

驚きの行動の余り、皆驚きまくりだ。


「どうした!?」

司くんが身を乗り出して驚いている。


「有り得ないと思うよねぇ。でも全然痛くないのよぉ。ほんとぉ。何かこの環境って思い当たる物がある気がするなぁ~」

創ちゃんは少し態とらしくもう一回頭を叩く。


「だからさぁ、汚れもしないわけよぉ。だからこのまま寝ちゃいましょって事ぉ~」


 こ、このままって? と聞く前に創ちゃんはその場に横になる。

えぇ、そういう事かぁ……。

すると次々に寝ましたとバタバタと男子が倒れていく。司くんなんて創ちゃんより先に寝ていた。


 一人じゃん、私ぃ……。

ゆ、ゆかりちゃん~……。

会いたいよぉ。

私は泣く泣くその場に横になった。

今日の疲れであっと言う間に眠りに就けたのだった。



 ピヨピヨピヨ

鳥の鳴く声が聞こえてくる。まだ寝かせてよ……。

はぁ、眠い。起きたくない。

だけどグーッとお腹がなる。

喉もカラッカラで脱水症状になっているのかも知れない。


「世衣加ちゃん!」

んっ……。


「起きてぇ~」

……は、創ちゃん?


「ん……おはよう」

私は創ちゃんに揺さぶられた事に気付いてゆっくりと起き上がる。

眠い……と思いつつ、目を書く。


「眠いどころじゃないわよぉ~! 陽太くんが、陽太くんが居ないのよぉ。!」

創ちゃんが大声で叫ぶ。


「えぇ!? 陽太くんがぁ!?」

私はバッと立ち上がる。


「朝起きたら居なくなってたのよぉ。どうすれば良いのか私、分かんなくてぇ……うわあぁん」

急に創ちゃんが泣き出してしまった。

態とらしいと思うのは私だけ?


「えっと……まず落ち着いて。ゆっくりと深呼吸してみて」

創ちゃんは私の指示に従い、フーハ―とゆっくりと呼吸した。


「何があったか説明出来る?」

創ちゃんはコクっと頷いて説明を始めた。


「私が知ってる事は起きたら居なくなってたって事だけよぉ。今、咄嗟に蒼太くんと司くんが探してるけどぉ、ゆかりちゃんの時みたいに見つからないのかなぁって思ってぇ」


 そう言えば陽太くんの様子、変だった気がする。

何かいつもより目が鋭かったし、ゆかりちゃんが居なくなった時の反応が他の人に比べるとどこか違った。

何か関係してるのかな? と思ったけどそれどころでは無い。


「創ちゃん、私達も探すの? 司くん達と一緒に」

創ちゃんは首を振る。


「私達が探した所で見つからない……。男子達もぉ、咄嗟に行動しただけでぇ、本当は私ぃ、探すのは辞めた方が良いと思ってたのよぉ。だってゆかりちゃんの時にあんなに探して見つからないのは普通じゃないわよぉ~」


 確かに創ちゃんの言っている事も一理ある。

だけど級友を見捨てることは出来ない。

 

「私、探しに行くわ、創ちゃんここで待ってて!」

私は走り出そうとするけれど創ちゃんに止められる。


「え、でもそんな、世衣加ちゃん! よく考えてよぉ、陽太くんもゆかりちゃんも強いじゃないの~。二人なら大丈夫よぉ。それよりも脱出方法の考案を急いだ方が良いと思うのよぉ」

いつも通りゆったりしている創ちゃんが少し焦っている様だ。


「でも、考えるって言ったって私達二人で探せば見つかるかも知れないし……そんな風に考えるなら私だって一人で行くわよ!」

私は創ちゃんを後ろにして走っていく。


 さぁ、どうしましょうか。

私、創ちゃんを置いて陽太くんを探しに行ってしまったけど、どこを探そうか……。

それにしてもゆかりちゃんに続いて陽太くんまで……。

次もあるのかしら? もうこれでお終いにしないと。


 それにしてもお腹空いたなぁ。

五分毎にお腹が鳴ってる気がするよぉ。

本当に何も食べてないんじゃ……と、言い出しっぺの私を疑ってしまう。

でもやはりあの理論は論理的思考なんだろう。とポジティブに考えるしか無い。

ポジティブ、ポジティブ。


 こういう時にゆかりちゃんが居てくれるといいのに~。

はぁ、そう言えばお風呂入ってないなぁ……。

私は一日に二、三回位入るタイプだから早く入りたいよぉ……。


 そんな事を考えていると「おーい!」と言う元気な男子の声が聞こえる。

蒼太くんだ!


「蒼太くん、おはよう。司くんも」

蒼太くんは相変わらず活発な感じだが司くんは元気が無さそうだ。


「陽太くん、居なくなったんだってね。見つかりそう?」

私は司くんに元気を出して欲しくて声を掛ける。


「いいや、全然見つかりそうに無い。そもそもこの島に居るかどうかも……」

司くんは顔を伏せる。

どうやら私が帰って元気を無くしてしまった様だね。


「やっぱりあの陽太なら泳いでどこかの島に行ったんじゃないか?」

蒼太くんはどうやら軽く考えているようだ。

そんな蒼太くんに司くんは強く反応する。


「陽太に限ってそんな事、絶対有り得ない! 僕に黙って居なくなるなんて……誰かに誘拐されたとかっ……」

うーん、この島で誰か誘拐出来るのかなぁ。そもそも何で誘拐を?


「誰が誘拐するんだよ! 絶対自分からどっか行ったんだって」

蒼太くんも反抗する。司くんからしてみればキツイご回答。


「まぁまぁ、創ちゃんも交えて話し合いをしたらどうかなぁ?」

私は蒼太くんを抑え込ませて落ち着かせる。

どうしても創ちゃんは自分から動かないらしいからね。


「なら本田さんの所へ連れて行ってもらおうか」

司くんは頭を抱えながらもきちんと落ち着いているようだ。


 私は蒼太くんと司くんを引き連れて創ちゃんの元へ向かった。

ん? あそこに居るのは創ちゃんかなぁ? ヤシの木の下で蹲っている。


「おーい、本田!」

蒼太くんは創ちゃんを大声で呼ぶ。


「どうやら本田さんは泣いているみたいだね。あの様子を見る限り」

司くんは私にひっそりと言って来る。


 うん、どう見ても泣いてる。あんなの、まるでアニメ見たい。

でもどーして泣いてんだろ~?

あ、まさか私のせいとか……?


「創ちゃん、大丈夫?」

私は創ちゃんを心配している風に話す。

風じゃ無かった。

私は創ちゃんを心配して話し掛ける。


「世衣加ちゃん?」

創ちゃんは顔を上げ、私の名前を呼ぶ。

その目には大粒の涙が今にも零れ落ちそうな位沢山溜まっている。


「創ちゃん、どうして泣いてたの?」

私は幼稚園の先生に成った気分で問いかける。


「この島でぇ、皆居なくなっててぇ、世衣加ちゃんも居なくなって私も一人になったからぁ、消えちゃうんじゃないかって思ってぇ……」

段々と創ちゃんの顔は閉ざされていく。


「そんな風に思ってたんだ。私、創ちゃんの事も考えないで陽太くんを探しに行くって暴走しちゃってごめんね」

私は浅く頭を下げて謝る。


「泣いてる所、悪いんだけどね。実はまだ陽太くん見つかって無いのよ。だからちょっと皆で話し合いしようかなって」

創ちゃんはコクっと頷き、私の手に引かれて起き上がる。


「ところで今って何時なのぉ?」

涙を手で拭いながら創ちゃんが聞いてくる。


「うーん、私はいつも絶対七時に起きるからそれから約二時間経ったとすれば九時位かなぁ」


 私がそう言うと創ちゃんは地面にバタッと崩れ倒れる。

「どうしたの!? どこか痛いの!?」

私は先に司くん達の方へ向かって行ったが創ちゃんの方へ駆け戻る。

すると創ちゃんは手を地面に付けたまま首をブンブン振る。


「いつも見てるドラマがぁ……最終回だったのぉ。……なのに見過ごしちゃったぁ……」

跡切れ跡切れに創ちゃんは声を絞り出している。


「朝七時半からのいつものドラマ……」

私も見てた……。こんな事で見過ごすなんて悲しい……。


「まぁまぁ、元気を取り戻して!」

私は創ちゃんを励ます。

私が言って励ませる様な子じゃ無いけど。

……それにここまでショックを受けてるし。

「うん、頑張るぅ~……」


 ていうか頑張るって何を? と思いつつ創ちゃんの手を引く。

「遅いぞ!」という蒼太くんの声が聞こえてくる。

もー、こっちにも色々事情があるんですから。


 

「さぁ、メンバーが揃った所で話し合いを早速」

司くんは気が早い。


「何を話し合うのよぉ」

創ちゃんは大きな丸太に座る。


「えっとね、今後についてとSOSと食料に関する問題とか?」

私は司くんに提案する。


「そうだな! 食べ物が欲しいぞ!」

まぁ食べるのが生き甲斐の人には到底信じられない出来事でしょうね。

でも十分お腹が空いている。お腹が空き過ぎてお腹が痛い気がする。

それと脱水症状がかなり厳しいかなぁって思ってたけどそうでも無いかも。


「お腹空いててるけどぉ、全然飲み物は摂取したいと思ってないわよねぇ」


「そうだね。どうやら水分はそこまで補給は急がないで良さそうだ。だがいつ脱水症状に成ってもおかしくはない。食べ物と一緒に補給方法を考えないと」


 司くんは手で顔を扇いでいる。

「相変わらず暑いなぁ」


 私も司くんのマネをして風をと手で顔を扇ぐ。

でも顔を手で扇いでも涼しいとは感じないね。

ん? 扇いでも涼しくない?

そもそもそこまで暑くない気がする。

もともと快適で涼しくて暑くないんじゃぁ……。

ここでは食べた物を食べたと思っても食べてないし水も飲んだと思っても飲めてない……。

じゃあ暑いと思ってても暑くないんじゃぁ……。


「皆、私、とっても重大な事実について分かった気がするの」

何だ何だと皆は私の方を見る。大注目! 的な。


「皆、今、暑い?」

皆がそりゃそうだろと言わんばかりにうんうん頷く。


「でも、本当に暑いの? 手で風を扇いでみて」

皆が手を出して風を扇ぐ。


「やっぱり手で風を扇いでみた方が涼しくないか?」

司くんは扇ぎ続けながら言う。


 だが私はそれに対して「ううん」と続ける。

「皆そう思ってるだけ。食べ物の時と同じ。涼しくなったと思ってるだけ」

皆は食べ物の事実を知った時と同じ様に驚く。


「そんな事あるのかなぁ?」

私は皆に問う。


「だって体はクーラーに当たった時の様に涼しい気がするよ。暑くないと念じてみてよ」

皆は目を閉じて暫く静かにする。


「本当だ。そんなに暑くない。むしろ学校より涼しい」

司くんは驚いて目を開く。


「ね? だから私はここは本当に存在するのかって考えてるのよ」


「本当に存在しているのかってぇ、痛いから夢でも無いでしょ~? じゃあ何だってのよぉ」

創ちゃんは不思議そうだ。


「何も深く考える必要は無かったの。ここでは痛いと感じているけど遺体見は無いんだから。いいえ、それは間違っていたわね。ここは存在しない――。だけど私は私達は存在する」

皆は難しそうに頷く。


「だから頬を抓った時は痛かった。だけど創ちゃんが木の棒を拾って頭を叩いた時は痛くなかったのは木の棒なんて存在しなかったから。つまり自分の手とかで居た意味を感じられるという事」

おお~! と歓声が上がる。


「でも……」と私は続ける。

「創ちゃん、ごめんねっ!」

私は創ちゃんの顔を勢い良く抓る。


「ヒィッ、い、痛っ……くない?」

一瞬驚いていたが痛くは無い様子。

やっぱり私の考えは正しかった!


「そう。この様に自分が自分を攻撃すること以外の怪我や痛みを感じる事は無いって事」


「成程。この島にはこんな特色があったのか」

司くんは論理的に理解した様。


「よく知らなかったわぁ。だって人の事抓ろうとした人なんて誰かさん以外に居なかったものぉ」

創ちゃんは皮肉に言う。


「で、それに何が関係しているのか?」

司くんは理解が完全では無い様。


「えっとね、だから痛みを感じないって事は私達はそれぞれ、別の場所に居ると言えるのではないのか」

皆はまたはっと何かに気がついたみたい。


「まさか……」と呟く蒼太くんの声が微かに聞こえる。

私はそれ以上の回答までに到達する事は出来なかったけど皆に聞いてみて、新しい考えが出る事はあるのかな?


「皆は何か思い付く事、無い? 今までの事に関係する事」

私は考え込んでいる皆の顔を一人ずつ見返す。

 

「そもそもこの島が存在していないと言うのなら、僕達はどこに居るのかという問題になるのでは?」

司くんはピンと来たようだ。


「そう。でもそこが私は分かんなかったの。皆に相談したのはそういう事。何か案はある?」

私は今の所これ以上の考えに至れなかった。


「うーん、分かんないなぁ」

創ちゃんは頭を振る。


「思い当たる事……」

蒼太くんは言い掛けた事を途中で辞めた。

何を言おうとしてたんだろう。


 そんな事を考えていると創ちゃんのお腹からグーッと大きいな音がした。

私はつい、「ふふっ」と吹き出してしまう。

「やっぱりお腹は空いている様だね。一度昼食にするかい?」

司くんは創ちゃんのお腹の空き具合を見て昼食の時間を取ろうとしているみたい。


 私もかなりお腹が空いている……。

まぁどうせ食べた所でお腹に溜まらない事は分かってるんだけど、なるべくお腹が溜まっていると思いたいから架空でも昼食のお時間は大事なのかな。


 ん?

架空の? と、架空と言う言葉に私は引っかかった。

架空。何か思い当たる事がある気がするんだけどなぁ……何だか思い出せない。

最近どこかで関する事を見た気がする。分かんない。

まぁいっか、お腹が空いたことだし。


 まぁいっか! お腹が空いた事だし。

私達はお昼ご飯の用意に取り掛かっていく。


 これから何が起こるかも知らずに……。



「じゃあまずは食料調達かな?」

司くんが言う。


 これからは昼食の時間だ。

まぁ昼食と言ってもどうせ食べてないんだけど。


「じゃあ各自、果物とかぁ、取ってこよっか~」

創ちゃんはそう言ってトコトコとどこかへ歩いて行く。


 私はどうせお腹に溜まりやしないんだしもう諦めてここに座っておこう。

司くんは創ちゃんと同じ方へ、蒼太くんは二人と真反対の方へ歩いて行く。


 皆は何を持ってくるのかと思いきや十分後。

どうしたんだろう?

司くんが激しい勢いで帰ってくる。

額や手には汗が滲んでいて足はどこか震えている様に見える。


「どうしたの? 司くん」

やはり声はいつもの何倍にも増して震えている。


「そ、蒼太はどこに居るか?」


「蒼太くん? ならあっちに行ったよ。司くんと創ちゃんが行った真反対」

私は日が差し込んでいる方を指で差す。


「本当なのか? 僕、この島を一周した筈なんだけど合わなかったよ……」

そうなの? と言うか十分で一周? それなら全速力で走ってやっとって感じだね。だから手足に汗を掻いてたんだ。


 うーん、何かおかしい気がする。


「ねぇ、司くん。回答では無く質問をして申し訳無いんだけど、貴方、どうして震えているの?」

この異常までの震えはどこから? と言う思いが勝ってしまい、司くんの質問より自分の意見を優先して聞いてしまう。


 私がそう言うと司くんの体が頭からブルブルッと震えが流れていく。

「い、いや、特に何って訳じゃ無い、きっと、島を走って来たからその時の汗が乾いて風邪気味とかじゃ無いか?」

いいえ、それもおかしいわね。

十分間も走っていてもう汗が乾いて風邪を引くなんてあんまりにも速くないかしら?  そんなもの?


「なら私が答えるけど一周してる間に蒼太くんを見なかったってそんなのただ見過ごしてしまっただけじゃない? それと創ちゃんは?」


 創ちゃんと言う名前を聞くと震えがまた蘇ってきた様だ。

どうして何だろうか? 本田創、彼女に対して何か感じている?


「本田さんの話は……しないでくれ」

してほしくない? 何でだろ?

まぁ気にしないでおこう。


「それで司くんは何を言いたいの? お昼の用意をしてたんじゃ無かった?」

私がそう言うと司くんは冷静さを欠いた様に張った声を出す。


「それどころじゃ無いんだ! 陽太だけじゃなく、蒼太まで危ない……速く探し出さないと!」

司くんは血相を変えて走って行く。


 何だったんだろう。

 ん……? 陽太くんだけじゃなく、蒼太くんまで危ない?

それと創ちゃんへの異常な震え。

 この事件の真相が見えてきた気がするわ……。



 昼――。

 僕、隅田司は失踪したゆかりさん、陽太を探して島を回っている。

もう一度状況を確認してみよう。


 まず一日目。

明け方頃に無人島に居る事に気がついて起きた。

陽太としばらく島を回っていたら蒼太と本田さんに会った。

食料調達をそれぞれする事になって陽太と魚を釣っていたら、蒼太達がゆかりさんと世衣加さんを連れて来た。


 ん? 待てよ、このメンバー、何か覚えがある気がするが……。

いつだ? このメンバー……。

……そうか! 修学旅行の班だ!


 いや、正確には本田創が作った班のメンバーなのだ。

思い出せ。

修学旅行の班決めは男女三人ずつで僕はこのメンバーとは全く違う人物と組んだ。

なのに何故このメンバーが修学旅行の班だと思ったんだ? それに本田創が作ったグループだと。

 いや、思い出した。


 班決めをした日は生徒会で遅くなった。

一人下駄箱に上靴を入れ、靴を履こうとした。だが忘れ物がある事に気が付き下駄箱からもう人の居ない教室に戻った。

その時、本田創がメンバー資料を改竄しているのを見たんだ。

教卓に置いてある修学旅行ファイルをペンで書き換えしている所だった。

だがもう遅いし改竄したと言うのも何かの間違いか、また、戻すかもと思い帰った。

教室の中には結局入らず忘れ物は取られなかったのに何で忘れていたんだ?


 待てよ、今日は何月何日だ?

修学旅行に行く日時は十一月十一日から十三日までの二泊三日。

その出来事に遭ったのが十一月八日。

一番最近学校に行った時の記憶だ。

土日を挟んでの修学旅行だったから金曜か。

だとしたら今日は昨日を飛ばして日曜日?

明日は修学旅行じゃないか!?


 いや、それもおかしい。

だって土日は陽太と遊んだし日曜日に毎週放送のドラマだって見てから就寝した覚えはある。


 なら今日は修学旅行二日目の十一月十二日だ!

 だが何故今更この記憶が蘇ったんだ?

そもそも記憶力が学年の中でも相当良い僕が三日分の記憶を忘れていたりなんて有り得無い。

 

 まさかまたあの人物が干渉していると言う事か?

そんな事信じたく無いが可能性は十分だ。

 これで結論が出た。


 僕の思考が脳内を回った時。

「ねぇ、司くん」

後ろから声が聞こえる。


「本田創……」

僕は振り返って本田さんの顔をしっかりと見る。


 本田さんの顔は名前を呼ばれて一瞬強張ったがすぐにニッコリと笑顔を作った。

僕もそれに合わせて無理矢理笑顔を作る。


「司くんはお昼、本当に食べるのぉ~? 世衣加ちゃんはお腹に溜まらないご飯を用意するのは無駄ってゆっくり寛いでるけど」


「僕? 僕が出掛けたのは本田さんが消した人達を探しに行ったからだけど?」

僕の一言で彼女の顔が一変する。


「何言ってるの? 否、そもそもそんな事、した覚え無いんだけどなぁ?」

本田さんは顔を左に向く。


 ふん、よく言うよ。陽太やゆかりさんを消しておいて。


「そうかい? しっかりとした証拠も有るんだけどなぁ。それにさっきから本田さんの口調、変わってるよね。ゆかりさんや陽太の時も、そんな感じだったのかな?」


「そんな事っ!」

いや、いつもの小さいあいうえおが無いじゃん。伸ばし棒も。(小さいつは増えたけど)


「それに血相変えて汗掻いてるじゃん。暑さのせいかな? いや、世衣加さんの言う通りであれば暑さは感じてないんだったね」

僕もちょっと我慢が効か無く成るかもね。怒りが頂点に達しそうだ。


「はぁ、気付かれたと見て間違い無いのね」

そう言って今度は強張った顔から明らかに起こった顔に成る。

こんな顔見たこと無い。


「やっぱり一番に貴方を殺しておくべきだったんだわ!」

彼女は怒鳴り続ける。


 消しておくなんちゃらって自白しちゃってる。


「私がどうしてこの順で皆を消したかも貴方は分かっているみたいね。私がどうして班のメンバーをこうしたのかも」

その問に僕はコクっと頷く。


「メンバーの方はただの想像だったんだけどね」


 でも……と僕は続ける。

「僕が貴方を止める」

ふうん、と彼女は興味の無さそうに言う。


「で、どうやって? 貴方の大事にして居るクラスメイトの命が危ないってのにそんなにカッコ良い事言えるんだぁ?」


 クラスメイト!?

「まさか蒼太か!?」


「さぁ? 自分で確認したらどうかしら?」

と言って彼女は手を横にする。



「世衣加ちゃ~ん」

本田さんがポテポテと走ってくる。(ぶりっ子かよ)


「創ちゃん! お昼はどうするの~?」

優しくお昼について話し掛ける私をガン無視して創ちゃんは続ける。


「そんな事よりも! 蒼太くんと陽太くんが居なくなっちゃったのぉ!」


 え……でも、やっぱり……。

「二人が!?」

私は推測出来ていながらも初めて知った風に驚いた。


「そうなの。私、探し回ってるんだけど見つけなくてぇ……」

成程、皆は昼食と言いつつも消えて居なくなった人を探しに行ってたのか。

いや、この人の場合は違うんだろうけどね。


「そうなの……じゃあ残りは私達だけね」

私は二人だけと言う事に対して大きなチャンスを抱いた。

うん、これは事件の進展に対して絶好のチャンスだわ。


「他に人は居ないしねぇ~」

相変わらずタラタラした口調。こんな事言っちゃいけないって事は分かってるんだけど。


「ねぇ、本田さん。正直に言わせてもらうわ」

私は勢い良く彼女に向かって指を差す。

「何よぉ!?」と『私、可愛い子』をしている本田創に向けて。


「貴方、この無人島クラスメイト大失踪事件に関係しているわよね!」

彼女の顔は驚きと不思議とバカにした表情が混ざった様だ。


「なっ、何よ! その、無人島クラスメイトなんちゃらってのは! バカバカしいっ!」

あ、そこは気にしないで……私が勝手に考えただけだから。


「無人島クラスメイト大失踪事件……それは、貴方が起こした私達の存在を消し去ろうとした事件の事よ! 私が考えたの、その名前!」

名前の由来は無人島で起こったクラスメイトが疾走する大っきな事件って事~!

ま、気にしないで。


「否、私が聞きたいのはそう言う事じゃあ無くて、何で私が事件の犯人にされてるのよ!」

彼女は頭にカッと来たみたいで顔を赤くして起こった様だ。


「バカバカしいも何も全てが計画性のある貴方が起こした事件だもの。概要を説明するわね。まず私が貴方が犯人だと特定した理由」

彼女は私の言葉に目元をキリッと上げて私を見る。


「普通に考えて、誰かに誘拐される以外、自分から消える人なんてこうも沢山居るわけない。つまり誰かが皆を消している可能性がある」

私の推理の途中に本田さんが口を挟む。


「待ってよ、それなら私じゃ無くても良いんじゃ無いかしら? 誘拐なんて私以外でも誰だって出来る! ほら、後半に残ってた司とか蒼太とかが犯人だって! 皆を消すって人を連れて行かないといけないから女子の私よりも体が大きい彼らの方が全然可能性としては高いわよね! ゆかりだって私より色々考えてそうだったし……!」

随分と言葉が焦ってる。って言わない方がいっか。


「ううん、貴方、今までの私の推理を全く聞いてなかったの?」

今までの推理? と彼女は首を傾げる。


「そう、今まで私はこの島についての考察を何度か皆に伝えて来た。それで私、気付いちゃったのよ。『この島が絶対存在しない』って事よ」

「こ、この島が絶対存在しない……?」と彼女は血相を変えて呆然としている。


「私の今までの考えを合わせればある事に辿り着く。それがこの島が絶対に存在しないって事……いいえ、この島は存在してはいけないのよ」


 彼女は説明しろと言わんばかりの顔だ。

「ちょっと!? さっきからあんたが何言ってんのか全く意味分かんないんだけど!?」

うん、ほらね。


「この島に存在しないってどういう事っ……!? 痛みを感じるなら夢でも無いんでしょ!? それにお腹が空いたりって言うのも感じてるじゃ無い! じゃあ何だってのよ!?」

彼女は息切れで言葉が止まった。


「貴方分かってるはずでしょ? だって貴方が仕組んだ世界だもの」

そう言うと彼女はすごく動揺した。


「わ、私が仕組んだ? それに世界!? そんな事っ!」

逃げても無駄無駄。

思い知らせてやらないと……。


「ここは存在する世界では無い……。だけど夢じゃないし痛みも感じる……。つまりここは、『VRの世界』よ」


「ブ、VR!? そんなぁっ!」

うん、トリックを見破られた犯人の反応だな、これは。


「トリックを見破られた!? こんなふ、普通の女に、この私の最高傑作がぁっ!?」

彼女は掻き乱し泣きわめている。


「事件のトリックって何よ? 教えて頂戴」

私は床に崩れ落ちている彼女に話し掛ける。


「は?」

彼女は手で顔を覆いながらも指の隙間から目を覗かせる。


「否、トリックなんて分かっててVRの世界だって言ったんでしょ?」

目を吊り上げて私を睨んでくる。


「え? ううん。VRの世界だって分かってて貴方が怪しいなって思って問い詰めたら貴方が自白してくれたから……」

私はこっちのトリックも明かさないとね~と思っていた事を思い出した。


「ちょっと待ってよ! それならあんたは犯人の確証も無いような人を怪しいって思っただけで追い詰めたの!? 有り得ない! それなら私、事件と全く関係ないんですけどぉ! って言いたいわよ……」

それで言わなかったって事はもう自分の罪を認めたって事よね。


「さ、早速なんだけど質問に答えてよ」


「その質問に私が答えた所でお互いに得は有るの? 私はただ面倒なんだけど」

うーん、やっぱり答えてくれないかなぁ。


「ならしょうが無い、力尽くで吐かせてみようか」


 どうやら力尽くという言葉に反応して言う気に成ってくれたみたい。

「分かったわよ、話すわ……」


 彼女が言うには、自分の父が経営しているVR会社で学校の修学旅行が決定した事によって事件を起こす事を考えたそうだ。

それで班を決めて先生に提出したプリントを放課後に自分の仲良しメンバーに改竄したと。だけどその場面を司くんに見られて自分が嫌いな人を入れて怖がらせてあげようとしてまた再改竄。


「ん? 何で改竄されたのを皆は覚えていないの? 自分の班くらいこの人数なら覚えてるはずだよね?」


「いや、それも親の会社が開発した記憶改竄スプレーで記憶を紛らわせたの。隅田司だけは思い出したみたいだけど」

だから司くんは焦ってたのか。


 で、旅行予定のVRまでも改竄して修学旅行に挑んだと。

改竄どんだけするんだよ。

その改竄先が無人島で後は皆も知っての通りと……。


「待ってよ! それじゃあ皆はどこに!?」

私は聞き終えて取り乱した。


「それは――VR世界上のどこか……とでも言えば良いのかしら」

創ちゃんは自分でも良く分かんないと悲しげに首を振った。


「VR世界上のどこかって……? どういう事なのか分かる範囲で良いから説明してくれる?」

悲しげにしていた創ちゃんが少しでも力に成りたいと口を開く。

心を改めてくれたんだね。改竄ばっかしてた奴が。


「まず初めに、最新のVRってのは眼鏡みたいなのを目につけるんじゃ無いってのは勿論知ってるよね?」

そうなんだ。知らなかった。


「最新のVRってのは脳に電波を送って脳を刺激して夢を見てるのよ。設定さえすれば大抵の夢は見れるわ。貴方って時代遅れなの? こんな事も知らないで」

そうなんだ! 知らなかった。


 ん? 時代遅れ? 私ってそうなのぉ!? 最新ニュースを確認しとくか。いつか。出来れば。


「私を時代遅れ呼ばわりしたのは置いといてあげるけど大抵って事は見れない夢も有るのよね?」


「勿論。人や動物との関わりは出来ないわよ」

物には触れられ無いって事だったよね。


「あ、そっか! だから物が当たっても痛くも無いし怪我もしないんだね」

そうそう、と創ちゃんは頷く。


「うん、だってVR見る時って丸いボールみたいな所に入って見るんだもん。それに危険性があったら出来ないし。本来だったら修学旅行の活動を低価で出来るし安全だからって決まったんだよね。だけど私が場所も変えたし本来なら栄養摂取みたいな事をされるんだけどそれもキャンセルしちゃって……。皆の修学旅行は私のせいでっ……うわぁん」


 ちょっとわざとっぽい泣き方泣き出してしまった。

心を改めても根は変わら無いなぁ。(ぶりっ子って所がかな?)

 

「まぁまぁ、それで丸いボールにそれぞれが入ってるんでしょ? それなのに私達はどうして会話出来てるの?」

今だって。


「それぞれ別の部屋に入ってるんだけどね、同じ空間に居る事になってる人同士は会話出来る様になってるの。ほら、貴方のVRに私が登場してるって事。それはお互いに同じ事」


 そう言って創ちゃんは私の手に触れようと近づいた。

「あれっ?」

すると私の手をすり抜けて通っていってしまった。


「それぞれの行動がボールの中に映し出されて体験出来てるんだぁ!」

私は驚いたがそれよりも大事な事があると思い出した。


「それでVRの世界のどこかってのはどこなの?」


「うぅ……それがね、本来ならタイマーを付けてVRから現実に戻るんだけどぉ、私達の班はタイマー設定が無いの。半永久的に、この空間から出る事が出来ないように設定されてるのぉ……」


 つまりずっとVR人生って事!?

「どー言う事よ! それならゆかりちゃん達はこの無人島に居るんじゃ……!?」


「ううん。実はリタイア機能ってのを付けちゃったの」


 私は首を傾げる。

「リタイア機能……?」


「私が作った機能なんだけどね、無理矢理にこのVR世界から脱出しようとした者をVR世界と現実世界の狭間に閉じ込めて置くっていう機能なの」

世界の狭間……。


「それはどうやって解除するの? 解除する方法はあるんでしょ!? こんなファンタジーの世界なら」


「う……無い事は無いけど……今すぐに解除するには外部からの接触が無いと……」

息苦しそうに彼女は言う。


「なら修学旅行から全然帰ってない事を気付いて誰かが来るかも……」

私の後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。


「そんな甘い考えで思い通りに行く訳無いわよ。世衣加」


「えっ?」


「ゆ、ゆかりちゃん!?」

私の目の前にはボロボロになったゆかりちゃんが。

ううん、陽太くん、蒼太くん、司くんまでもが現れた。


「皆も! どういう事、創ちゃん!? 皆は空間の狭間とかに居たんじゃ!?」

私は「どういう事よ」と創ちゃんに問い詰める。


「私も分かんない……。空間の狭間って言っても意識が無いだけで寝ている状況って言うだけだから脱出なんて出来る訳も……」

この子にも分かんないの?


『それは私が干渉したからだろうね』

何っ!? 

スピーカーの様な音で放送が入る。


「無人島に放送だと!?」

蒼太くんが辺りを見渡して大声で叫ぶ。

だけど一人、ゆかりちゃんは落ち着いた様子だ。


「こ、この声……」

創ちゃんはじんわりと目に涙を浮かべて少し震えている。


 するとモニターの様な画面が表示された。

モニターの中には如何にも科学者という感じの男の人が立っている。


『まずは自己紹介からかな? 私の名前は本田諭吉ゆきち

本田!? もしかしたら創ちゃんの……。


「お、お父さん!」


『創、貴方には後でお話があります』

諭吉さんの後ろから小柄な女性が登場した。

顔からしてもやっぱり創ちゃんにそっくり。


『皆さん、今回はむすめがご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい。創ちゃんの母の本田美幸みゆきです』

諭吉さんに美幸さん……どっちも似てる、創ちゃんに……。


「お父さん、お母さん……。私っ、私……本当にごめんなさいぃ……」

創ちゃんは大粒の涙を目に浮かべている。


「あ、あの! このVRは解除して貰えないのでしょうか?」

ゆかりちゃんが丁寧な言葉遣いで聞く。


『その事なんだが、このVRは予定されていた修学旅行の六泊七日間は外部からでも解除できないような設定になっている』


「そんな……」

と誰かが呟いた。


『君達に水分や栄養素は緊急的に補給させたんだが、後少しだけでも楽しんで欲しいと思って……』

諭吉さんが言葉を言いかけている一瞬の間に無人島が消え、私達は白と黒だけの世界が浮かんだ。


「何だ!?」

司くんがあたふたして驚いている。


『最初に予定されていた旅行よりも何ランクも上の超高級な修学旅行を準備しておいたよ』

そう言って諭吉さんが指をパチンと鳴らすと美幸さんの下にキーボードが出現してエンターキーを強く押した。


 するとその瞬間……。

辺りは色とりどりの大自然に成っていた。

綺麗な緑の木、何種類も有る花だらけに成っていた。


「な、何これっ!? ……す、すごい!」

私は声が抑えきれなく成り、ジャンプしそうな程、嬉しくなって来た。

 

『大森林の体験を予定されていたでしょう? まぁ無人島に飽きているかも知れないけれどねぇ。ふふふふっ』

あ、やっぱり創ちゃんにそっくり! ぶりっ子なのかな?


「うわぁ、綺麗!」

ゆかりちゃんも、


「色とりどりですね!」

司くんも、


「今にも走りたい!」

陽太くんも、


「大自然だなぁ!」

蒼太くんも


「VRってこんな事にも使えるんだわぁ!」

創ちゃんも、皆楽しそう。


『少しの間だけれど楽しんでくれ給え』


『皆さんまたご家族やお友達とのご利用も楽しみにしていますわよ~!』

うん気が早いー。


 するとモニターの画像は消え、私達だけの世界に成った。


「皆、色々酷い事しちゃってごめん! 殺そうとしたり……。何が起こるかも知らないで……。だ、だけど私をっ、VRを嫌いにならないで! 楽しもうねぇ~!」

一言なのに切り替え早い!

やっぱり創ちゃんらしい。


「さ、行きましょ!」

ゆかりちゃんに手を引かれ、私達は未知の世界に走り出して行く。

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無人島サバイバル〜修学旅行に行くはずだったのに〜 アキラ @hisanoakira

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