四 相棒
その後、荷物をまとめ、誰にも告げずに学校を出た涼香は、校門前に止まっていた黒いクーペの助手席へとノックもなしに乗り込む。
「はい。おつかれさん。今回の報酬だ」
すると、運転席に座っていた黒コートに白マフラーを首から垂らす、七三メガネの中年男が厚い封筒を彼女の前へ差し出す。
「チッ…あんだけ苦労して20万ぽっちかよ。もっと給金上げられないわけ?」
封筒から札束を取り出し、手早く枚数を確認した涼香は、あからさまに不満げな態度でその男に文句をつけた。
「無理言うな。今回の成功報酬50万の内、カツアゲ代含む諸経費さっ引いた半分もやってんだぞ? 得体の知れない〝呪い〟代行なんて、価格設定あんまし高くすると客が寄りつかないしな」
対して悪どい顔立ちをしたその男は、肩をすくめながら理路整然と涼香にそう反論をする。
「てめえはいいよな。そうやって高みの見物してるだけでいいんだからよ。こっちは毎回、心身ともにダメージ喰らってガチでしんどいんだぞ? せめて三分の二はよこせよ」
「おいおい、ガキのおまえじゃ信用なくて仕事取れないだろ? そこを俺がマネージメントしてやってんだから当然の配分だ。その他裏方の工作も俺がしてやってんだしな。俺が仕事とって来て、おまえが実行する……ま、お互いwin-winの関係ってことでこれからも仲良くやってこうぜ」
その反論にさらに機嫌を悪くする涼香であるが、男の方はどこ吹く風にそう答えると、見るからに狡猾な笑みをその顔に浮かべてみせた。
この男、
ちなみに涼香の着けている〝臨界点お知らせ装置〟を作ったのも彼である。
「とても信用あるようには見えねえけどな……ま、とりあえず仕事終わったことだし、あたいも疲れたからしばらく休業するわ。自殺を擬装して姿晦まさなきゃならねえしな」
「いや、次の依頼がもう来てる。安心しろ、ここからはだいぶ離れた地方だから、おまえが
一仕事終えた感に大きく毛伸びをし、長らくの休暇を申し出る涼香であったが、それを黒井は許してくれない。
「はあ? どんなブラック企業だよ? 一月いじめに堪え抜いたいたいけな少女をまた地獄の日々に戻すってか? てめえは鬼か悪魔か!?」
「またまたあ。んなこと言って、〝呪い〟発動時の爽快感が忘れられないくせに……さ、依頼人が待ってる。張り切って次の人助けをしに行こうじゃないか!」
当然、文句を口に抗議する涼香だが、黒井は手をひらひらと振って真に受けてはくれず、意気揚々とクーペを発進させる。
「てめえ……ハァ……人助けねえ……」
そんな黒井に言っても無駄と諦めた涼香は、腕を頭の後で組むと、ひどく疲労の溜まった身体をソファの上にゆったりと埋めた。
こうして、飛部涼香の〝呪い〟稼業は今日も続く……。
(臨界少女 了)
臨界少女 平中なごん @HiranakaNagon
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