第4話
梅雨の時期を迎え、ジトッとした嫌な気分は味わうものの、二ヶ月前に思っていた退屈や閉塞感、といったものはない。
結花さんは、あの出来事のあと、ますます俺に近づくようになり、笑顔を見せるようになった。
「浩平、お昼休み、どこでお弁当食べようか?」
「雨が降ってるだろうから、食堂しかないけど、それでいい?」
「いいよ。行こう」
結花さんは俺のことを下の名前で呼び捨てしてするようになった。
「――ユイ、すごく変わったね」
「森崎さん」
結花さんと会話したあと、森崎さんが俺のもとに現れる。
「館野君のことを話す時のユイの顔、すごくにこやかな表情をするの。それってさ、ユイは館野君のことを好きになってるからじゃないかなって」
「森崎さん、その『好き』って、友達としてじゃなくて、ってことですよね」
「そうだと思うよ」
「……そうか」
やっぱり、そういうことかな。
結花さんが俺のことを
自分からでもいいし、相手からを待ってもいいかもしれないな。……まあ、もう少し様子を見てみるほうが懸命かもしれない。
――そうして、梅雨が開けて、夏休みが近づいた頃。
夏の星座を見ようと、結花さんに誘われて、河川敷に来ていた。
よく晴れていたおかげか、星空がよく見える。
「プラネタリウムもいいけど、こうやって星空を見るのもいいよね、浩平」
「あぁ」
心の距離もかなり近づいた。結花さんは俺のことが好きなんだと思う。……異性として。
それとなく探りを入れてみたから大丈夫だと思う。
「……そう言えば、浩平って、私以外に好きな女の子とかいる?」
「いないよ」
「…………そっか」
今が好機か。
「――あのさ、結花」
「なに、浩平」
「俺は、望月結花……。君のことが好きだ」
恋人になってほしい、という言葉そのものである。
「…………。――私もだよ、浩平」
俺の顔をしっかりと見て、返答をする結花。
「私も好き。愛したいの、あなたのことを」
「結花……」
スマホのライトを起動させて、俺の居場所をしっかりと確認する結花。そして――。
「…………結花」
「浩平……大好きだよ」
満天の星空の元。俺達は彼氏彼女の関係となったのだ。
△▼△▼△▼
恋人同士になって、初めてのプラネタリウム鑑賞に出かけることとなった俺達。
結花は、ストローハットに夏物のワンピースにおしゃれなサンダルを履いていた。
「結花、その服装が好きなのかい?」
「好きというよりは、浩平とデートするときは、この服装って決めているの」
「なるほど」
そして、二度目のプラネタリウム鑑賞。今度は最初から結花は俺の手を握っていた。
握られた結花の手は暖かく優しさを感じる。
彼女の顔を見ると、この前と同じように真剣な眼差しで映像を見ていた。
本当に結花は星空が好きなんだな、って思えてくる。
それでいて、俺が側にいてほしい……ということかな。
プラネタリウムを出たあと、普通のファーストフード店に入ることになった俺達。
量が多く入っているフライドポテトと、チキンナゲットを注文する結花。
飲み物は、俺がゼロカロリーのコーラで、結花がストレートのアイスティーだった。
「量が多目だったら、浩平とシェア出来ると思って」
「あぁ、なるほど……」
チキンナゲットにソースを付けて、差し出してきた結花。
思わず「へっ?」と反応してしまう俺。周りを見てから、差し出されたナゲットを口に運ぶ。
「フフッ」
「ゆ、結花……」
結花はニヤニヤと顔をほころばせている。
「ンッ……」
今度はポテトを口に咥えて、キスを誘っているように見える。
周りを確認してやっているのだろうが、それがなんとも策士というのか、なんというのか。
ともかく、俺はそのポテトを口に咥えてみると、彼女の唇に触れてしまったのだ。
「――ッ!?」
思わず、唇を両手で抑え込んでしまう俺。
「あははっ。引っかかったね、浩平」
「ゆ、結花……ッ」
「だって、浩平とイチャイチャしたかったから。恋人になれたのに、そういうことができてないなって思ってさ」
「それだからって……」
一応、周りの目もある。……というか、誰かが見ているかもしれないんだぞ……。
まあ、でも、やってしまったことには、取り返しはつかないしな……。
そして、この前と同じように、JRの改札口でお別れ。
「また学園で会おうね、浩平」
「あぁ」
結花はにこやかな表情を俺に見せてから、プラットフォームに向かっていった。
△▼△▼△▼
家に戻った俺は、悶々としながら夕食を食べていた。
「どうしたの、コウ君」
「えっ」
美咲姉さんに声をかけられてハッとする。
「心ここにあらず……って感じだけど」
「あ、……。あぁ、実は……」
姉さんに事の経緯をすべて話した。
「…………なるほどね。コウ君は結花ちゃんのことを本気で好きになっちゃって、今でも会いたい、って思ったりしてる、ってわけか」
「そういうことなんだよ」
「でもさ、結花ちゃんとは学園でも会えるんでしょ? それなら、明日が待ち遠しいな、ってならない?」
考え方を変えろ、ってことか。
姉さんの言葉に頷く俺。
「それならいいじゃない。明日、結花ちゃんに『こんなにも好きなんだ』って伝えればいいと思うよ。恋人同士ならなおさらじゃない?」
「わかった、そうしてみるよ」
――翌日の放課後、俺は姉さんに言われたことを実行しようと、結花を屋上に呼んだ。
夕日がキレイな空模様。ちょうどいい塩梅でもある。
「どうしたの、浩平。私を屋上に呼び出して……」
「昨日のデートからずっと……」
そう言いながら、結花を抱きしめる俺。
「こうしたかったんだ」
「…………浩平」
「俺さ、結花を心が苦しくなるぐらい、好きになっていたなんて思いもしなかったんだ」
「……私もだよ、浩平」
優しい瞳で俺を見つめる結花。
そして、どちらからともなく、唇を重ねる。
「私も、おんなじ気持ちだよ。浩平をこんなに好きになるなんて思ってもみなかった……」
「結花……」
「浩平……大好きだよ」
愛され、愛するを覚えた俺は、もう退屈や閉塞感を感じない。
だって、俺には愛する人がいるのだから――。
モノトーンの日々に色が付くまで 鳴海真央 @hazel-owsla
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