第6話 突然

「工藤さん、早く食べたほうがいいよ、顔色悪いし」僕の声に対して、工藤さんは一言だけ発した。「うるさい…」僕らがいるのはキャンプ地ではない。レストランである。生憎キャンプ地には食事がなく、無理矢理引きずってここまできた。その為、工藤さんはこういう風になっているのである。不貞腐れた姿も可愛いが。「だってさ、顔!めちゃくちゃ青白いじゃん!」事実、工藤さんの顔は青白い。どうやら睡眠も十分に取れていないようである。彼女にとっては、ここにきて睡眠をしろというのが無茶な話だが。「いっつもこんな感じなの。心配しないでよ…」工藤さんの声はどこか力がない。「キャンプ地に戻るんだから…」口調まで変わっている。立とうとするがよろけている。相当しんどいのだろうか。気合いだけで彼女はここに立っているのだと推察した。「このまま行ったら、倒れちゃうよ!帰った方がいいって!」この言葉がまずかった。工藤さんの逆鱗に触れてしまったのだ。「田中くんなら分かってくれると思ってたのに!一人で行ってくる!」工藤さんは、レストランの扉を開けて外に出てしまった。その数秒後、外から声がした。「おい、誰か!うずくまって、立てない女の子がいるぞ!」良い予感は当たらないのに、悪い予感は当たるらしい。

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これは鯉ですか? 銀華 @ginkaa

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