9/16 ※ネタバレ注意 荒木飛呂彦『ジョジョリオン』


 S市杜王町を襲った大震災から半年後――隆起した「壁の目」と呼ばれる場所で、発見された一人の青年。記憶を失っていた彼は、定助と名付けられ、杜王町でフルーツパーラーを営む東方家の養子となる。パワーがビジョン化したスタンドのソフト&ウェットを持つ定助は、自分の正体を探るうちに、様々なスタンド使いと対峙することとなる。

 一九八六年に『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部がスタートし、主人公を交代したり、世界観を一新したりしながら続いたシリーズの第八部の物語。月刊誌の『ウルトラジャンプ』にて、二〇一一年から二〇二一年まで連載された。


 連載当時は、単行本で追っていたのだが、いつの間にか、読むのをやめてしまっていた。そして、仙台旅行に行くのだから、ちゃんと完結まで読みたいと、改めて読みだした……第九部がスタートして、盛り上がっている一方で。

 プアートムによる東方家への攻撃が始まった、十八巻から約一か月で二十七巻まで一気読み。しみじみと、「ジョジョっていいなぁ」と思えた。


 ジョジョシリーズは、主人公同士が血縁関係者で、世代交代していくのが最大の特徴だが、定助は、名前を「ジョジョ」と略せるところ、首筋に星形の痣があること以外は、他の主人公とのつながりがない、異色の主人公である。その正体は、意外と早い段階で判明するのだが、定助はその先の自分のアイデンティティをこれからも求めていく――という風に、私は解釈している。

 定助に関するシーンで、一番感動したのは、自分の半身である「吉良吉影」の実母のホリーが寝ている姿を見て、自分には彼女に関する記憶はないはずなのに、自然と涙が出てきたところ。この人が自分の母親だと確信し、彼女を助けることを誓うのだ。後に、定助のもう半身の「空条仗世文」も幼少期にホリーに命を救われていたことが判明し、より感慨深いシーンとなった。


 振り返ってみれば、「家族や大切な人のために尽くす」のシーンが、色々と見受けられる。憲助は体が石になる奇病の治療のために、母親の体と等価交換してもらったり、常敏も将来息子のつるぎが同じ病にかかるのが分かっているため、あくどい手を使ってでもそれを阻止しようとしたり、そもそもこの杜王町での東方家の呪いの始まりは、ジョニィが妻の理那の奇病を直そうと聖者の死体を盗んだことがきっかけだったりする。そして、ラスボスである透龍との決着シーンも……。

 「自分と家族の幸福のためならば、何を犠牲にしてもかまわない」というのが、常敏の考える強さであった。それは父の憲助と真っ向から対立し、その報いも彼は受けることになるのだけれども、その根幹には家族への強い思いがあって、だから、「悪ではあるけれど、嫌いにはなれない」キャラであった。


 その一方で、定助と東方家に対峙する岩人間は、非常に利己的だ。仲間同士で協力することもあるが、あくまでビジネスライクであり、容赦なく切り捨てる非情さも持ち合わせている。それは、岩人間が人間とは違う過程で進化していった生物であり、スズメバチに寄生して成長するという点からも、人間とは交じり合えない生き物だと感じ取れる。

 岩人間の人間への利用の仕方が何かに似ているなぁと思ったら、まるで家畜のようだと気が付いた。金銭を毟り取り、実験動物として扱い、こちらへ向けられる愛情だって利用する。おぞましいほど効率的だ。だが、何も知らないものを利用することが「悪」であることは、この八部でも一貫している。


 最後に、透龍のスタンド「ワンダー・オブ・U」は、自身を追おうとした人物に厄災をぶつけてくるスタンドだが、これは透龍自身のスタンドというよりも、世に流れる厄災そのものであるかのように、描写されている。連載前に東日本大震災、連載中も新型コロナのパンデミックと、異なる厄災を経験したからこそ、荒木先生がカバーに書いた「厄災は乗り越えるものではないかもしれない」という言葉は重い。

 実際に、作中では「ワンダー・オブ・U」に殺された主要人物は四人もいて、定助の悲願だったホリーの治療も達成できなかった。だけど、どれだけ苦しめられようとも、厄災に立ち向かい、希望を繋ぐことはできる。それもまた、人間賛歌なのだろう。


 余談だが、八部のスタンドは、個人的に好みのものが多い。「ペイズリー・パーク」は、見た目とその能力で、私が一番欲しいスタンドだ。他にも、攻撃方法がかっこよすぎる「アウェイキング・IIIリーブス」と、汎用性が半端ないトリックスターの「ペパームーン・キング」も好き。

 『ジョジョリオン』は、サスペンス要素が強いためなのか、スタンドの演出方法もすごく印象的なことが多い。「ボーン・ディス・ウェイ」の登場とか、「ビタミンC」の恐ろしさと「ウォーキング・ハート」での大逆転とか。「スピード・キング」とのクワガタ相撲だって、忘れちゃいけない。……なんだかんだで、ベストシーンがいっぱいあるなぁ。

















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感想魔はかく語りき 夢月七海 @yumetuki-773

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