いのちのひ

有栖れの

いのちのひ

「ねえ、せっかくなのにそんな顔しなくてもいいんじゃないかな」

 少女は目の前に座る青年に、ほんの少しおかんむりだった。わざとらしく、少しじっとりとした目を心がけて、ものものしく声のトーンを落とす。

「それにこの花はちょっとなあ……いや、ものすごくキレイだよ?でも私、オレンジ系統の花が好きってよく知ってるでしょ?まさか忘れてないよね……というかこれ、花屋さん、おしべとるの忘れてるじゃん」

怒ったふりは到底長続きしない。

花粉、服についちゃうと洗ってもとれないから気をつけなねぇ、と彼女はからからと笑い、ついで自分のために用意されたごちそうに、きらきらと目を輝かせる。

「うさぎりんご作ってくれたんだ!てかうまくなったじゃん、もしかしてこっそり練習してくれてたの?耳がちぎれてないし、変色もしてない!まあ塩水ちょっと苦手だから砂糖水にしてほしかったんだけど……でも本当に嬉しい!このケーキも私の好きな駅前のケーキ屋さんのだよね?覚えててくれたんだぁ」

 火のともったふたつの蝋燭。目の前の青年の瞳のなかで、橙の光がゆらゆらと揺れている。


 プレゼントはくれないの、と少女が悪戯っぽく囁く。

 暫く時が流れて、漸く虚空を見つめた青年が、ぽつりと呟く。

――大好きだったよ


 どうして過去形、と彼女は透明に笑う。

「私はまだ大好きだよ」

――ねえ、十何年越しに私は振り向いてもらえたわけだけれど

――今度は、何年たったらまた私と目を合わせて笑ってくれるのかな

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いのちのひ 有栖れの @arisu_reno

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