【超遅レス】2022F1日本GP観戦記【レース描写・専門用語少な目】

飛鳥つばさ

第1話

 去る2022年の10月8日9日と、三重県は鈴鹿サーキットにF1日本グランプリを観戦してきました。

 何年かぶりのF1観戦となりますが、大きな理由としては一度角田裕毅選手を見ておきたかったのです。

 角田選手は正直2021年も2022年もかんばしい成績を残しておらず、この時点で2023年もF1に乗れるかは流動的な状況。「来年はないかもしれない」との思いが、私の足を鈴鹿へと向けさせました。

 欲を言えば2021年に見ておきたかったのですが、残念ながらコロナで中止。ホンダF1を生で見れる機会は、今のところなくなってしまいました。

 実を言うとこの時点でもコロナへの心配は少なからずあったのですが、そこは「ええい、コロナを食らうならこのイベントと覚悟した!」と思い切りました、


 鈴鹿までの経路は、関東某所から新幹線を経由しての鉄道です。

 これが国内のスーパーフォーミュラとかスーパーGTなら、自分のクルマで行っちゃうんですが。F1となると、さすがに周辺道路の渋滞ががが。

 この旅の中で、いくつか立てていた小さな目標がここでひとつ。それはかの「シンカンセンスゴイカタイアイス」を食べることです。新幹線内ではワクワクしながら車内販売を待っていたんですが……不運なことに名古屋までに販売が来ず。目標達成はひとまず保留となってしまいました。

 そして名古屋からの経路も、これまで何度か経験した鈴鹿への旅路とは変更。

 前例に沿うなら近鉄で白子駅を目指すところを、JRから伊勢鉄道を利用しての「鈴鹿サーキット稲生駅」着。そこからサーキットまで歩き! のプランにしてみました。

 白子駅からシャトルバスでサーキットに向かう方が楽なように思われますが、今までの経験ではシャトルバスまでの待ち時間がめテラ長く、バスを降りてからも入場ゲートまでメチャ歩きで、「これなら稲生駅から歩いたほうが早くね?」と試してみることにしたのです。

 このバクチは大正解。伊勢鉄道総動員+臨時バイトの皆さんが、普段は文明の果てのような鈴鹿サーキット稲生駅で盛大にお出迎えしてくださる中、快適に入場ゲートまでたどりつくことができました。


 そして入場ゲートをくぐると……いや実は名古屋駅からすでになんですが。いるわいるわ、レッドブルのシャツの大群衆。もうそこら中レッドブル、少々アルファタウリ、ごくまれにフェラーリ。そんな観客の皆さんのファッションです。

 そんな中で私が選んだ衣装は……知る人ぞ知る「スーパーアグリ」F1チームのシャツ&帽子。ここ一番の勝負服です。……しかしこれ、いつどこで手に入れたものやら、私の記憶にはさっぱりない一品なんですな。あの当時は私もびんぼーで、こんなものを買える余裕はなかったはずなんですが。

 そんな「ナントカの中にナントカが一人」状態の私は客席を目指して群衆にもまれるわけですが……どうも観客のコントロールが甘い感じがしました。3年ぶりの開催でサーキット側のカンも鈍っているのか、それともやはりコロナの影響で私のほうが敏感になっているのか。

 観戦エリアは角田選手の応援に来たわけですから、当然「アルファタウリ応援席」です。正直入場ゲートからも結構歩くところですが、そこは実用性ではなく感情を満足させることにしました。


 自分の席について、F1練習走行を見た第一印象。

「あれ? F1、記憶にある姿よりなんだかたいしたことない……」

 音もいまいち迫力に欠けますし、コーナーでのクルマの身のこなしも、スーパーフォーミュラのほうが上のように見えました。

 音はたぶん「高さ」ですね。私の記憶に残る、あの耳をつんざくような甲高い音からはだいぶ遠くなってしまっていました。隔世の感だなあ。

 しかし予選のタイムアタックが始まると、そんな不満感はいっぺんに吹っ飛びます。

 サウンドの迫力、コーナーの身のこなし、それは確かに練習走行とそれほど違いません。しかしなんというか、クルマのまとう「殺気」が、予選の本気走りだと一味も二味も違います。やっぱF1すげえわ。

 そんな大迫力の予選を制したのは、2022シーズンノリにノッてるマックス・フェルスタッペン。齢わずか17歳でF1デビューを果たし、当時は「公道で運転できないF1ドライバー」として話題になった天才です。

 彼みたいな早熟の才能は、私大好きですねー。今のモータースポーツのステップアップ・システムはとにかく経験を重ねていくことを重視していますが、地道な努力をあざ笑うかのようにひと飛びに頂点まで行き着いてしまうような天才たちが、正直これからも現れてほしいものです。


 一夜明けて決勝の日。

 再び鈴鹿の地を踏んだ私がまず向かったのは、売店エリアです。まずはお買い物が本日の目的です。

 お目当てはレッドブル・チームシャツと、次にアルファタウリの以下同文。余裕があればフェラーリも。

 成果としてはレッドブルは無事押さることができたものの、アルファタウリはとっくに完売。フェラーリもシャツはなく、代わりに帽子を買うこととなりました。

 ひとまず物欲を満たして、ふたたび客席に向かう途中、スタンド裏に小さな売店があったのでちょっと覗いてみたら。

 セナの帽子、売ってるやん……!

 もう条件反射で「セナの帽子ください!」

 そしたら、スタッフのお姉ちゃんの頭の上にでっかいハテナマークが浮かびました。

 ひとまず「これください」と指さしてその場は取り繕ったものの、内心大ショックであります。


 鈴鹿で、この鈴鹿で! 「あの」セナを知らないなんてことがありえるのか~~!?


 もう予定外の出費なんかよりも、そっちのほうが私にとっては大問題なのでした。


 さて席について。わざわざ現地に足を運んだからには、メインイベントだけ見て帰ってしまうのはあまりにもったいない。前座イベントを楽しんでこそのライブ観戦です。

 F1の前座は「ポルシェカレラカップジャパン」。このレース、前日の予選で目を付けた一台が私にはありました。

 それは各車個性あるスポンサーカラーを身にまとう中、ひとり銀無地というストイックというか、ミもフタもない言い方をすれば貧乏丸分かりな17号車です。

 貧乏つながりで心中ひそかに応援を決めたものの、予選でも予想通りと言うか、ドベに近い順位だった銀無地17番。接触・コースアウトも出た荒れ気味のレースを無事走り切ったものの、これといった見せ場はなく、ノートラブルで走り切った中ではドベという結果に終わりました。

 ……いいのよ。こういうレースは参加することに意味があるのですから。


 前座レースで楽しみにしていたのは、実はもうひとつありました。

 それは女性ドライバーだけの戦い「Wシリーズ」。この観戦も、今回の小さな目標の中のひとつでした。

 しかしWシリーズは事前に鈴鹿での開催中止が決定。その後、資金不足により、シリーズ全体の終了が告知されることとなってしまいました。

 こういうカテゴリーは、ほんと続けていくのが難しいご時世ですねぇ。JuJu選手も見たかったんですが。


 前座レースが終わると、鈴鹿ではオフィシャルの動きが活発化します。

 いやコース整備ももちろんするのですが。観客にアピールして、ウェーブの練習なんか始めるのですね。

 隣で首をひねっていた観客Aさんは、鈴鹿での観戦は初めてなのかな? 少なくとも私がこの地に来た限りでは、こういったオフィシャルのパフォーマンスは毎度の恒例となっています。さすがは鈴鹿、オフィシャルのノリもいい。

 もちろんノッてあげるのが、正しい鈴鹿サーキットでの観戦作法というものです。


 ワールド・チャンピオンシップに付きまとう一連の「儀式」も終わり、あとは肝心のスタートを待つばかり……という時になって、にわかに空からポツポツと落ちてくるものが。

 雨は事前の天気予報でもあったのですが、こんな最悪のタイミングで降りだしてしまいました。

 しかしF1決勝は予定通り決行されます。

(なんとか皆、無事で走り切ってくれよ……)と祈る中、各車スタートは無事にキマッたものの、やはりと言うか1周目にしてクラッシュ発生! イエローフラッグ、全車スロー走行です。

 さらにはクラッシュしたクルマの撤去のために入ったクレーン車と、速度を落としきれなかったクルマがニアミス! ここでレース中断が決定してしまいました。

 降りしきる雨の下、クルマのいないコースを前に、まんじりともせず待ち続ける時間が続きます。

(もう決勝見るのはあきらめて帰っちゃおうか)

 何度もそう思い、席を立ちかけました。

 しかしそんなタイミングに限って「何時に再スタート予定」とアナウンスが入るんですよねぇ……。

 カッパはもちろん用意して来たものの、伝導熱で確実に体は冷えていきます。こりゃあコロナじゃなくて普通の風邪をひくハメになるんではないかと、待ちながら覚悟を決めました。

 もう(この再スタート告知が流れたら今度こそ帰ろう)と決めたそのタイミングで、ようやくレース再開です。


 そんな我慢のレースの中で、前日の予選から光っていたのが、この2022年限りでの引退を表明したベテラン、セバスチャン・ベッテル。正直戦闘力の落ちるチームとマシンで、今できることを全部出しきっていた感じでした。

 徐々に路面が乾き、各車雨用タイヤから晴用タイヤに履きかえる中で、履き替えのタイミングをずらす博打に出ます。その大胆な戦略も実って、見事上位でゴール! この日一番の注目を一身に集める活躍っぷりでした。

 1位のほうは終始安定した走りを見せたマックス・フェルスタッペンが横綱相撲。え? 角田選手? ええ、終始安定した走りで後ろの方にいましたとも。まあ無事にゴールしてくれただけで見に来たかいがあったというものです。リタイアも多いですからねえ、彼。


 レースが終了してから、にわかに鈴鹿&ネット周辺に怪情報が錯綜します。

「この勝利でフェルスタッペンのシリーズ・チャンピオンが決まりらしい」「いや、ここでは決まらないルールのはずだろ?」

 中断のせいで十分な周回数を重ねられず、ルールに沿うならフェルスタッペンはチャンピオンを決定するだけの得点を得られないはず。いやもっとよく読め。ちゃんと満点を取れているんだ。

 鈴鹿にまたもまんじりともしない時間が経過します。

 結局、フェルスタッペンは満額の得点を得られることが正式に決定。競争相手の得点との関係もあり、このレースでF1ワールド・チャンピオン戴冠となったのでした。

 とはいえ、やっぱりしっくりしない感情は残りましたねぇ……。


 スタート延期とゴール後の混乱で時間を取られたこともあり、帰りは脇目もふらず超特急です。

 新幹線の車内販売は回ってきましたが、体冷え切ってます。シンカンセンスゴイカタイアイスは、またいつかのお楽しみとなってしまったのでした。

 総評すると、苦労のわりに100%の成果は得られなかった今回の旅路でしたが、あらためて思い知ったことがひとつ。


「なにか好きなモノがあるなら、それは一度でもいい。誰か/何かごしではなく、自分の目で直に見て損はない」


 やはりライブでしか味わえない空気、画面越しでは伝わってこない情報量というものは確かにあります。

「テレビ/パソコン/スマホでなんでも見れるやん」というそこのあなた。あなた自身の目で、耳で、鼻で、口で、体で感じることのできるモノを馬鹿にしてはいけませんよ。

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