追記 ある女

戦争が終わって間もなく、女は「不死兵の丘」を探した。


丘を見つけるのは容易かった。

己の名前を呼ぶ声を追いかければよかった。


殆どの善良な市民が近づく事のない戦場跡は立入制限をされるわけでもなく捨ておかれた。

金を払えば運んでくれる連中は海にも陸にも空にもいる。

陸地などは戦場跡付近になると戦争の為に整備された導線が走り、非常に順調な旅路だった。


女は丘に着いた。


丘の麓で靴を脱ぐ。

己の名前を呼ぶ声の主、その名前を呼びながら丘に足を踏み出す。よじ登ったり横に動いたりしている。


赤黒い丘は女が飛びついた途端に脈打ち、膨張して表面が張り、赤く暑い何らかの液体が至る所から吹いたり滲んだりして湯気を上げるた。

丘は赤く染まった。


女は何かを見つけて手で触り目を閉じた。

数秒そのまま。

次に目をぱっちり開く。

ベルトとボタンを外しズボンを脱ぐ。

下着を下げ、屈む。

先ほど見つけて触った何かを優しく掴み、自らの入り口を近づけ、そっと当てる。

確かめるように柔らかく擦り付け、瞬間に浸るようにじっくりと挿れる。

丘の斜面に手を付き、腰を上下に動かす。

時折り痙攣しながら、汗を流し、涎を垂らし、息を切らせて、肩にかかる髪を乱す。

細かく姿勢と動き方を変えながら四半刻交わった後、動きが止まった。

頬が一筋濡れる。

腰と喉がヒクヒクと震える。

ゆっくりと腰を上げる。

入り口から赤いものと白いものが混ざった液体が滴り落ちる。


丘は脈打ち、ゆっくりと動きを止めた。

それまで絶え間なく蠢き呻いていた丘が、止まった。


連れの者たちはその間止める事もない。

神の御姿を初めて目にしたように、見惚れるのみであった。


女は下着とズボンを履き丘を降り、連れの者たちに一礼すると踵を返しその場を歩き去った。


連れの者たちは女の姿が消えるまで見送った。女の姿が消えても暫くは女が行った方を見つめ続けた。

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不死兵の丘 @rinktak

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