第28話 利益と後援者

 「二人ともなんか食べないの? 別に近く海で取れる魚を食え、なんて言ってないからね!? 私が作ったおにぎりはダメなのかぁ……」

ジュンカが口を開く。

「……毒の混入の可能性があるので、基本的に量産されたもの以外は食べないようにしてるんですが……」

「え、まってなんか犯罪者意識高すぎじゃない!? 」

ロゼットさんは、なんかすごいレベルだなぁ……と感心している。

「……ロゼットさんは良くも悪くも健康体ですよね、犯罪者だけど」

「みんなひどいわ! 早寝早起き朝ごはんって言うよね!? まぁ私は睡眠時間無くても大丈夫系だけど、せめて昼ごはんは食べよう! 」

スピアがため息をついてから言う。

「僕、近くのコンビニでなんか買ってきますよ。ジュンカ、なんか食べたいもの本当に無いのか? 」

「……ゼリーで」

「えぇぇここでゼリーか! センスがすごいねぇ……」

ジュンカはロゼットさんの言動に処理が追いついていないようで苦笑いを浮かべているだけだった。

「じゃあ早めに戻るんで」

そう言うと彼は足早に去っていく。

その背中を見届けていたロゼットは、よし! と一人呟いてからパソコンを立ち上げようとする。その時、ジュンカは冷徹にも言葉を吐いた。

「……あなたは、一体どうしてこんなことを……」

え? とロゼットは振り向く。

「ん? もしかして、君の命拾いをした私のことが気に入らなかったかな? まあ安心してよ、とりあえず今は……」

「いや、どうしてあなたはスピアにここまで協力的なんですか? 上司と部下、という関係だけなのか気になったんですが」

ロゼットさんは数秒間固まっていたが、ツボってしまったらしく顔を両手で抑えて和霊をこらえている。

「……フフ、まさか私がスピア君のこと大好きです〜的な展開を想像してるんだったら、ぜんぜん違うよぉ〜! 彼は確かにイケメンかもだけど、私のタイプじゃないんだよねぇ……」

あ〜ホント面白い〜と言いながら笑っているロゼットを、ジュンカは表情を変えないまま不思議そうに見ていた。が、すぐに無表情に戻る。

「そういった趣旨の意味ではなく、単純に私は疑問に感じただけです。末端組織員まで含めれば数千人はいるであろう犯罪組織ダークホースに所属している一人を、ここまで丁重に扱っていいのですか? 」

ロゼットは顔から手を払い、いかにも楽しそうな顔をした。

「……まぁそこまで丁重には扱ってないと思うんだけどなぁ。ま〜でも、理由は一応あるけどね」

ジュンカは何も言わずに、近くに置いてある椅子に座る。

「私はこれでも『幹部』だから、どうしても利益を追求しないといけないわけよ。他の組織員の5倍、下手したら10倍以上の功績、つまり利益を上げてるんだよスピア君は。まぁ、彼のレベルがおかしいっていうんだろうけどねぇ〜」

彼女はパソコンに向かい直し、電源を入れる。

「……それはつまり、彼はダークホースにかなり利益を出している『後援者』だから彼を助けている、ということですか? 」

「まぁそうなるね〜」

ジュンカは少し逡巡してから、口を開く。

「そうですか、それだけ、なんですね」

少しの沈黙があった後すぐに、ジュンカは立ち上がりトイレに向かった。

ロゼットはパソコンにコードを打ち込み始めていたが、一瞬だけ手の動きを止める。

フッと笑ってから、彼女は独り言を呟いた。

「……まぁ私の大切な人から、彼のことをからねぇ……」


 数分も立たない間に、スピアが昼食を買って戻ってきた。

「ジュンカ、一応いくつかゼリー買ってきたんだが……」

「……すいません、とりあえず冷蔵庫に入れておいてもらえますか……? 」

ロゼットは、おかえり〜と言いながらもキーボードを打ち続けている。

「ロゼットさん、どうしたんですか? 本部の方でなにかあったんです? 」

そう聞かれた彼女は、いや……と言葉を濁す。

「君たちのことが、どれだけ広まってるかをちょっと調べてるんだよね……。まあ後は他の人の仕事についての連絡とかだから、心配しないで〜」

スピアは、そうですか、と言ってゼリーをしまい、奥の居間へと向かった。

ジュンカは、彼のあとをついていく。


 彼女は、居間の扉をゆっくりと閉める。

窓から見える景色を眺めていたリョウは、彼女の姿を捉えると安っぽいコンビニのパンを机に置いた。

「どうした? 」

彼は、少し大きめのワイシャツに身を包んだ彼女のことを見つめる。

ジュンカは、一瞬の迷いを見せたが、間髪入れずに、はっきりと言った。

「……気づいているんですよね、あなたなら……」

リョウはかすかに首を傾げる。

「何のことだ? 正直言って、心当たりが……」

「どうして、いまだに連絡が来ないんでしょうか? 」

ジュンカは、自らの握りこぶしを強く握る。

リョウは、視線を微かに落とし言う。

「…………ミヤモト・アカネのこと、だよな? 」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

果てしなき二人の逃避行 〜殺し屋たちの懺悔〜 ウメコ @umekoumeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ