大学生でも遅くないよね
@akatonnbo0612
第1話 見たことある展開
「青春」
と、聞いて皆さんはいかがお考えでしょう。
青い春と書いて青春。
甘酸っぱい恋模様や仲間との楽しい時間。
制服に青い空。高校のチャイムに窓から聞こえてくる運動部の掛け声。
こんなものを想像する人がきっと多いだろう。
そう。青春の舞台の多くは高校である。
どこもかしこも高校生の恋愛・友情。
それが青春のイメージである。
反対的に、高校は青春をするところ、というイメージもつきつつある。
このような痛々しいものを頭の中で延々と書き連ねている僕は、
この春から大学生である。
はい。先程言っていた青春の舞台である高校は、
何事もなくきれいな空白のまま終わった。
要するに陰キャと呼ばれる僕は、青春なんてものの日陰でひっそりと高校生活を過ごしてきたのだ。
そして拗らせに拗らせた中二病は、このように周りをひがむ性格に大変身。
現在は大学のサークルでの自己紹介の真っただ中。人前で話すのが嫌な僕は、いかにも青春楽しんでから来ました!みたいなやつらの自己紹介を聞き流しつつ頭の中で痛々しいポエムに勤しんでいた。
幸いなことに僕の順番は最後の方のようだ。
「はじめまして。渡良瀬恵といいます。出身は栃木県です。よろしくお願いします」
ニコっととってつけたような笑顔で無理やり終わらせる自己紹介。そもそもこのサークルへの入部は教員に半ば強制されたようなものだ。
こんなスムーズにしゃべる陰キャは居ないと言われそうだが、僕は外面だけはいいのである。こんなことを言うと更に痛い奴になってしまうが、これだけは自信がある。
この能力だけで中学、高校と先生たちに目をつけられずひっそりとやってきたのだ。拗らせ中二病野郎は、一度自信を持つととても痛々しいほどに自信を持つ。
サークル代表のあいさつを聞き流していたら、もう解散となったようだ。
この後に飲み会とやらがあるようだが、そんなものは知らん。陰キャは直帰でボイチャしながらゲームをするのだ。
さて、荷物をまとめて帰ろう。飲み会に強制送還されないうちにな。
初日のなので荷物が多く入るように背負ってきた大きめのリュックサックに手をかけ、入学式でもらった書類と先程購入した教科書たちを入れる。
教室の隅で荷物を整理していると後ろから人が近づいて来る気配がする。
「ねぇねぇ。渡良瀬君、だよね?ちょっといいかな?」
なんてことだ。全然知らない女性に声をかけられてしまった。
高校時代はネクタイで学年が判別できたものの、大学は私服。
誰が何歳なんて到底把握できない。
特に大学は留年やら浪人やらで同じ学年でも年齢が違うなんてざらにある。
怪しくないよう、敬語を使っておこう。
「はい。渡良瀬です。なんでしょう?」
できるだけ外行き用の笑顔で振り返る。
こんな風に呼び止められるなんて何かしただろうか。それとも…
などと様々なことを頭でぐるぐると考えている。挙動不審になっていないだろうか。
「よかった。このあとちょっと付き合ってくれないかな?」
……あれ?なんだこの展開は。
冷や汗をかいてきた。先程まで手汗が出ていたが今は額の汗が止まらない。
「…大丈夫ですよ」
こういうことは断らない方がいい。と、僕の直感が告げているので大人しくついていくことにする。リュックを背負い女性の後を追う。
距離を置いて歩いているとストーカーや不審者として通報されかねないのでなるべく距離を詰めて歩く。
正直あまり気は乗らない。知らない人だもん。
目の前を歩く小柄な女性は、すたすたと歩いていく。
しばらく歩き大学構内にあるカフェテリアに入り、隅っこにある席に座る。
目の前に座った女性はカバンから水筒を取り出し口にする。
僕は冷や汗をかきながら延々と根暗な思想を続けていた。
今日は学校全体で授業が無いらしく、お昼時だというのにカフェテリアも空いていた。僕がオープンキャンパスに来たときはもっと賑わっていたはずだ。
「さて。渡良瀬君、時間ありがとね」
「いえ、暇だったんで平気ですよ」
取ってつけた様な笑顔を披露しながら社交辞令を述べる。
僕が暇なのは事実だが、直ぐに帰ってうだうだとゲームがしたい。
目の前の女性はどこか懐かしむような顔でこちらを見る。
なんだろう。とりあえず愛想笑いを続けておこう。
「ねぇ。渡良瀬恵くんだよね?」
「…そうですけど、なにか?」
二回目の名前確認をされる。
何か失礼なことをしてしまっただろうか。
不安になり周りに視線を動かす。
「やっぱりね。みい君は覚えてないか~」
恵はその一言で固まる。
時が止まったかのような感覚。
久しぶりに聞いた呼び名。
思考がまとまらない。
「私、富山佐那っていいます。よろしくね?」
大学生でも遅くないよね @akatonnbo0612
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