みつけたのは
コウノメメ
一話完結
みつけたのは
真夏の人気のない昼間の公園。草が生い茂り蝉たちの合唱がはじまっていた。わたしは恐る恐るやけに黒光りした物体に近づいていた。
高まる心臓の鼓動、暑さを煽るような蝉の鳴き声。
少しずつわたしの心臓の鼓動は太鼓の鼓動へと変わっていく。もう手を伸ばせは触れられる距離にまできた「せぃいやっ!!」筋肉むきむきの男がわたしの心臓を鼓動させる。「せせせーーいっや!」その瞬間わたしはただならぬ気配を感じた。
「だい!大丈夫っですか?!」
ものすごい勢いで男がやってきた。
「…あいや、あのう」とわたしが話しだす前に「大丈夫?!ですか!?……息は?」
と呼吸を確かめる。
「……」
男は一生懸命にも見えたのだが、焦っているようにもみえた。しかしわたしも気が動転しており、男の格好なんか気にもしなかったのだ。
「……してない」
わたしはつい口に出してしまった。男の表情が一瞬強張るのがわかり、わたしは言い直した。
「してない!脈はどうですか?」
「み、み、みゃく?!」
「……どうですか?」
「……ない。……脈ない!!」
わたしは至って冷静だったので
「救急車呼びます」
「はい!……いやっ、冷たいです」
「し、死んでるん……ですか?」
このときわたしは夏の暑さなんて忘れていた。
「ええ……えっ!だれ?」
「え?」わたしは後ろを振り返る。
「いやあなた!いつから!?」
……この男は今まで誰と話していたのだ。
「いや、今、ずっと」
「ちょっと!待ってください!」わたしの言葉を遮るかのように、そして急に距離を置いてきたた。動揺するわたしに男は疑った。
「あ、あんたが……?」
「ち、違いますよ!」
「あ!ごめんなさい!」
「ごめんなさい?」
「おれ、倒れてる人のようなのも見つけて、”え?え?人?いや、嘘でしょ“ってもう慌ててきたんです」
「あ、ああ。そうですよね……」
「どうするんですか!?死んでますよ!」
急に他人事のように言われても、死んでるならもはやどうすることもできやしなじゃないか、ここは話を合わせよう。
「し、死んでるんですか……?」
「だってほら!」男はわたしの腕を掴んで、死体の腕を触らせようとするのでわたしは慌てた。
「いや!い、あ。とりあえず救急車、呼びますね」
「警察でしょう!?」
「え、でも……。わかんない」
「死んでるんだって!これは!もう」
「そうなんですか?」
「そうだよ!」
……もし、まだ生きていたら、助かる命だったら、さんさんと太陽の光がわたしたちを裁くかのごとく照らしてくる。
「なんでわかるんですか?」
「え?……脈ないし、息も」
「ちょっと!待ってください!……あなたが殺ったんですか?」
「いや。え?」男は挙動不審をはじめた。ここぞとばかりにわたしの脳みそはフル回転を始めた
「そうか、そういうことかぁぁぁ!!あなたさっき私を疑いましたよね?」
「何が。何が?」
「慌てたふりして、誰かがここに来るのを待ってたんでしょ?」
「えっ?え?」
「救急車よりも警察ぅう?ふつう救命が先じゃないですか?私に触らせようとするのも何か。あれか。あれ……、あれですか。あれですよね!証拠をなすりつけようとお考えですか」
「はい?」
「私がこのまま警察に電話をすれば、わたしは第一発見者となり!あなたは通りかかったみたいな人になる」
すると男は異常に興奮してる様子だった。
「ああ!そうか!!つまり、そうやって自分は関係ないですよアピールですか?!偶然通りかかって、何かな何かな?って見にきた!ふりをして!いたら!私が!ここに!来てしまった!そして、触ってしまった!死んでいるのに!!あからさまに死んでいるのに。あたかもまだ生きてるかのように横たえさせていたんだ。あんた最低だな!!」
「はぁあああ??!」
「じゃ!じゃ触れよ!じゃわ、しゃわってみろよ!ほら!」
やはりわたしの読み通り完全に男は気が動転している。しかし、ここで掴まれてたら圧倒的にわたしが不利になってしまう。わたしは男に気づかれないように距離をとった。
「やめろっ」
「ほらっ!おい!こっち来いよ!」
「やめろっ、やめろって!」
浜辺で遊ぶ憧れの男女やりとりが永遠と続くような気がしてもう汗が止まらない。蝉の鳴き声は強さを増し、なぜか少しずつ拍手が聞こえてくる、もう気を失いそうになる寸前。わたしは叫んだ。
「やめろぉよぉぉぉっ!!!」
あたりはしーんと静寂がおとずれた。
「すみません」正気にもどったのか謝る男に、わたしも謝る。
「あの…」
「あ、すみません」
息が合うことにわたしはつい舌打ちをしてしまうが
「や、いや……あ、どうぞ」
「いいえ。どうぞ」
「いや。どうぞ!」
しばらく男はわたしを見つめて
「なんていうか……なんだろう……」
なんだよ。
「なんですか?!」
わたしは少しドキドキしていた。
「こんな時……どうしたらいいかわかりませんよね?」
男は初めて人と心を開いたかのように笑顔でそう言うと、わたしも照れくさくなった。
「そ…そう……ですね。実際どうしたらいいかわからないもんですね」
「へへへ」
「へへへって。……あの、すみません!なんか疑ってしまって」
「いいえ!よくあることですよ!」
「そうですかね」
「そうですよ!あなたはちょっと考えすぎだ」
たしかに。わたしはここ最近考え事ばかりでがんじがらめになっていたかもしれない。」
「……やっぱりそうですかね!」
「うん。なんかそんな感じするよ!最悪の事態を考えてますって感じ!最悪なんてほぼ起きま!せん!!」
「はい……。ありがとうございます。」
「とんでもありません」
「あっ。でもそちらも、もうちょっと慎重になった方がいいと思いますよ。慌ててるというか自分が自分が〜!って感じだから」
「そう……か。気をつけます」
「わたしもなんですけど……あんまり一生懸命だと、ストレスでいつか爆発しちゃうかもしれませんよ!」
「そう。ですね。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
わたしの夏はまだきっと終わらない。
「なんか名残惜しいですけど……これで」
「はい……」
きっと夏が来るたび思い出す。
「……それじゃ!」
「それじゃ」
あなたのことを。
蝉の合唱は続いていた。わたしはふと思い出して振りかえった。男の背中が血のようなもので赤く染まっていたことを。あまりにもダサい格好で忘れていた。
完
みつけたのは コウノメメ @hisakn3
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