魔女の誕生日

天西 照実

魔女の誕生日


 魔女にとって誕生日は特別な日。

 一年で一番、魔力が満ちる。

 だから、一番大きな魔法が使える。

 一番大きな魔法を、使うべき日なのだ。

 でも、それは魔女しか知らない。

 誰にも命令される事なく、魔女が自分のために使えるように。

 誕生日が特別である事は誰も知らない。



 魔女の森の魔女の家の魔女(役職名だから長くてもしょうがない)になって、早いもので数年がたった。

 師匠である婆さんはベテラン魔女だったから、亡くなった時にはとても惜しまれた。

 でも、ありがたい事に『この子に全てを伝えた』と、周りもわかるように言葉を残してくれた。

 おかげで、若すぎる弟子が使い物になるのかなどと、あからさまには言われず仕事をもらう事が出来た。

 私は、魔女の仕事で食べていける。


 師匠は魔法と一緒に、民衆への見せ方を教えてくれた。

 わかりにくい魔法が必要なら、先に現状を(特に困っている部分をやや否定的に)説明するとか。

 何をどういう魔法で解決するかを(こういう方法がと肯定的に)伝えてから発動させるとか。

 驚かれるような大きい魔法なら、自分は魔法を使うべき時と場合がある事を理解していると伝えるのも大事(恐がられないようにね)。


 そういう訳で、誕生日の魔法だ。

 これは仕事じゃない。

 こうあるべきなんて、誰かの尺度で口を出される事もない。

 だからこそ迷ってしまう。

 誕生日まで、ずっと考えていた。

 ……迷う。でも必要な迷いだ。

 私の、一番の望み……。



 コツコツ。

 家の戸が鳴っている。

 ノックとは違う、小さな音だ。

 実は、少し前から聞こえ続けている。

 バラバラバラ……。

 今度は、小さいものがたくさん転がるような音が聞こえた。

 考え事の最中に、何の音だろう。気になって仕方ない。

 そういう時は、確かめればいい。

 気になっているままでは、考え事も進まない。


 私は、きしむ木戸を開けた。

 木戸の向こうに積まれていた、木の実の山がバラバラと崩れた。

 小さな木の実、大きな果物、薬草やキレイな花束まで置かれている。

 その向こうには、森の動物たちの後姿が見えた。

「――あっ、待って!」

 慌てて、声をかけた。

 動物たちの中に、小さな魔獣や妖精も混ざっているではないか。

 みんなが振り返り、笑顔を見せてくれた。

『誕生日、おめでとう!』

『おめでとう!』

 森の仲間たちが、口々に言った。

 彼等には私の誕生日を教えていたのだ。

「……ありがとう」

 魔女とはいえ、人間である私を森の仲間として受け入れてくれている。

 私も、余所で森を壊している者たちと同じ人間なのに。


 ここは魔女の森。

 そう呼ぶのは人間だけ(妖精も呼んでたっけ?)。

 私にできる一番大きな魔法でも叶うかわからないけど、彼等のために願おう。

 この森が安心できる棲み処として、彼等が幸せに暮らせる場所であり続けますように。


 それが、私の願いだ。

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