第40話 想い遙かに~グスタフが語った総統ユリウスと叔母エリザベートの恋の真実

「父上、お伺いしたいことがあります」

と、マルデク情報省長官オスカー・フォン・ブラウンは、屋敷に帰るなり、

急いでいるらしく、あまりにも唐突に、父グスタフにある話について切り出した。


「どうした? いつも沈着冷静なお前らしくないが、何が知りたいのだ?」


「叔母上について知りたいのです」


「誰のことだ?」


「ユリウス総統の許嫁(いいなづけ)だったという、エリザベートという名の叔母上についてです」


「誰から、何を聞いた?」


「ある者が言うには、総統と叔母上は結婚の約束をしていたが、王家の長女であった

ヘレナが総統に恋をし、王家は無理矢理ヘレナと総統を結婚させようとしたが、上手く行かなかった。しかしユリウスはヘレナとの結婚を断るために、叔母上との婚約も破棄し、その結果、叔母上は自ら死を選んだと・・・」


「だいたいはあってるが、違っているところもある」

と、父グスタフは息子オスカーに言った。


「これは私しか知らないことなのだが、ユリウスがエリザベートとの婚約を解消したのには違う理由があったのだ。


 ユリウスはシャンバラへ行くことを望んでいた。

 シャンバラは、女人禁制の場所で、妻帯者は行けない場所なのだ。

 ユリウスは婚約を解消するとき、私にだけは本当の理由を言った。


 シャンバラへ行くことになったので、エリザベートとは結婚できない、と・・・。

 まだ決定の招待状は届いていないが、もうすぐ届くとシャンバラの使者から言われた、と言っていた。

 エリザベートには、招待状が届いてから本当の理由を話すはずだった。


 しかしそのことを知らなかったエリザベートは、ヘレナとユリウスの結婚話が持ちあがったこともあり、心の病を煩い、結局は最後に、死を選んでしまった。

 あの時のユリウスの狼狽ぶりと、自分を責める姿は、見ていてとても辛かった。

 それでもシャンバラへ行き、新しき希望に満ちた世界を実現できたなら、それも宿命なのだろうと言っていた。


 しかしなぜだか、ユリウスのシャンバラ行きの話は、いつの間にか立ち消えになっていた。いつまで経っても、招待状は届かなかったのだ。

 そしてユリウスは失意のせいで、人格が完全に変わってしまったのだ」

と、グスタフは言った。







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「光の天使」番外編 オスカー・フォン・ブラウンの恋  来夢来人 @yumeoribitoginga

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