第33話 ◯ ~大団円~

いつの間にか影木は駅前、燦燦と照りつける太陽の下にいた。随分長い間を◎で過ごしたはずだったが、現実世界の時間は最初に転送された瞬間の直後らしかった。


「む? おお、影木君」


「あら、なんで転送前は気付かなかったのかしら。白学ラン、結構目立つわね」


 改めて周囲を見渡すと見知った顔を発見した。互いに歩み寄り、何となしに話し始める。


「いや、しかし悔しいな。世界中の人々に眼鏡を掛けるという私の夢は叶わなんだ」


「──イイメちゃんって、改めてヤバいのね」


(こればっかりは良かったわ、流石に私の作品が切っ掛けでそんなトンデモ世界改変が起きたら、責任取れないもの)


「うーむ、だが最終盤の駆け引きで蚊帳の外だったのは、素直な意味でも悔しいな」


「そう? 私、今回一番凄かったのはあなただと思うけど」


 実際、多くのことを見抜いていた影木だったが、赤糸と同様最初から〇のルールを知っていたり、原作の知識があることで不自然さを見抜けたり、そもそも協力者がいたりと、盤外的なアドバンテージを数多く持っていたのもまた事実だった。嘘を見抜く能力のような飛び道具もなしに、ただただ自力で頑張っていた雄々原には、ただただ感服する。

 しかし雄々原は納得しないようで、悔しそうに「むむむむ」と唸る。


「そうだ影木君、個人的にいくつか答え合わせがしたいのだが、この後時間はあるかね?」


「いいわよ。けど待ってね、他の人は」


 と、見渡す影木の後ろから声がかかる。


「おい」


「うわっ!?」


 影木と雄々原が驚いて声を上げる。そこには特攻服を着た金髪と、褐色肌の少女がいた。


「って、あら、クフちゃんとジュウちゃん」


 赤糸の額に青筋が浮かぶ。


「待てよ。ずっとスルーしてきたが、そもそも何でお前がジュウちゃん呼びしてんだよ?」


「こら、凄まないの。僕は別に良いってば」


 そんな中、雄々原が懐から眼鏡ケースを取り出し、青月をじっと見る。


「ふむ、太陽の下だと印象が変わるものだな。この日当たりで似合う眼鏡があるのだが」


「──暴力禁止のルールはもうねえんだったよな?」


「こ、こら」と、青月は窘める。

「賑やかね」と適当に纏めつつ、影木は周囲を更に見渡し──。

 そして、この場にそぐわない程絢爛なドレスを着た少女を見つけた。服装はボロジャージではなかったが、しかし髪型は据え置きの、その如何にもな令嬢風の少女である。


「! シキルちゃん!」


 呼びかけると、向こうも気付いたらしく駆け寄ってくる。


「み、皆さん。え──っと、ご機嫌麗しゅう?」


「その前に──何だね、その格好は。パーティにでも出席するのかね」


「し、私服ですわ? た、多分。以前はこんな感じでしたもの」


 生流琉本人にもよく解っていないようだった。これが世界改変の結果ということだろう。


「えーっと、生流琉さん。多分何か勘違いしていたよね、僕のこと」


「あ、そ、その節は、え、えーっと」


「あ、いや、気にだけだって。何はともあれ、勝利おめでとう! 素敵なドレスだよ」


 そう言って青月は微笑んだ。生流琉は複雑な表情のまま頭を下げる。


「ね──その辺りの事情も含めて、みんなで反省会、打ち上げでもしましょう?」


 影木が提案し、そして生流琉を見た。


「食事に行こうって言ってたものね、『キルキルさん』」


「! は、はいですわ、『まるさん』!」


「ふむ、答え合わせの時間だ」


「ふふ、それなら僕もお邪魔しようかな。この辺りに来るのも久々でね」


 何か吹っ切れた様に軽やかな青月の様子に、赤糸は思わず笑みを零した。


「ああ、アタシも行こう」


「む、なんと、君も笑うのかね」


「あ? なんだコラ。言っとくがアタシはお前がジュウちゃんに眼鏡掛けた件もまだ──」


「タルトちゃんはどうする?」


 そんな中、影木が言った。いつの間にか彼等のそばにはタルトが立っていた。


「食事と言いつつ、喋るんでしょ」


 眉をひそめて断ろうとするタルトの手を、がっと、生流琉が掴んだ。


「あ、あの──お話、しましょう。もう勝手にお菓子を取ったりしませんわ」


 しばらく沈黙が流れたが、やがて根負けしたようにタルトが溜息を吐く。


「──なら条件。定期的にテーブルを指で叩きながら『嘘』を言って。そうじゃないと、口の中が苦くて耐えられないのよ」

 

 そして、物語は幕を閉じる。

 六人は非日常の舞台から、日常へと引き戻されていく。

 余談だが、食事に向かった彼等が座ったフードコートのテーブルは、丸いテーブルになっていた。



 それを見た6人は、互いに顔を見合わせ、小さく笑いあったそうだ。

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