ボクと愛とお弁当

「王理ー助けてください、私もうだめかもしれません」


「藪から棒に何を言っているんだい」


 ボクと愛があの場所で出会ってからひと月くらいは経っただろうか。

 さすがのボクも雪がちらつき始めた季節になった事で昼食を摂る場所を変えた。

 あのベンチの場所から更に奥まった場所にある、小さな温室の中だ。


 学園で庭木の手入れをしている女性のガーデナーさんとはボクがこの中等部に上がってからの仲だったりする。

 彼女との出会いは……、まあ今は関係ないので良いだろ、そんな彼女から寒い時期限定でここを使う許可を貰っているし、愛が使う事も許可をもらっている。


 愛とボクの関係はそこそこ距離が縮まったと思う、最初は「王理さん」と呼んでいたボクの事も「王理」とだけ呼ぶようになり「さん」が取れている。


 最初は少しずつ試すようにたまに変えたりと色々画策していたようだけど、ボクが特に怒るわけでも指摘するわけでも無いのを確認し「王理」とだけ呼ぶようになっていた、そんな愛の毎日の奮闘がおかしくて可愛らしくてなんともえ言えない気分を暫く味わっていた。


 王子さまと呼ばれるより全然いいし、王理様なんて以ての外なのでボクは「王理」と呼ばれる事を気に入っている、特に愛に呼ばれる事がなぜかわからないが心地いい。今のボクと愛の関係はこんな感じだ。


 回想はここまで、冒頭の続きになる。


「王理って成績良いですよね、今度の期末がピンチなのです、もし今度も赤点を取るようなら最悪退学になるかもしれないんです、助けてください」


「今度も? 赤点? 中等部のテストで赤点は酷くないかい、まあ良いよ明日でも授業内容のノートを持って来ると良い、お昼休みと放課後にでも勉強見てあげるから」


「えっとーノートですか、授業のですよね、あーあはははは」


「ねえ愛、もしかして授業中ノートをとって無いなんて事はないよね」


「あるような無いような、えへへ」


「えへへじゃ無い、君は馬鹿なのか」


 流石にノート無しでは範囲を絞ることも出来ないしアドバイスも限界がある、はぁ仕方が無い余り頼りたくはないが彼女に手を貸して貰うしかないか。


「今回は何とかしよう今日の放課後図書館に来るように、お馬鹿な愛に言っておくけど筆記用具に教科分のノート、あとは苦手な科目の教科書も持ってくるように」


「王理ー大好き」


 そう言って愛はボクに抱きついてきた。

 表情筋を総動員してにやけそうになるのを堪える。


「はいはい、馬鹿言ってないでお昼食べるよ」


 ボクは保冷バッグから二人分のお弁当を出して敷いているシートの上に並べる。


「いつもありがとうございます、いただきまーす」


 ウェットティッシュで手を拭い、ボクの作ったお昼ご飯を食べはじめる。

 最初はおかずを何回か渡しているだけだったが、おいしいおいしいと本当に美味しそうに食べている姿を見て、いつしか愛の分も作るようになっていた。

 今も本当に美味しそうに食べている、そんな姿を見ているとなぜだか心が温かくなる。


「ごちそうさまでした、いつもありがとうございます」


「気にしなくて良いよ、一人分も二人分も作る手間は変わらないからね」


 ボクは少しの嘘を付いた、愛の分のお弁当を作るようになってから起きる時間も少し早くなった。

 おかずの内容も栄養を考えるようになったし、愛の好きな物と嫌いな物を聞きだし気をつけるようにもなった。

 自分の分だけを作っていた時よりも時間も手間もかかっている、だけどそれをわざわざ言う必要は無い。

 だからボクはいつも少しの嘘をつく。


「それじゃあ放課後図書館でね」


「はい、よろしくお願いします」


 片付けを済ませてボクと愛はあのベンチの所で別れる、ボクは高等部、愛は中等部へ。


 歩きながらスマホを取り出し通話履歴から彼女に電話をかける、3回ほどコール音がなった後通話がつながる。


『はーいお義姉ちゃんどうしたの?』


 通話相手であり今回力になってもらう予定の彼女とは、ボクの義理の妹で名前は凜華りんかという。


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ボクはネコ【不定期更新】 三毛猫みゃー @R-ruka

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