side 愛

 そこで彼女を見つけたのは偶然だった。


 嘘つきだらけの教室に居るのが嫌で、授業が終わると同時に教室を抜け出す。

 購買でサンドイッチを一つ買い、人通りのない遊歩道を歩く。

 この道は校舎から離れるように敷かれていて、中等部から高等部に行くだけならここを使わず連絡通路を使う。

 なのできっと誰もこの道は使わない。

 確かこっちにベンチが一つあったようなと考えながら歩いて行くと先客がいた、制服は高等部の制服だけどリボンの色はここからでは見えない。


 何もで、モソモソとお弁当を食べる姿は寂しそうに見えた。

 だからか私はそっと近寄り声をかけてみた。


「先輩お隣良いですか?」と。


 上げられた顔には驚きが見て取れた。

 続けて見えたのは嘘で塗り固められた笑顔と「ああ、良いよ」という言葉。

 キモチワルイ。

 この人も嘘つきの顔をする。

 声をかけてしまったのを後悔しながら「失礼します」と答えハンカチを敷きその上に座る。


 私は昔から人の表情を読む事ができた、比喩ではなく表情と心情を読み取れてしまう。

 だから私は嬉しくないのに笑う人が嫌いだ、楽しくないのに笑う人が嫌いだ、悲しいのに笑う嫌いだ、嫌なのに笑う人が嫌いだ。


 もそもそと美味しくないサンドイッチを食べていると、先輩が紅茶を「飲む?」と差し出してくれた、いい匂いだ茶葉はなんだろうか。


「ありがとうございます」とお礼を言って何も考えずに口をつけた。

 メチャクチャ熱かった思わず「あちゅ」と言っていた、新手のいじめか何かかな?

 そして爆笑された。


「先輩酷いです笑う事無いじゃないですか」

「ごめんごめん、でも「あちゅ」ってははははは」

「もう知りません」


 すごくいい笑顔だった、とっさに顔をそむけてしまったけど、この人の本当の笑顔は先程の嘘で塗り固められた笑顔と違い、見惚れてしまうほど心の底からにじみ出るような素敵な笑顔だった。


 先輩の名前は王理、噂で高等部に王子さまが居るらしいというのは聞いたことがある。

 毎年文化祭では王子さまの役をやり女子を沸かせ失神者を量産しているとか、生徒会選挙などでは毎回立候補をしていないのに名前を書かれて無効票を大量に生み出すとか、色々本当か嘘なのかわからない噂が飛び交っている。


「先輩はどうしてこんな所で1人で食事しているんですか?」

「ボクは食事は1人でゆっくり楽しみたいんだよ」


 ちょっぴり嘘の混じった表情、でももうキモチワルイとは思わない、この人の心からの笑顔を見たから。


「愛さんこそどうしてここに?」

「愛でいいです」

「え?」

「愛とだけ呼んで下さい、なんかその方が良い気がします」

「わかったよ愛」

「はい、ありがとうございます」


 その方がこの人の近くにいられる気がする。


「愛もボクの事王理って呼んでも良いんだよ」

「そ、それは止めておきます、人に聞かれたら致命的な気がするので」

「うん……それがいいかもね」


 心から寂しそうな表情をしている。

 他の人に聞かれたら困るけど、二人の時なら……。


「そう、そうでした私がここに来た理由でしたね、私友達いないので……」


 そう言って俯き様子をうかがう。

 表情は見えないけど、どうして良いのかわからない感じの空気を感じた。


 友達がいないのは本当、相手の本音が分かってしまうとどうしても一歩を踏み込めない、そんな私だから友達を作れない会話はするけどそれだけ。

 私はずいぶんと臆病になってしまっていると思う、でも彼女になら素敵な笑顔の王理になら私も心の底から笑顔でいられる気がする。


 そして私は心の底から本気で笑ってみせた、私の思いが伝わるように。

 そんな私を見て彼女はどう思ってくれるだろうか、バカにされたと思う?騙されたと思う?それとも本当の私を見てくれる?


 私の事をもっと知ってほしいし彼女の事をもっと知りたい。

 彼女の表情をなぜかうまく見れない。

 予冷の音が聞こえる今回はここまで。


「王理先輩、明日もここに来ていいですか?」

「そうだね、その先輩と言うのを辞めるなら来てもいいよ」

「えっと王里様?」


 危ないもう少しで王子さまと言ってしまう所だった。


「どうしてそうなる、はぁまあ良いけど好きに呼んで、今の季節ならお昼はたいていここで済ますから来たければ来ればいいよ」


 言質は取った明日が楽しみ。


「ありがとうございます、それではまた明日ですね」

「そうだね、また明日」


 こんなに明日が楽しみなのは初めてかもしれない、早く明日にならないかな。



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 side 愛という事で同じ場面を別視点となっております。

 あまり同じシーンを別視点でと言うのは好きではないのですが、今回はお互いこの時点で惹かれ合ってたんだよと言うのを、どう王理視点で表現出来るのか迷いまくって、今の私の技量じゃ無理だわとなり今回の別視点になってしまいました。


 愛ちゃんの人の表情が読めるというのは、超能力とかそういったたぐいのではなく感受性が強すぎてそう感じてしまうという物となってます。

 ですので感じたことが全て本当なのかと言うとそうではないです。

 ただ「嘘」に感してはかなり正確に感じてしまう形になっております。

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