第4話 世紀末的風貌の男(2)

キューブ国内の絵描きと作品の保護を名目に設立された組織『協会』。

博物館と変わりない外観、役割を持つが、それはあくまでも表の顔である。その実態は統香ら一部の画家と機械人形を派遣することで治安維持に貢献している、言ってしまえば人材派遣会社のようなものなのであった。

今回統香らが頼りにしているデータバンクは表側。つまり誰でも閲覧が可能なものなのだが……



「データバンクってのはね、まあもう名前のまんま。いろんな作品のデータが詰まってんだ。

協会とその提携にある企業とか傘下とか、そういうところにいる絵描きの作品が全部保存されてんの。

無論セキュリティもバッチバチだから、なんなら自分で管理するより安全ってんで、オリジナルをここに預ける人もいるんだよ」


「? ? ? ?」


「この国で絵を描き上げたらここに届け出る義務もあるし、一年前だろ?ならその辺りのを漁りゃあすぐだろ」


「つ、つまり…?」


「ここにないわけがないって感じだな」


「お、おお……おお!」


真が期待に胸を膨らませていた時、受付の司書へデータバンクの閲覧許可を取りに行っていた一宮が、二人のもとへ戻ってきた。

しかしその手には、まさかの悲報が携えられていた……


「マエストロ…それなんですけど…」


「んぁ?」




「システムメンテナンス…?」


「はい。担当の機械人形がお腹壊しちゃって、サーバーダウン中です。

復旧の目途も立っておりません」


司書は淡々とそう告げる。


「えっと…つまり…」


「はい、御用の方はアナログでお願いします」


「……まぁじ?」


データバンクのセキュリティがバッチバチに高いのは、担当の機械人形がサーバーそのものとして機能するアトリビュートを使用しているためである。

しかし機械人形の身体組成はほぼ人間と同じであるため、このように体調を崩してしまうことも多くはないが、ある。

そのことを想定に入れていなかった統香は、絶句も絶句、大絶句であった。


ちなみにここで言うシステムメンテナンスとは、機械人形にうどんなどの炭水化物を与え、療養させることを指す。



「手がかりはこの男性の肖像画と…届け出が一年前ぐらいにされているだろうということだけ…」


「司書さ~ん。ここ一年以内で届出があった作品ってどれぐらいなの~?」


「おおよそ百ですかね」


「あ、マジ?そんなもん?」


「はい、ざっと百万点ほど」


「ひゃくまっ…!!マジ!?」


「当然でしょう。マエストロはこの国にいったい何人の画家がいると思ってるんですか」


「そう言われるとまあ…そっか…」


「き、厳しいんじゃねぇか…?」


「ん~」


統香はちらりと真の顔色を伺った。


随分悪いと言うか…申し訳なさそうにしてんなぁ~…すぐ終わる~だなんて期待もさせちゃったし…


「ま、なんとかなるっしょ」



そうして先の見えない中、いよいよ捜索が始まった。

作品収蔵庫の肖像画エリアは、五階建てのマンションがすっぽりと納まってしまうほどの高さと広さを持つ広大な図書館のような空間で、三人はその中からおよそ一年前に届け出があった作品が保管されているスペースを端から端まで徹底的に探していくことに決めた。


はしごを登って見下ろした最上段からの眺めは、さながら絶叫マシン頂上の展望のようであった。


「これはなかなか…」


「どー?見晴らしいいー?」


「とても高いですー!ひとまずこの列を持って降りるのでー!」


「はーい!」


「すげぇな…軽く言ってるけどあれだけで百点はあるんだろ…?」


「あるねぇ…まあこれなら、案外早く終わるかもね」


「おう!」


上から下への運搬は一宮が担い、三人で作品をチェックしていく。

ロケットに入れられた肖像画の特徴と一致すれば見比べ、しなければ次に移る。単純作業の繰り返しである。


肖像画というものの特徴として、多くの作品が「”こちら”を見つめている」というものがある。モデルが絵描きを見つめている場合が多いためそれは当たり前のことであるのだが”単純作業を長時間”行う上に”判別の為に大量の絵画と目を合わせる”必要があるというのは、想像を絶するほどの疲労に襲われ、精神を消耗するだろう。

そうして作業開始から半日が経過した明け方頃、ようやく一万点分のチェックが終了した。


「肖像画ってマジ…なんでどいつもこいつもこっち見てんだよ…このロシアン幼女とかマジもう…可愛くなかったら燃やしてんぞ……」


「この鼻頭汚いおじさんも…写真みたいに精緻に描くくらいなら撮ればいいのに…」


「そいつらァ絵だからなぁ…」


「「絵かぁ〜…」」


三人仲良く大船おおぶねを漕ぎ、もはや半分脳死状態となっていた。


「これそんな上じゃねぇね…行くわ…」


「マエストロ…お気をつけて…」


「誰にものを言ってんだぁおわっ!」


「マエストロ!」


「アブねぇ!」


言ったそばからはしごを踏み外し、危うく落下しかけた統香であったが、幸い側にいた一宮に抱き抱えられる形で事なきを得た。

三人とも集中力は完全に切れていた。


普段であればしないだろうミスや、疲労からくる二人の苦し気な表情を見かねた真は、自責の念から拳を握り口を開いた。


「……もう…」


「いてて…んぁ?」


「もう…いいぜ…。あんたらよくやってくれたよ。こんだけ探しても見つかんねぇってことは、届け出もされてねぇんだろう。

主からすりゃあ恥だったんだよ。俺なんかアトリビュートもない、ただ迷彩ステルスがちょっと上手いだけの機械人形だ。その上この見た目で力も弱ぇときたら…まあ、捨てたくもなるんじゃねぇか」


「こんだけっつっても、まだ十分の一っしょ?」


「でも二人共、いつ怪我したっておかしくねぇぜ?

今だって一宮サンが手ぇ貸してくれたから何とかなっただけで……」


「…そっか。

まあ心配してくれんのはありがたいけどね、探し物の依頼があって、目当てのもんがあるかもしれない場所もわかってて、それなのに途中で見つからないって諦めるのはさ、なんか違うじゃん?」


「でも、せめて日を改めるとか」


「生憎ですが、マエストロは明後日…正確には明日からですが、制作の予定があるんですよ。

その後も立て込んでいますので、次にここへ来れるのは… まあ、随分先になるでしょうね」


「そ。だから今私達が出来る事っつったら…っと。

ここを隅々探す。それだけだよ」


統香はそう言うと、大丈夫と言わんばかりに大げさな動きで作品を棚へ仕舞った。


「まあ今日の…そうですね、日没までに見つからなかったら流石に後日に回しますよ。

だからそれまでは、やれるだけやりましょう」


二人ともしんどいだろうに…なのに…


「アンタら…

……すまねぇっ…!」


「泣くな泣くな。まだまだこっからだぞ」


「ああ…!」


「まあそれはそれとしてヤニ補給入りま〜す」


「私も失礼しま~す」


「お…あ、ああ!」



しかしそれからさらに半日。作業開始から丸一日が経過していた。

日没…タイムリミットまでは、一時間を切っていた。

未だ目的の絵は見つかっておらず、代わる代わる仮眠を取れど、疲労はわずかにしか回復していなかった。

単純な肉体の体力的な疲労こそ楽にはなるが、この肖像画を見つめるという作業は、三人の想像以上に精神を疲弊させていった。

「砂漠の中から特定の砂を見つけるようなもの」とはよく言ったもので、その果てしなさから三人の脳裏に断念の二文字が浮かび始めたころ…


「うおっ…と!」


次の作品を手に取ろうと立ち上がった際の立ちくらみで、真が激しく転倒してしまった。

二人は慌てて真のもとへと駆け寄る。


「真さん、大丈夫ですか?」


「いてて…大丈夫だぜ…」


「お前ももう少し休んだら…」


その時であった。

統香が異変に気付いた。


「…っそれ!ロケット!」


真自身は無事だった。しかし、倒れた拍子にロケットは開いたまま大きく歪み、閉じることが出来なくなってしまった。

名前と、ロケットペンダント。顔も、名前も、声も、見た目も、性別も、何もわからない主から貰った数少ない大切なもの。

そのロケットが激しく損傷してしまった。


嘘だろ…これ……


「ああ…ああぁっ……!」


そんな…壊れ…ロケット…


そのうずくまる姿があまりにも痛々しく、二人は言葉に詰まっていた。

大切なものが壊れてしまった辛さ…察するに余りある。


こうなってしまっては真の精神状態がおもんぱかられる。

二人は今回の捜索を終了しようとした。


その時だった。


「……ん?おいそれ!」


「…なんか…絵二枚入ってません?」


「だよな!?真これ!」


「あ…?」


ロケットの中にあったもう一枚の肖像画が、歪んだ縁から顔を覗かせていた。

隠すように重ねられていた男性の肖像画がひらりと落ち、現れたその絵。


「これは…ちょ、ちょっとまてこの絵!これさっき見たぞ!」


統香はふらつきながら立ち上がり、その声量とは裏腹に、覚束ない足取りで棚へと向かって行く。


「あ…」


「えっと…あったこれだ!ホラ!これだろ!!」


そうして手に取った一枚。

それは先程統香が見つけていた、緑の瞳でまっすぐにこちらを見つめて微笑んでいる、ロシアン幼女の絵であった。


「さっきはしごから落ちそうんなった時持っててさ、それで覚えてた!」


「流石です。

……にしても幼女ですか」


統香から真へ、その肖像画は手渡された。


「これは…

……ッ!?」


何だ…?この…感覚…


手に触れた瞬間に電撃が走ったかのような感覚。

真はそれを経て、この作品の全てを理解したのだった。


「裏に詳細が貼られてますよ。

作者は椎名新しいなあらた。歳は…あっ…」


「ん?どした?」


「…享年きょうねん…三十五」


「享…って…」


二人は真の表情を伺った。

眉間にしわを寄せ、ぐっと堪えているような、今にもこぼれそうな、そんな表情だった。


「…いや、大丈夫だ。薄々わかってたさ…

俺が一人でいても平気だったのも、そういうことだったんだな……」


絵を宝物のように抱きかかえながら、真は続ける。


「それにこの絵、俺だよ。似ても似つかねぇが、こうして触ってると…いや、触ったころには、そうだって認識が俺の中に既にあったんだ」


涙は静かにあふれ出した。

自分には無いと思っていたものが、そこにはたくさんあったから。


「それに…それによ……!」


そんな真を見つめながら、統香は次の言葉を察したように口を開いた。


「そ。真さ、自分のことを「恥」とか「捨てられた」って言ってたけど、もうわかるでしょ?」


「ああ…

胸んあたりがスッゲェあったけぇよ…」


「だろうねぇ。

まあそもそも、雑に描かれた絵が機械人形になるわけないんだけどね」


「……あ?

それはどういう…」


「画家が一生に一度、自分の心とか魂とか、そういう深層心理の曖昧なものを顕現さしたのが君らなんだよ。

言っちゃえばお前の主の理想像がお前ってわけ。

まあ元春菊みたいに、単純に思い入れが強い作品が機械人形になることもあるんだけどさ」


「つまりマエストロは私が……」


「私は後者」


真の流す涙は次第に大粒になっていき、しゃくりあげると肩は大きく上下した。


「気持ちってよぉ……こんなあったけぇんだな…!

俺はさぞっ、さぞ、祝福されて生まれたんだろうな…!」


「ああ。いい絵だよ」


「そうか…そっか……」


その時、真の背中の一部が歪んだ。


「ん?」


そしてその歪みは全身へとまばらに広がって行き、瞬く間に周囲の空間にまで達した。


「あれ…何か…」


モザイクのような、モザイクがとけていくような。がじゃがじゃとした歪み。


「ひぐっ、うっ…!」


それに呼応するように、真の嗚咽も激しさを増して行く。


「ずぇえ!何これ迷彩!?」


「マエストロ!下がって!」


統香を守るため一宮が前に出たその瞬間、モザイクは爆発するような激しさを以て四方八方へ広がった。

やがて部屋全体を覆い隠すと、それを契機のように素早く縮小していき、ついには完全に霧散した。


「うわああぁぁぁあああん!」


真が蹲っていた場所では、真と入れ替わるように、絵の中の幼女が泣き崩れていた。


「うぁぁああああぁぁぁぁあああああん!!」


呆気に取られたのも束の間、今までの疲れを吹き飛ばすような驚きの声が二人から上がった。


「「えええぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!」」


「ふぐっ、うううっ!ひっ、ぐ…」


迷彩だよな…!?他より使えるとは言ってたけど、とんでもないぞこれ!

機械人形に殴られてた。一宮は治療もしてた。ってことは、真には質量があったんだ!でも迷彩による質量の付与なんて聞いたことないし…

何よりこいつ、さっきの口ぶりから察するに、今まで一度も迷彩を解いてなかったんじゃないか!?その上で同時に他へ迷彩が使えてたってことだよな!?

有るように、無いように見せるのが迷彩だ…でもこいつのは別次元…有るし、無いんだ…!

こんな壊れスペック…まるで……



自身の肖像画を抱きながら真は泣き続けた。

キャンバスの裏に記されていたそのタイトルは



自認じにん



* * *



「椎名新は自分の性で悩んでたみたいだね。心は女性であることを望んでたけど、それと反対に身体は大きくなるばかり。

親がそこそこ名の売れた画家だったから、悪評を避けて周囲にも相談できず、もんもんと募らしていた…と。

自認ねぇ…」


制作を始める少し前、統香の自室で煙草を吸っていた二人は、昨日協会から受け取った椎名新に関する資料を読み上げていた。


「協会の"お詫び"ですか?」


「そ。昨日、あれのついでにってくれたやつ」


「なるほど…

にしてもまさか、世紀末の中から幼女とは、とんだマトリョーシカでしたね」


「ほんとそれ。ちょっと面白いけどね」


「ですね」


「ああそれと、あいつうちで働くことんなったかr」

「は?」


「多分もうすぐ来るんじゃn」

「は?

えっ、あいつって、あいつですか?」


「あいつだねぇ」


噂をすれば何とやら。トタトタと廊下を翔ける音が少しずつこちらへ近づいてきていた。

二人がその音に気付いて間もなく、若干舌足らずで甲高い、幼女然とした声を張り上げた真が、ドアを開けて姿を現した。


「よう!昨日はありがとな!」


「おんおん。これからよろしく~」


「おう!」


メイド服姿で登場したこの幼女は、屋敷の使用人としてこれから励む所存だ。


「…なんですかその格好は」


「ああ、真君にこの服は着られねぇからな」



真はこの時、統香と交わしたある会話を思い出していた。



「お前さ、主に会ってどうすんの?」


「どう…?」


「話したいことはあるみたいだけど、それで終わり?なんか他に理由とか目的とかないの?」


「理由、理由か。

なんだろうな…好奇心…ただ会いてぇっつーか、会ってみてぇっつーか…そうだな。会うことが目的だし、理由かもしれねぇ。

あとはまあ、そん時次第って感じだな」


「ただ会いたい。ねぇ……まぁ、わからんでもないか。

よし、少しでも早く会えるように、さっさと見つけるべ」


結局、自分の主は既にこの世にいなかったわけだが。

統香も早いうちに両親を亡くしている。立場が弱音を許さなかったことから言えなかった本音。もはや自分でも見失ってしまっていたそんなものが、目の前の世紀末的風貌の男からわずかに感じ取れたのだろう。

もちろん当の本人はそんな込み入った事情など知る由もないのだが…


「……なァ、もし会えなかったり、主に拒絶されたらよォ……アンタらんとこで世話んなってもいいか…?

ここまでしてくれた、アンタらの力になりてぇんだ。

……なんて、いっ、言っててやべぇな!忘れてくれ!」


言葉を紡ぐにつれて顔を赤くする真とは対照的に、統香は平然とした様子で答える。


「ん?部屋余ってるし別にいいけど」


「…え!?マジか!?」


「マジマジ」


「軽くねぇか…?」


「労働力はいくらあってもいいかんねぇ」


真は、しししっと笑ってあっけらかんとしている統香の横顔から、その発言に言葉以上の意味はなく、ただ本当にそうとしか思っていないという心のうちが、ありありと伝わってくるようだった。

何か一つの澄んだものに、全身が浸かっているかのような感覚を覚えた。

見上げるとそこには、一筋の眩い光が差している。

真は、そんなイメージを統香に感じたのだった。



世紀末的風貌とは打って変わり、幼女の姿となってしまった今、真にできることはきっと多くはないだろう。

けど、それでも…。


「えっとじゃあ…真…ちゃん?さん?」


「何でもいいぜ。好きに呼んでくれ」


「じゃあ可愛らしいのでまこっちゃんですね。これからよろしくお願いします」


「おう!マジ何でもするからよ!よろしく頼む!」」


「!?

今何でもって…」


「ちなみにですけど、その喋り方は変わらないんですか…?」


「これな、いずれな!」



こうして労働基準法もなんのその、見た目年齢若干九歳のロシアン幼女が使用人に加わった。



新たに用意された真の部屋。午後の高い陽にキラキラと照らされたその部屋の壁には、自身である『自認』が、こちらに微笑みかけるように掛けられていた。




『自認』とは、作者である椎名新の「こうありたい」という理想を描いた肖像画でる。

多角的に私を客観視してもそれすら主観である。客観的な意見を他人がどう言おうとも真に理解しあえてるわけではないため、他者による私への評価は、相手が勝手に私を理解した気になり表層をなぞっているだけの、児戯のようなものだと考える。

では私は私を真に理解することは出来るのか。恐らく理解は出来ない。けれど他人より多くの時間を使って私を見つめることは出来る。

ではそうして見える私とは?己を己たらしめるものとは?

人はそれを認識した時、主観と名前をつけるのだ。

そうして育まれた主観を以て、己を認めていきたい。理想を諦めたい。


そんな思いが込められていた。

言わばこれは、女性であろうとする心を「私の身体は男である」という理屈で誤魔化そうとした、心と身体の決別の一枚である。

心を受け入れ自由に生きる勇気がなかった彼は周囲の顔色を伺い、心を殺し、身体のままに男として生きる覚悟を決めた。

その結果皮肉なことに、隠し誤魔化し生み出す迷彩に特化した機械人形が、自身の理想の姿で生まれたのだった。

自身の理想を詰め込んだ存在。会心の作品。完成したときは興奮で震え、これを機に変わるだろう環境を夢想しては眠れぬ夜を過ごした。

しかし翌朝、いざ顕現した機械人形が世紀末的風貌であったことから一気に我に返った彼は、この作品を世に出せば自身の内にある女の心を認めることになってしまうと考え、悩み抜いた挙句、ひっそりと協会のデータバンクへオリジナルを保存することで、それを手から離した。

「作品とは裏腹に雄々しい見た目の機械人形と共に生きていく」そう決め心を入れ替えようとしていた矢先、椎名新は交通事故にて、画家として無名のままその生涯を終えた。


全ての願いが叶わなかった彼が生前最後に残した作品。それは絵と言うよりは書のようなものであった。薄い白地の上から太く厚く塗られた『真』の一文字。それを見つけた真は図らずも、彼の最後の作品に込められた本当の意味を、生まれながらに知っていたのかもしれない。

両親、心、絵画に人生を狂わされた男は、最期までそれら全てを恨むことはなかった。


「真っ当でありたい」



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マエストロと機械人形 桜百合 @sakura_yuri

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