タイムボックス

森上

タイムボックス

 その箱は当選品だった。


 漫画アプリにあるアンケートページから行ける応募だった。ジョークグッズだと思い応募したのだ。

 当選品は聞いたことも無い宅配便の会社から届いた。

 製品名は『タイムボックス』

 有する機能は分岐した過去から「モノ」を現代に送るらしい。

 机の上に漆で塗装された箱が置いてある。

 ベッドに仰向けになりながら、顔を机の方へと向ける。

「なんか、こういう物ってバッドエンドになりそうな感じだよなぁ」

 本棚には〝そういう漫画〟が置いてある。

 別に契約とかしてないしなぁ。

 タイムボックスの利用方法には、

 A6サイズの紙に西暦・月日・時間を書いた紙を入れる必要がある。

 メッセージとしてA6サイズの紙を送る事ができる。但し二つ折りにしなければならない。

 箱の中に入るモノしか送れない。

 自分の過去に現れるが分岐した過去。故に自分の過去の記憶にも箱が現れた記憶が存在しない。

 二〇グラムを超える貴金属は送れない。

 国・地域問わず紙幣・硬貨は送れない。

 ――と簡単な説明だった。 

 これって、カードゲームとか送って貰えないかな? そもそも、過去の俺が大事なカードを箱に入れるか?

 背伸びした後、柚子貴(ゆずき)は机に向かい準備を始めた。

 A4の印刷用紙を取り、折って切ってを繰り返しA6サイズの紙を4枚作った。

 時代は小学生高学年の頃。メッセージは光らないノーマルカードの名前にした。

「このカードなら入れそうだな」

 箱の中に入れて閉じると、数秒もしないうちに箱はコトッと振動した。

 箱を開けると確かに指定したカードはあった。

 今のカード通販で買えば一枚千円ぐらいか。フリーマーケットサイトで売ってもあんまり儲けられないな。

 柚子貴はメッセージが送れる事も重要だと気づいている。

 小学生・中学生の頃に送って株式やFXで儲けるのも無理だ。金が無い。仮に出来たとしても〝分岐した過去〟だ。こっちの現代には関係ない。

「分岐した過去……どうせなら、好きな漫画家が初連載で打ち切りになった漫画本でも入れて貰おう」

 当然モノが送られてきた。

「やっぱ過去は分岐するんだな。初連載デビュー以来一度も打ち切りになってない漫画家の『打ち切り漫画・全三冊』この漫画は本来この世界に存在しないモノだ」

 もしも、沢山の「もしも」を送って貰った。

 ただ、小学生・中学生のお小遣いには限度がある。高いモノで尚且つ大切なモノは送れない。

 色々遊んでいるうちに柚子貴は不穏な感覚になる。

「――そもそも、何で俺なんだ?」




 三十三年前の過去に箱を送った。

 五十歳の誕生日に彼は目的を達成出来た。

「さすがに妻と子供がいる現在、死ぬわけにいかない」

『タイムボックス』は起点として時代から分岐させる。

「そう、箱をあの時代に送った結果未来が分岐して、不健康じゃ無いな私になった。不健康な未来になる過去の自分に送ったのだから」

 あくまで分岐した過去の影響を受けないのは「起点になった十七歳の柚子貴」のみ。それ以外は影響を受ける。

「健康をありがとう、犠牲になってくれた分岐した世界の自分よ」


                                     了

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タイムボックス 森上 @forest_A

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