断章:神託1

 確かに、島は、島民が毎日の様に行う生贄の儀式から生じた信仰を、神が受け取り豊穣の恩恵を与えている。だが、現代の世界にこれ程の豊かさで満たされているのは、この島だけなのだ。


 ニンゲン達が信仰に目覚め、神々が恩恵を与え始めた遠い時代、世界は急激な速度で変化していった。本来、神々の恩恵とは広く薄く緩やかで継続的な影響だったのだ。それがニンゲンの信仰によって大きく変わった。ニンゲン達の強く深く真摯な信仰は、神々に新たなチカラを与えた。神々はニンゲン達から信仰のチカラとも言うべきエネルギーを還元され、それをニンゲン達に恩恵と言うカタチにしたのだ。


 信仰と恩恵の循環によって、多くのニンゲンから深く信仰される神は、その分だけチカラを増して、極狭く強力で特殊な影響を与えられる様になったのだ。その神々の恩恵を得て、ニンゲン達は生物の頂点に到達した。そして、比類無きモノとなったニンゲン達は、世界中で数千年の間に渡って、神の名を掲げて戦争を繰り返す様になった。ある信仰と別の信仰が打つかり合う戦争を通して、神々はまるで我が事の様に愉しんだのだ。


 しかし、戦争を続けたニンゲン達はいつしか神の名を捨てる様になった。神々が与えた恩恵は、ニンゲン達に自分達こそが「神」だと思わせてしまったのだ。世界は、ニンゲン達の三度の陸上大戦と二度の海上大戦を経て、神々の庇護を喪った。


 けれど、神々が消え去った訳ではない。もちろん、現代においても神の恩恵が無い訳ではない。だが、多くの神々は現代を生きるニンゲン達への恩恵は不要だと考えているのだ。同時に、今を生きるニンゲン達も神々への信仰を喪っているのだから、当然と言えば当然の帰結なのかもしれない。


 その様な中にて、島は信仰と恩恵に溢れているのだ。太古より続く神とニンゲンとの循環が今もなお続いているのだ。故に、神は島民達の信仰によって、世界でも有数の権能を持つに至った。そのチカラによる恩恵は常に島民達へ向けられ、繁栄をもたらすのだ。


 だが、神は疑問にも思う。島民の生贄の儀式への執着は、果たして神への信仰心の強い現れなのだろうか、と。

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この島の民は観光客を生贄としてしか見ていないフシがある L.L.Snow @L_L_Snow

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