高瀬舟

作者 森鷗外/カクヨム近代文学館

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★★★ Excellent!!!

言わずと知れた高瀬舟。
縁起で書かれてあるように、財産に対する意識、安楽死についてをテーマに描かれてあるが。かといって、説教くさくなることなく、問いを立てるだけで 答えを示すわけではなく。
いかに魅力的な謎を提出できるか、がフィクションの肝でありもして、いい手本であり。
読みかえしてみて驚くのは、表現の巧みさ。細かいところに、創意がみられ。かつ生々しい。臨場感がある。
森鴎外の歴史ものは、非常によいと思う。
『最期の一句』、ことに『じいさんばあさん』もまた。関心をもたれた方は、お読みになってみては。

★★★ Excellent!!!

角川文庫版では、本文のあとに「附高瀬舟縁起」という小文が収録されています。
この作品を読まれた方が思うであろうこと(僕は思いました)を、鴎外は同じように思ったようです。

1)財産(金)の問題
2)死にたい人を死なせてやることは罪なのか

です。
学生時代に教科書で読んだ記憶がない(当時乱読していたときに読みました)ので、授業ではどんなふうに先生が解説するのか、気になるところです。

この作品の面白いところは、
罪人の喜助はこれまでの罪人たちとは違うことに、同心の庄兵衛は気づき、気になってしまう。

いったい喜助はどう言う心持ちなのか(謎)を知りたくて訊ねてしまう。

喜助が島流しを苦にしていない理由が明かされ、そしてなぜ罪を犯したのかが語られる。

庄兵衛は揺さぶられ、自身では(善悪の)判断がつかなくなってしまう。

という綺麗な流れ、そして問いかけです。
判断はお奉行様ではなく、わたしたちが下さなくてはなりません。即座に返すことのできない問いを提出すること、そして読者は一度抱えた問いを考え続けること。それが小説の面白みの一つであり、使命かもしれません。