第12話 タケコ村のうわさ (第1章完)

 ラビットマンにより倒されたマージ・パンダーの体は、砂のように崩れ落ちてゆきました。それと共に、マジパン戦士達の動きが止まり、次々と砂のように崩れ落ちてゆきます。


 それからすぐに、マジパンワールドの空間がぐにゃりと歪み、あっという間に景色は元の竹藪となってしまいました。


「ふう、マジパンワールドが消滅したか」

「ボスを倒して摩幻結界が解けたようね」


 無事に元の竹藪に戻って来たことを確認したラビットマンが、ほっとしたようすで大きく息を吐くと、ぴゅいっと飛んできたナノリアがうさ耳をピコピコさせて状況を確認するように言いました。


「う~ん……」

「大丈夫っすか?」


 マージ・パンダーの甘い息で眠ってしまった村人も目を覚ましたようで、アキラが側へ駆けつけて、村人に怪我がないか確認していました。


「ラビットマン、あっちに人が倒れているわ!」

「ほんと!?」


「こっちよ!」

「よし!」


 ラビットマンが、マージ・パンダーの残した魔石を回収している間に、空から辺りの様子を見回していたナノリアが村人らしき人を見つけたようです。


 すぐにラビットマンはナノリアの案内で倒れている人の方へと駆け出しました。竹藪の奥へ進むと、すぐに村人らしき3人が倒れているのが見えました。


「大丈夫ですか!?」


 ラビットマンは村人達の下へと駆け付けて声を掛けましたが、返事がありません。


「う~ん、死んではいないけど、随分と衰弱しているようだわ。急いで村へ運んだ方がいいわね」

「でも、3人も一度に運べないよ」


「とにかく、アキラを呼んでくるから待っててちょうだい」

「わ、分かった」


 ラビットマンより早く村人達の下へ辿り着いたナノリアが、彼らの状態をいち早く見極め、アキラを呼びにぴゅいっと飛んで行きました。


 残ったラビットマンが、村人達の呼吸や脈拍を確認して、みんな生きていることにほっとしていると、ナノリアがアキラと目を覚ました村人を連れて来ました。


「タゴサク! それに、マリーにメリーでねぇか!?」


 村人は、倒れている人達を見て叫びました。どうやら、行方不明になっていた村人達だったようです。


 ラビットマンとアキラ、そしてアキラが連れて来た村人で、倒れていた村人を1人ずつ背負って村へと戻りました。


 とにかく衰弱している3人を臨時病院となっている集会場へと運びます。そして、行方不明者が見つかったことが、すぐさま村中へ知れ渡ることとなりました。


 さらに、流行り病の原因が魔王軍によるものだと伝えると、村中大騒ぎになりました。レイモンを始めとして、入院していた患者達の顔色も良くなっているように見えました。



 その翌日、駿助達は朝早くから集会場へとやって来ました。

 念のためにと、もう1晩入院していたレイモンは、昨夜はぐっすり眠れたようで朝には熱も下がって元気を取り戻していました。


 レイモンだけではなく、ほかの患者も昨夜は徘徊することなく、熱も下がっていたため、村の流行り病は、やはり魔王軍のせいだったのだろうと村人達は口々に語っていました。


 医師のギルバートは、もう少し様子をみると言っていましたが、入院患者達が回復したことに加え、新たに熱を出す人もいなかったため、ほっとしているようでした。


 元気になったレイモンを連れて、駿助達は村長の家へと向かいました。村の中を歩いていると、村人達は、駿助の姿を見ては、ラビットマンと呼んで嬉しそうに挨拶をしてくれます。村の恩人だとお礼をいいながら握手してくる人もいるくらいです。


 村人達の間では、ラビットマンが魔王軍を倒して村人を救ってくれたという噂があっという間に広がってしまい、ラビットマンは大人気となったのです。


「おはようございます」

「おおっ! ラビットマンじゃないですか! 村人達を助けていただき、ありがとうございました!」


 村長の家へ着き、駿助が挨拶をすると、村長の息子が嬉しそうに礼を言ってきました。昨日もさんざんお礼を言われていて、駿助はちょっと苦笑いです。


「あのう、ハンターギルドの関係ですが……」

「ああ、はいはい、承りますよ。どういったご用件ですか?」


「昨日倒した魔王軍の魔石を届けに来ました」

「えーっと……」


 駿助が、机の上にテニスボール大の魔石を置くと、村長の息子は困った顔で言葉を詰まらせてしまいました。


「どうしたんですか?」

「いや、これほど大きな魔王軍の魔石は村では対処できないのです。町のギルド支部へ直接持ち込んでもらうことになります」


「そうなんですか?」

「はい、大きな魔石は魔王軍一兵卒のものではないので、詳しく話を聞くためということです……」


 村長の息子の様子に駿助が首を傾げると、彼は対応できない理由をと申し訳なさそうに教えてくれました。


 村の代行業務の対象外と言われてしまえば仕方がありません。魔王軍の情報があれば速やかにハンターギルド等へ報告することになっているため、駿助達は近くの町へ向かうことにしました。


 駿助達は、すぐに宿を引き払い、集会場へ行ってギルバート達へ旅立ちの挨拶を済ませました。急な話にマリエルは名残惜しそうでしたが、魔王軍のことをギルドへ報告しなければならないと話すと納得してくれました。


 集会場を出ると村人達が集まっていました。村長やその息子もいます。


「ラビットマン、村を救っていただきありがとうございますじゃ。すぐに旅立たれると聞いて村人一同、見送りに来た次第ですじゃ」


 村長が村人を代表して村人達が集まっている理由を教えてくれました。


「ラビットマン、村を救って頂いたご恩は忘れません」

「ありがとう、ラビットマン」

「さようなら、ラビットマン」

「ラビットマン、ばんざーい!」

「「「「バンザーイ!!!」」」


「なんでラビットマン!? バンザイって、どういうこと!?」


 村人達から、ラビットマンへ熱烈な声援をもらう中、戸惑いの声を上げる駿助の背中をアキラが押して、駿助達フェアリーナイツはタケコ村を旅立つのでした。

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うわさのラビットマン! すずしろ ホワイト ラーディッシュ @radis_blanc

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