第六話『告白』



 テスト最終日を迎え、早速放課後に本屋へ立ち寄るとそこには楽矢の姿があった。彼はレジで会計をしており、客の対応が終わるとこちらの姿に気がつく。目が合うことにこそばゆい思いが生まれるものの、それ以上に久しぶりに彼に会えた事が嬉しかった。

「いらっしゃいませ」

 楽矢はそう言って柔らかな笑みを向けてくる。それだけで気持ちは高鳴る。心子は小さく会釈をするとしばらく本屋の中で歩き回った。

「心子ちゃん」

「!!」

 楽矢はレジを離れ、そっと心子に近付いた。そうして小声で言葉を放つ。

「今日俺、早く上がれるから一緒に帰らない?」

「ははっはいっっ……!!!」

 心子は声を小さく抑えながらも顔を真っ赤にしてそう答える。すると楽矢は「よかった」と笑みを零し、そのままレジ場へ戻っていった。自分と話すためだけに彼が動いてくれた事に喜びを感じる。テストが終わった今、心置きなく楽矢の事を考えられるのだと思うと気分が躍るようだった。



「お待たせ」

「イエッ全然っ!!! おお、お疲れ様です!」

「ありがとう」

 本屋の入り口で待っているとバイト上がりの楽矢がやってくる。エプロンを外した彼の姿は何だか新鮮であの時のデートを思い出させた。途端にデートの楽しさを思い起こして浸っていると突然「ちょっと話したい事があって」と声を発してくる。心子は急な発言に背筋を伸ばしながら何でしょうかと言葉を返した。楽矢は「こっちでいいかな」とこの時間帯はまだ人の少ない公園まで誘導してきた。公園に到着すると楽矢は後頭部を掻きながら少し話しにくそうに言葉を告げ始める。

「テストお疲れ様」

「あっ、ありがとうございます! お陰様で無事に終わりまっました!」

「よかった」

 島風はまだ何かを話したそうだ。そのまま彼の反応を待っていると楽矢は再び言葉を繰り出してきた。

「……心子ちゃん、三週間くらい来てなかったよね」

「あっ……はい。そうですね、さ三週間くらいこれてなかったです!」

「うん、君に会えない期間がちょっと…いや、結構寂しかったんだ」

「はい……ってエッ!!!!!???」

 彼の予想外の発言に思わず心子は顔を上げる。心子より頭一つ背の高い楽矢は照れているのか合わせてくる視線に落ち着きがない。しかし彼の瞳は終始優しげであり、その優しげな視線は心子の緊張をこれでもかと言うほどに強くさせた。楽矢は言葉を続ける。

「テスト勉強の邪魔はしたくなかったから、後出しなんだけど」

「わたっ……私と会えなくて!? ほほほんとですか!?」

「うん」

「……っ」

 楽矢と視線を交えたまま二人は沈黙する。心子がこれ以上ないほどの心臓の高鳴りを発生させたと同時に楽矢が再び口を開いた。

「好きです」

 そう言って彼は一歩、心子に近付いた。

「俺だけの女の子になってくれませんか」

 楽矢はそう言うと右手をそっと差し出してくる。心子は一向に止まない鼓動の高鳴りが、鳴り止まないまま手を伸ばした。

「わっ私も好きです、楽矢さん……あなただけに、見ていて欲しいです」

 伸ばした手を彼の手にそっと触れると優しくも力強い手の平が、心子の手を包み込んでくる。緊張する最中、暫し見つめ合うと楽屋が「抱き締めてもいい?」と心子を見据えながらそう尋ねてきた。心子は小さく頷いてみせると彼は嬉しそうに柔らかい笑みを向けて言葉を口にする。

「ありがとう」

 そしてそのまま楽矢の身体に引き寄せられた。こちらへの気遣いを感じる優しい、抱擁だった。彼の大きな身体に包まれながら今の状況を頭で鮮明に理解し、心子は幸福感で満たされる。温かな温もりが心子を包み込む中、楽矢の背中をギュッと掴むと彼は心底安心したように息を吐いてこう言った。

「デートした日に勇気が出なくて伝えるのが遅くなったけど、君にちゃんと言えて良かった」

 そう言って心子の身体を抱き締める楽矢の姿に愛おしさが込み上げた心子は彼の背中を強く抱き締め返すと言葉を返した。

「わわ、私、ずっと島風さんに片想いしてて……だからゆ、夢みたいです……」

「……だね。俺も夢みたいって思ったんだけど……」

 そこまで言うと楽矢は心子を抱き締めていた腕をゆっくりと解く。そのままこちらを真剣に見つめながら優しく頬に触れて、言葉の続きを放った。

「どっちでも嬉しい」

 そうしてそっと心子の唇に彼の唇が重ねられた。





           end

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憧れている本屋の店員にファンだと告白をしたら… 星分芋 @hoshiwake

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