悪役令嬢入門編

ハタラカン

激流に身を任せ同化するのじゃ


「巷では悪役令嬢なるものが流行っておるらしいぞ執事!」

「失礼ながら、お嬢様の頭脳は3Gガラケーの如き鈍さかと…。

もはや流行りなどという段階を超え、いちジャンルとして定着してございます」

わらわも悪役令嬢なりたい!」

「遅きに失しております…というか、1万字以下のコンテストに向けて目指すものではありませんぞ」

「駆け込み乗車も乗車じゃ。そうであろ?」

「かしこまりました。

ではわたくしどもも乗りましょうぞ、このビッグウェーブに!」


「執事。悪役令嬢とはなんじゃ?」

「お嬢様…!

いくら8ビットの頭脳といえど、もう少し記憶を持ち堪えていただきませんと!」

「たわけ。忘れたわけではない。

もともと知らぬのじゃ。

流行りだからなりたいだけでのう」

「これは失礼をば…ただの丸投げクソメスガキでございましたか。

わたくしはてっきりお嬢様の端子部が濡れてしまったのかと」

「よい。それより悪役令嬢とはなんぞや?」

「申し訳ございません、わたくしにも明確には…。ただ、先駆者ならどこにでもいくらでもおりますので、そちらを参考になさればよろしいでしょう」

「めんどくさい」

「おお…おお!お嬢様!

今のあなたこそまさに悪役でございます!

悪役の令嬢でございます!」

「そうか、読んで字の如し。

悪事を働く令嬢であればよいのか。

よし執事、近う」

「はっ」

「むぎゅー」

「お、お嬢様!?」

「知っておるぞ、ロリコンを良く言う者はそうおらぬと…。ロリとロリコンの情事、この悪事成せば悪役令嬢として不足あるまい!」

「誤解でございます!

わたくしはそんな…夏場の無防備な胸チラとか膝に乗ってこられた際に伝わる尻の意外な厚みとか食欲に混じって垣間見えるメスの片鱗とか、そのようなものには決して!」

「なら今から開拓するがよい。

ほれほれ、ここ。ここ先っちょじゃろ?」

「オッホウッ…!

いけませんぞ!このような痴態、旦那様のお耳に入れば勘当もの!

さすれば悪役令嬢どころか家なき子です!」

「ふむう…それは困る。

まず何はなくとも令嬢でなければ悪役令嬢とは言えまいからのう」

「ふう、あともう一つお嬢様は誤解なさっておられます。世人が求めているのは悪役であって悪人ではありません。

ドロンジョ様であってカテジナさんではありません。

我々のような存在は人気商売ですから、あまりヘイトを集められるような真似は得策ではないかと」

「ふむ、加減が必要か…難しいのう」

「なに、お嬢様はのじゃロリでございますれば、のじゃのじゃ言って事あるごとに泣き顔見せて偶にデレれば万事オッケーです。

のじゃロリは最強クラスの属性ですからな」

「のじゃのじゃ」

「そうですそうです」

「いやじゃいやじゃアーマードコアは初代路線に戻してくれなきゃいやじゃあ!」

「その調子ですぞ」

「でもまあ、ヴァーディクトデイも嫌いではない…ぞ?」

「素晴らしい」

「人気はこれでよいとして、未だ悪役令嬢には成れた気がせんな」

「それでは恋愛なさってはいかがでしょう」

「なぜじゃ?」

「令嬢は男ではありません。

まあ当然ですな。

女性主人公であれば読者も必然的に女性中心となりましょう。それ即ち、興味関心の要が恋愛になるという事なのです」

「ちと安易すぎぬか?」

「これは異な事を。

安易でなければならぬのです。

お嬢様ご自身おっしゃられたではありませんか、めんどくさいと。

カクヨムはじめ小説投稿サイトは奇抜な作品を探す場所ではありません。

汗水垂らしてトレジャーハントなど変人暇人の所業です。

ほとんどの利用者はド定番の大好物をサクッと食べ歩きしに来るのですよ」

「なるほどのう。

とすると先刻アーマードコアとか言ってしまったのは悪手だったかのう」

「新作も出るのでまあよしとしましょう。

ロボゲー好きお嬢様というのはわたくしの性癖に刺さってもおりますし」

「うむ。いずれにしても過ぎた事よ。

よし!恋愛対象をこれへ!」

「はっ!」


「集めました。

選りすぐりのロリコ…猛者揃いですぞ」

「一番、オーク田わからせ郎です!

体格差を活かしたプレイができます!」

「二番、丸呑みリョーナです!

断面図は甘え!」

「三番、機械姦助です!

感度1万倍いけます!」

「四番、エロトラップダンジョンです!

総合力が持ち味です!」

「うむ。ではこやつらの中から恋人候補を選べばよいのじゃな?」

「おさらいしておきます。

読者が求めているのは飽くまで食べ歩き。

気持ちの良い一時です。

よってビターエンドは避けるべきであり、バッドエンドなぞ以ての外。

その点留意してお選びなさいませ」

「恋人…恋、人…?待て。こやつら人か?」

「一番は人型です」

「二番以降は」

「……………………」

「おい!」

「多様性の時代にも対応しておりますので、KADOKAWAとしても使いやすいかと」

「感度1万倍になったのじゃロリをKADOKAWAが売ると言うのか!?

あん!?」

「そこはまあ、『このあとメチャクチャ両穴ドリルした』とか濁された形にはなるでしょうな」

「女性読者はそれを気持ちの良い一時として喜ぶのか…?」

「お嬢様、何もいきなり一線を超える必要はないのですぞ。

ロミジュリ然りBL然り、恋愛ものの基本は禁じられた逢瀬にございます。

のじゃロリであらせられるお嬢様は外見からして禁じられておりますゆえ、彼らとゆっくり愛を育めばそれでよろしいのです」

「むむう」

「ハッピーエンド。くれぐれも肝心なのはハッピーエンドですぞお嬢様。さあ、誰となら幸せな一コマを飾れるかお考え下さい」

「一番…オーク田とやら、お前は妾とどんなエンドを迎えてくれる?」

「敗北腹ボテエンドできます!」

「帰れ!」

「二番、苗床エンドできます!」

「帰れ!」

「三番、精神崩壊ゴミ捨て場行きエンドできます!」

「帰れ!」

「四番、苗床エンドできます!」

「お前もか!帰れ!」

「申し訳ありませんお嬢様、わたくしの交友関係が狭いばかりに…」

「よい。従者が丸呑み系モンスターやらダンジョンやらと親交深められる男気の持ち主で鼻が高いぞ」

「もったいなきお言葉」

「これで良かったのじゃ。もともと恋愛などという上っ面の偽善は好かぬ。

な〜にが『気持ちいいのは愛情の証』じゃ。

股をこすれば気持ちよくなれる事など幼稚園児でも知っておるわ。

夢見る乙女どもは妾が床やサドルを愛しているとでも言うつもりか」

「一般女性の感性と感度1万倍のお嬢様をお比べになるのは酷かと」

「まだ1倍じゃ!」

「それよりお嬢様、恋愛沙汰を放棄なさるとなれば、悪役令嬢への道から外れてしまうのでは?」

「まだまだ。令嬢といえば権力。

権力といえば権力闘争。即ち政治劇がある。

ここで権謀術数の限り尽くせば悪役らしくもなろうぞ」

「恐れながら、将棋ソフトの初級CPUと接戦の末惜敗するツルツルプリン脳に政治劇は務まらないのでは…」

「むう…確かに妾は拳で切り開く程度の政治しかできぬ。どうしたものか」

「…いや、いやいやいや、それは存外妙手かもしれませんぞ」

「というと?」

「古今東西、万民が至上の正義を認めているのは論理ではなく己の満足です。

それは社会動静、SNS、そして小説サイトの流行に至るまで、人間の意思が介在する物事全てに顕れております。

民とは己を飢えさせるものが論理的に正しければ正しいほど確かな正義であればあるほど、むしろその破壊にこそ正義を感じるもの。民に好かれたいのであれば、お嬢様は正誤善悪を問わず、ただ快刀乱麻を断つが如く快拳にて政敵をお砕きになればよろしい」

「正義の破壊…本当にそれだけでよいのか?

求められているのは悪人ではないと申しておったろうに」

「加えてわたくしが勝利を祝福いたしましょう。称賛さえあればらしく見えるものです。

この拳で解決する政治劇、自己満足と自己満足を称える環境が読者を魅力すれば、お嬢様は悪役令嬢として認められる…かも知れません」

「わかった。

ちょうど殴れるくらいの正義をこれへ!」

「はっ!」


「集めました。お言い付けに適う人選に苦慮いたしましたぞ」

「一番、日焼け肌なめ次郎です!

小麦色こそ正義!

色黒や褐色など日焼け娘にあらず!

人工太陽で全人類を日焼けさせます!」

「ロリパンチ!」

「ギェェアアア!!」

「お嬢様!まだ紹介の途中ですぞ!」

「すまぬ。つい手が出た」

「いえ、よろしいでしょう。

話の流れも読者を飢えさす正義なれば、その破壊は民の正義です。

僭越ながら祝福いたしましょう。

ナイスロリ!ナイス腿チラ!」

「むふふ」

「では再開いたしますぞ」

「二番、突如として襲来する人類の天敵系謎の生命体です!なんだかわからない正義で人類を滅ぼします!」

「おい、妾は謎の生命体とどのように政治劇すればよい?」

「お嬢様の手腕次第かと」

「とりあえず対話してみるか。

ホッホッホごきげんよう謎の生命体さん?」

「……………………」

「なぜなにも答えぬ」

「彼にも謎の生命体としての矜持がありますので。対話可能では謎が解けてしまうでしょう?」

「ハキハキと自己紹介しながら出てきておいてなんじゃ今さら!ロリパンチ!」

「ギェェアアア!!」

「お見事でございますお嬢様。

謎の生命体と拳で対話なさるとは、余人には到底真似できぬ偉業でございます。

なろう系お嬢様の鑑です」

「あまり褒めちぎられると馬鹿にされてる感覚になるのう」

「それ込みで楽しむのが小説サイト利用の嗜みですぞ。

さあお次は三番の方お入りなさい!」

「三番、人類の悪い思念の集合体です!なんだかわからない正義で人類を滅ぼします!」

「執事、なぜお前は全人類が一丸となって戦うレベルの敵ばかり連れてくる?

妾が欲したのは個人的な政敵じゃ!悪役令嬢でどうにかなる小悪党じゃ!人間の!」

「なにぶん多様性の時代でございますれば、KADOKAWA、ひいてはそちらへのクレーマーを見据えると、謎の生命体や思念体も人間という事に…」

「ええいそんな無分別こそ砕いてしまえ!

読者に気持ち良い一時を届けたいのならな!

ロリパンチロリパンチ!」

「無念ですが射程距離外でございますお嬢様。いったん棚上げし、当初の予定通りまずは悪役令嬢への道を歩まれるべきかと」

「むむう。だが悪の思念体とどう関われば悪役令嬢へ近づけると言うのか…」

「形式に拘りなさいますな。

人類滅亡を目論む敵、そのような悪党を従える者はまさしく悪役令嬢と呼ぶに相応しいとお思いませぬか」

「おお、目から鱗じゃ。

砕くばかりではない懐柔策。

政治劇らしくもなってきたではないか。

よし…ホッホッホごきげんよう悪の思念体さん?」

「呪呪呪呪呪呪呪呪」

「なんじゃこいつ気持ち悪っ!」

「彼にも悪の思念体としての矜持がありますので。ビジネス呪ですな」

「さっきのと同類かい!ロリパンチ!」

「ギェェアアア!!」

「もうよい…今日は終いじゃ。このまま続けても悪役令嬢になれる気がせぬわ」

「まだ四番の理想郷を求めた結果破壊神に取り込まれるネクラ系ラスボスが控えておりますが」

「またそんなか!せめてビジネスシーンで対話できる奴を連れてこい!どうせそやつもまともに喋れんのじゃろ!?」

「ちょうど殴れるくらいの正義を、と仰せでしたので…。ご期待に添おうとするとどうしても理屈の通じない輩が多くなります。

いちおう残りHPを30%以下にすれば10秒ほど意識を取り戻しますぞ」

「やってられるか!

もうよい全員追い返せ!」

「はっ!」


「お嬢様、みなそれぞれの破壊活動に戻りました」

「まったく…なぜどいつもこいつも好き勝手な正義を唱える!?」

「必然でございましょう。本来正義とは他のいかなる誤解にも歪められぬ現実そのものであり絶対的真理なのですから。

好き勝手に己の満足を正義とする者から見れば押し付けがましい身勝手と映るものです」

「公私いずれにせよ非難は免れ得ぬわけか。

どちらだったかはこの際置くとして…今日はいくつか殴りつけたが、これで一歩くらい悪役令嬢に近づけたかのう?」

「さあ。始めに申し上げましたように、わたくしも悪役令嬢の実態には詳しくありませんので、なんとも…」

「妾たちはこんなのでよかったのかのう?」

「なに、粗製乱造は宇宙の正義です。

宇宙の理に適っているのですから、何ら恥じる事はございません。ささ、詮無き憂いなど捨てて、前向きにお締めあそばせ」

「のじゃのじゃ」

「うんうん」

「いやじゃいやじゃ閃光のハサウェイよりクロスボーンガンダムアニメ化してくれなきゃいやじゃあ!」

「陰茎が苛立ちますぞ!」

「別に閃ハサを観ないとは言っておらぬ…ハサウェイ個人も…まあ…カツよりはマシじゃからな」

「うっ!ふう…」

「ではの」

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