漫才:トロピカル因習アイランド

s-jhon

2023/01/31_21:56:44.mp4

(屋外に作られたとおぼしき仮設舞台。上手から舞台中央に二人の男が駆け上がる)

ボケ(以下ボ):ボケでーす!

ツッコミ(以下ツ):ツッコミでーす!

ボ&ツ:二人合わせて「ボケ&ツッコミ」です!よろしくお願いしまーす!

ボ:移住したーい!

ツ:なんやのいきなり。

ボ:田舎に移住したぁあああああい!

ツ:流行りやけども。

ボ:こんな仕事今すぐ辞めて移住したーい!

ツ:失礼やな!

ボ:失礼か。

ツ:そりゃ、今来ているお客さんに失礼やろ。

ボ:そしたら、この漫才終わってからにしよか。

ツ:それでも急やな。というか、田舎に移住したいんやったら、俺の地元とかどうや?姉ちゃんが民宿やってて人手ほしいそうや。

ボ:おまえの地元かぁ。

ツ:不満か?

ボ:僕な、理想の田舎像があるんよ。

ツ:ほぉ。どんなや。

ボ:横溝正史の小説に出てきそうな村。

ツ:変わっとるな!えらい変わった趣味やな!普通はのどかで自然豊かで風光明媚な土地で古民家スローライフとかが基本やで。

ボ:僕は陰鬱とした人里離れた忌まわしき土地で、いわくつき屋敷ホラーライフが送りたいんよ。

ツ:変わっとるな!……まあ、それやったらうちの地元はピッタリやで。

ボ:どこがや。

ツ:どこがって……逆にどこが不満なんや。

ボ:じゃあ、おまえの故郷によそからの旅行者が来ました、さぁ、どうする。

ツ:「ようこそ!アーロハアイランドへ!」って……。

ボ:そこぉおおおおッ!

ツ:うわ、びっくりした。

ボ:めっちゃ、フレンドリーやん。というか、おまえの故郷、南国のリゾートアイランドやん。ちがうねん、僕が憧れてるんは「よそ者は来るな」って感じの村なんよ。「ここに立ち入ってはならぬ」みたいな。

ツ:そういう場所、あるで。

ボ:どこや。

ツ:姉ちゃんの家に、よそ者は立ち入ってはいけない部屋がある。

ボ:マジか……。まさか相方の実家にそんな因習ロマンプレイスがあったとは……。そこには何があるんや。

ツ:姉ちゃんの寝室。

ボ:そらあかんわ!そりゃ、プライベートルームやから、他人が入ったらあかんのよ。違うねん、こっちが言ってるのは、なんか、言い伝えで入ったらいけないとかいわれている森とか山とか、そういうのなんよ。

ツ:それやったら、絶対に入ってはいけないって言われてる山があるわ。

ボ:へぇ。

ツ:火山やねんけど有毒ガスが出ているから火口に絶対近づくなって。

ボ:そりゃそうやろ!

ツ:あと、毒蛇が出るから藪に入るなって。

ボ:そういうのやないねん!そりゃ、普通の指示やろ。僕が言ってるのはなんか奇妙な風習とかそういうんや。

ツ:あるで。

ボ:どんなのや。

ツ:道端で酒盛りをする。

ボ:陽気な習慣!

ツ:新入りにはおごり。

ボ:フレンドリー!

  ちがうわ。なんかこう、変なもの信仰したりとかしてへんのか。

ツ:変なものて。

ボ:なんか、変な神様信仰していたり、変な宗教的な儀式を行ってたり、そういう習慣やがな。

ツ:あー、変な宗教儀式か。それやったらある。

ボ:あるんか?

ツ:毎年な、ある特定の時期に墓地に親族一同が集められるねん。

ボ:ほぉ。

ツ:火を焚いたりして、いろいろ儀式をやる。

ボ:そう!そういうやつ。

ツ:で、終わったらそのままバーベキュー大会に突入。

ボ:南国のお盆ーッ!ただの南国のお盆やん。紙銭とか燃やしたりするやつやん。

ツ:あとは霊媒のユタの婆さんとかいるけど。

ボ:「祟りじゃー」とか言うの?

ツ:言う。

ボ:ほんまか。

ツ:居酒屋経営してるんやけどな。

ボ:雲行きが怪しくなってきたな。

ツ:売り上げが芳しくなくて、「祟りじゃー」って。

ボ:神秘性ッ!神秘性が皆無!

ツ:神秘性か。それやったら、西の浜辺にある洞窟にそういう言い伝えがある。

ボ:ほぉ。どんな言い伝えなんや。

ツ:洞窟の奥に、祠があってな。そんな深い洞窟やないねんけど、その祠まで行くとな……。

ボ:な、なにが起こるんや……?

ツ:……行った二人の恋が実る。

ボ:観光地に良くあるやつ!観光地に良くあるカップルの聖地的なもんやないか!

  あれやろ、最近作ったんやろ!

ツ:十年前に作ったやつや!今年流行らせようと思って役場の方でインスタグラムに載せて宣伝しとるねん!

  ほら、この洞窟からの写真、映えるやろ!

ボ:う、う~ん、ダセェと言い切れはしないけど、イイネが稼げるかと言われると微妙な、絶妙にリアクション取りづらい写真!

  なんか、そういうんじゃなくて、もっとガチな言い伝えとかないんか?

ツ:ガチな言い伝えてなんなん?

ボ:例えば、どこそこでは化け物が出るーとか。

ツ:あー、東のドーノケ坂にドーノケって化け物が出るって言われている。

ボ:そりゃ、どんな化け物なんや?

ツ:日暮れの頃にそのドーノケ坂を一人で通りかかると後ろから、ヒター、ヒターとなにかが付いてくるんよ……。

ボ:そ、それで?

ツ:後ろを振り返ると毛皮で覆われた鞠のような妖怪がコロコロコロと足の間を駆け抜けて……。

ボ:ちょっとまてぇ!

ツ:……せっかくひとが怪談の怖いところ語ってるのに。

ボ:その前の、ヒター、ヒターのところのほうが怖かったわ!なんなん、そのゆるキャラみたいなやつ。

ツ:あ、うん、いま島のマスコットとして売り出し中、ドーノケちゃん。

ボ:怖くないねん!もっと、なんか人死にが出るようなそういうやつを求めてるねん。

ツ:それやったら、住人が続けざまに亡くなって、今は誰も住んでいない家があるけど。

ボ:そうそれ、そういうの求めててん!くわしく聞かせてくれ!

ツ:元々その家を建てたのは余所の人でな。地元の人がやめた方が良いって言ってるのに、それを無視して建てたそうなんや。

ボ:ああ、ありがち~!地元民の助言を無視する若者死にがち~!それで、それで?

ツ:それでも無視して、南国バンガロー風の家を建てたんやけど、住み始めて一年もしないうちに亡くなってな。で、しばらくして、別の人がその家を買って住み始めたんやけど、これまたすぐに亡くなってな。

ボ:やっぱ、祟りか。

ツ:いや、夏の風通しのことだけ考えて建てたんだけど、冬普通に寒くて凍死。

ボ:寒いんか。

ツ:いや、家の中なら冬でも普通に平気なんだけど、あの家は野ざらしレベル。

  で、どうや?おまえが興味あるなら不動産屋に話通してもええで。

ボ:いらんわ。おまえのとこの島に移住するくらいなら、この仕事続ける。

ツ:なんや、横溝正史みたいな曰く付きの村に移住したいんやないんか?

ボ:おまえんとこの島にはまったく期待でけへん。けど、漫才の営業で回っていたら、そういう村に巡り会える時もあるやろ。

  例えば今日来ているこのお祭り、まちがいなくなんかあるで!

ツ:いくらなんでも失礼すぎるやろ!ええかげんにせい!

ボ&ツ:どうも、ありがとうございましたー!

(カメラが下を向く。悲鳴。謎の咆吼。カメラが落下。映像が途切れる)

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