第3話 9月14日 2ページ目

いやーもう凄い部屋、ぜーんぜん勇者感無い。

もうね、倉庫、ただの備品置き場だよここ。

50年ぶりって言ってたもんな…それにしても紙類がすげえ多いな、ティッシュとトイレットペーパーで片面埋まってるぞ。

あとはもう段ボールがいっぱい。窓がなくてすっげえ埃っぽい。

広さは6畳くらいしかないんじゃなかな…ぎゅうぎゅうだ。


「ここは倉庫というか、災害用備蓄室なんだ。ほら、勇者=緊急時でしょ?」

いやまあ、そうか、そうなの?俺、全然緊急な感じしてないんだけど。

「…まあうん、ごめんねこんな所で。さあ座って。」

丸椅子しかないのね。背もたれもないやつ。これ2脚だから林さんもこれで仕事してたのか…。

「とりあえずお茶でもどうぞ。暑かったよね」

9月とはいえまだまだ夏だ。30度超えの日々はザラである。


【ブレイブウーロン】


「…。」

「今朝ね、スーパーで買ってきたんだよ。冷やしておいたからさ」

林さん、98円の値札付いたままです。

「せっかく勇者さんが来てくれるのに実費なんだよ、参っちゃうよねー役所は厳しくてさ」

そんな内情聞きたくないです!雑談大好きかよこのおじさん!気がほぐれていいけどさぁー!!


「さてさて、本題なんだがね。」

「これが募集要項でね」


ふむ…?


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■求人区分:オールタイム

■事業所名:非公開

■就業場所:世界各所

■業務内容:勇者

■雇用形態:契約社員

■期  間:契約締結から2年11ヵ月まで

■賃  金:経験、拾得物

■勤務時間:無制限

■交通旅費:実費精算(月末に請求)

■手  当:特殊勤務手当(条件付き)

■備  考:死亡した場合、リセットされスタート地点に戻る。

      それまでに獲得した経験値、取得物は市の物となる。

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なーにこのゴミ求人。わざわざ俺に見せるために作っておいたの?

どこにも魅力無いぞ、備考に死んだ場合のこと書くか?いやーツッコミどころ多すぎるだろ…。

「え、もしかしてこれで普通に募集出してたんですか?」

ひとまず聞いてみたよ、俺だけに突き付けられたんじゃたまったもんじゃない。

「そうだよ。でもさっぱり応募してくれる人がいなくてね。勇者って人気無いんだね」

絶対違う。扱いがぞんざいすぎる。確かに唯一無二の職業かもしれないけど、この待遇は酷い。

というかこんな求人出てたらもっと話題になってそうだけどな…。


「求人は一般に出してはいたけど、人気が無さすぎるから勇者の家系の俺が選ばれたと」

ちょっとイライラしてたよ俺。

「そうだねえ。昔はこんな求人票なんて出してなかったけど、国がうるさいからね。法律もあるしさ」

惜しいなあ、なんか惜しいなあ。

国も法律も守るべきところ違くない?てか内容に法律すれすれの文言あるし。

ああもう知るかもう。

「ここで断ったらどうなるんです?これを見るに、俺はまだ勇者として契約結んでないってことになりますよね?」

「あ、気付いた?」

林さんは少しおどけたようにも見えた。これも予想の範囲内か。

「もちろん、内定辞退はできるよ。職業選択の自由だ。だけど、その後はどうする?」

「どうするって、帰って、ビデオ屋に戻りますよ」

「ビデオ屋、あるのかい?」

「あー、宝物庫で、潰したんでしたっけ」

「それに、今日家を出てから、家に入ろうとしたかい?」

あ、ああ!?

そうだ、なんかドアノブが不思議な感じになってて、触れなかったんだ。


嫌な汗が流れる。


「そう、イベントフラグはもう立ってしまっているんだよ」

はあーーーーー。

おっさんからメタ発言聞かされるほど腹立つものはないわーーーーー。


「やるしかないってことね」

「観念したね、よし」

観念て言い方はやめろよ…。

「それじゃあ、契約締結に入るんだけど、ごめんな」

今更謝られてもな。もう覚悟決めたからいいよ。頑張ってやるよ。


「今日は営業終了時刻なんだ。明日また来てくれるかい。」

その謝罪!?時計を見ると17時10分を指していた。

唖然としていると、

「役所だからね」

と、にっこりしていた。きっちりしておますな。はいはいわかりましたーーーー。


「とは言っても、たぶん家には入れないと思うので」

そうだった、どっか泊まるしかないのか…。


「これを貸してあげよう、防災備蓄は役に立つだろう?」

ワンタッチで開くテントを手に入れた。

「使い捨てじゃないからね。」

これもメタ発言に聞こえるな…。


「それじゃあ、明日はちゃんと午前中から来るように。いいね?」

「はい、わかりましたー」


こうしてハローワークの初日が終わったのだ。


その後はどこでキャンプしようかと悩み、結局は近くの河川敷をキャンプ地とすることにした。

他にも段ボールでキャンプしている方がいたので、まぎれようと思った次第だ。


草むらの中に入り、下地を均す。

「こんなもんか…」

テントを投げると、空中でポンッと広がり、着地した。

これで今晩はしのげるな。と、ん?

入り口の左側面に大きな文字が書いてある。


【市所有物 防災課】


やっぱり勇者課なんて無いんだなーーーーー!!

もう寝よう寝よう。

テントに入り、昨日貰った梅おにぎりを食べた。夏の二日目おにぎりは危なかったかもしれんが…。

アニメとかゲームならここで焚火とかして仲間と今後のことを話すんだろうな。

仲間、できなかったな。まだスタート地点にも立ってなさそうだけど。


考えても仕方ねえやと寝転がり、ここで気付く。

(マットも寝袋も無いんだな…)


深くため息をつき、防災リュックを抱きしめながら眠りについた。

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今日も勇者は愚痴が多い たぬぼん @tanukibar

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