第13話 幸せ

ここはマクライン公爵邸だ。


あり得ない来訪者に、ディアナは笑顔を忘れてしまう。


頼みの綱の父もいないし、尚更ムスッとなる。


「なぜわたくしを婚約者に?」

目前の男をつい非難がましく見てしまう。


「君が良いと父に言ったら即決定したよ」


「でもシリウス様にはアリス様が」


「彼女とはあり得ない」

シリウスははっきりと言った。


「もう決定したことだ。この婚約は覆らないし、俺は浮気もしない」

その言葉にドキッとした。


夢の中ではシリウスは浮気し、その為にディアナは酷い嫌がらせに走った。


「君は本来心優しい人なのだとあの茶会で知ったよ」

キャシーを責めもせず庇い建て、しかも婚約者まで作ってあげた。


浄化の魔法を使用するとアリスが疲弊すると知っていて断り、また場の雰囲気を壊さぬよう茶会の途中で退席した。


王家主催の茶会なのに途中で帰るとは、非難されてもおかしくないのに。


「だから俺は君との婚約を選んだ」

夢の中の彼女があんなにも性格悪く醜かったのは、自分が道を違えたからだ。


本当の彼女は人を想える優しい人だ。


「どうかこの婚約を受けて欲しい。俺が生涯をかけて守るから」

シリウスの目を見て、ディアナは本気なんだと知る。


「夢なのではないでしょうか。まさかわたくしにこのように言って下さるなんて」

涙がジワリとこみ上げる。


「夢ではない、現実だよ」

そっと手の甲に口づけをされ、ディアナの全身の血が沸騰する。


「なななな何をっ?!」

こんな事は経験がないので、ディアナは発熱したかの如くふらふらとなってしまった。


「愛しいという気持ちを伝えようと思ってね」

シリウスも若干照れながらそう言う。


初々しい反応だ。


夢の中での彼女は、身分と財産そして自分の体を武器にシリウスに迫ってきた。


触れるだけものであったが、あの柔らかさは忘れられない。


今は子供故にまだまだ魅力は低いが、学園に入学する年に大人の女性に変わるのだ。


こんなに優しくて顔も可愛い、そして女性らしいスタイルを持つ彼女はまさに完璧な淑女だ。


夢の中ではシリウスに一途であったが、今はどうにも避けられている。


このままでは彼女を誰とも知らない男に取られてしまう。


夢の中とは言え、一度は手にした女性をみすみす奪われたくはない。


「俺が愛しているのは君だ」


「わたくしも、あなたを愛しています」

夢で見たものと違っていたが、ディアナとシリウスは幸せを手に入れた。


シリウスはきちんと約束を守ってくれ、ディアナもまたシリウスを信じ、嫉妬心を抑えるように努めた。


というか学園に入ってから嫉妬するのは主にシリウスの方だ、愛を知って穏やかになったディアナに惹かれるものが増えたという背景がある。


アリスは何とかシリウスの好意を引き付けようとするが、


「すまないがディアナ以外に興味はなくてね」

と一蹴され、すごすごと引き下がるしかなかった。





そして夢の中では婚約破棄のあった卒業パーティが訪れた。


シリウスは同じように挨拶を頼まれ、壇上に上がり、そして高らかに宣言した。


「ディアナ=マクライン。俺は君と一生添い遂げたい、だから結婚してくれ!」

まさかの言葉だ。


壇上から降りてきたシリウスはディアナの前で膝をつき、手を差し出した。


「君を傷つけることは二度とない。だから俺を信じて」

冷たさなど感じない、熱く求める視線だ。


「あなたを信じます。不束者ですがどうぞよろしくお願いします」

ディアナは震えながらそっとシリウスと手を重ねた。


あの悪夢から数年後、ようやく夢から解き放たれたのだ。





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未来の夢を見た。選ぶのは…… しろねこ。 @sironeko0704

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