別宇宙録

@rurrururrururru

夏の風物詩

この時期になると、夏を思い出す。



風鈴にかき氷、日差しに猛烈な暑さ。そして、痛烈な痒さ。


そう、今私は、アイツにやられている。



「待て!」


「プウゥンウゥン」



ヤツは私の周りを駆け巡る。あちら、こちら。


まずは足。音が近くなる顔の付近は、咄嗟に手を出し防衛が可能だが、暑さも相まって気安く露出を許してしまっている足はどうにもならない。


否、ならなかった。一敗。



次に腕。此方も暑さから、気安い露出を許してしまっている。


ヤツが私の顔、足と全身を巡らせながら次に向かう所は腕なのである。


予測は出来ている。私は、一切の邪念を消し去り目を閉じる。




「プウゥン」




そこだ!


私は「パァン」と勢い良く叩く。音が静かな空間を一瞬切り裂いた。


「やったか!?」


「………」



勝利を願いつつ、腕を上げる。上げた腕の、ちょうど曲げる辺りに違和感を感じた。


「くっ…」


痒い。二敗。まだヤツは生きている。



次に向かうのは腹。誰が何と言おうと、腹である。顔ではない。



例の如くヤツが音を立てながら顔の付近を迂回するが、これは即座に振り払う。第一関門は突破である。




「突破である」?



本当に、突破したのだろうか。


今まで私は大きな間違いを犯していたのかもしれない。




これは突破に見せ掛けた罠だ。そう気付いた時には遅かった。



やられた。音すらなかった。否、聞こえなかった。


ヤツは音すら置き去りにし、私の腹部を的確に狙ったのだ。これで三敗目だ。



残るは、顔のみ。


顔のみだが、これに関しては負ける気が全くと言っていいほどしなかった。


だって、顔である。音がすれば、叩けば良いだけ。


余裕。



「プウゥン」


来た!ヤツだ。ここでヤツを倒せば、勝ちはないにしろ痛み分けだ!


「ハァ!」パァン


「プウゥン」


「くそぉ…」


「プウゥン」


「ハァ!」パァン


「………」


「やったか?今度こそ」


…………


「プウゥン」


「やってねえな!」


「プウゥン」


「ハァ!」パァン


…………


「プウゥン」


「ああああああああああ!」パンパン


「プウゥン」


「ああああああ!」パンパンパン


「プウゥン」





私とヤツの攻防は、ほぼ互角と言って良かった。


無数に刺された跡を見ながら、ウナを塗った。


塗っている最中、好敵手に罵倒すると同時に、自然と笑みが溢れていた。



「あー痒…ハハハ、ハハハハハ!…クッソが。ハハ」



感情にバグを起こしながら、私は眠りについていた。





四度目の敗北は、今よりずっと前に終わっていた。

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