第10話 魔法の適性調べ

 ――魔法。

 このゲーム世界における魔法は大きく分けると、火・水・氷・雷・土・風の6属性。そしてこれらの攻撃魔法に加えて、回復魔法・使役魔法・召喚魔法の3種類が存在する。


 俺が今習得したいのは攻撃魔法のため、他の3種類は一旦置いておこう。攻撃魔法の威力としては10段階。初級・中級・上級・超級・聖級・王級・帝級・皇級・幻想級・神話級のように、後者にいくにつれて強くなっていく。


 ちなみに俺がゲームでやっていた時は、主人公を王級の魔法まで使えるようにした。かなり時間が掛かったため、今のルイが強くなるのにも相応の時間が必要になるだろう。


「それぞれの属性の初級魔法から試していくか」


 まずは火属性から。ゲームをしていた時に何度もお世話になった火属性における初級魔法、ファイアボール。この魔法は主人公が最初に習得した魔法でもあるため、今のルイにちょうどいいかもしれない。


 ……そういえば、詠唱とかってした方がいいのかな? 前世で見てたアニメとか漫画だと、詠唱しないと魔法を唱えられなかったりするけど……。


 確か【ブレイブ・マジック】では、勇者の子孫である主人公は詠唱せずに魔法名だけ言って、魔法を使っていた。しかし他のキャラクターたちは詠唱しないと魔法を使えていなかった。ということは、ルイも詠唱しないと魔法を使えない設定のはずだ。


「詠唱かぁ。さすがに恥ずいよなぁ……」


 そう、恥ずかしい。たとえ前世では引きこもりでニートで、実際に中二病をこじらせた過去があったとしても。うん、もちろん詠唱に憧れて自作の詠唱なんかをしていた時期だってあったよ。あったけどさぁ……さすがにもう恥ずかしいって……。


「だが仕方ない。そう、仕方ないんだ。詠唱しなきゃ魔法は使えないしね。うん、よし……」


 なぜか頬が自然と緩んでしまうが、さっそく試してみるとしよう。うん、そうしよう……。

 一度深呼吸をし、前世で見た【ブレイブ・マジック】のファイアボールをイメージする。そして右手を目の前にいるスライムに向けた。


「燃え盛る炎よ、その身を弾丸へと変え敵を撃て……ファイアボール!」


 ……詠唱はした。すごく恥ずかしかったけど、一語一句間違えずにしたはずだ。だが俺の手からは、火玉どころか火すら出ていない。何も起こらなかったが故に、目の前のスライムは俺を嘲笑うかのようにぴょこぴょこと跳ねている。


(は……恥ずかしいっ!! 恥ずかしすぎて死ぬっ!!)


 詠唱をしたにもかかわらず、何も起こらない最低最悪な状況下。いつも蹴り飛ばして倒している最弱の敵に嘲笑われるという屈辱。


 あまりの恥ずかしさに愧死しそうになりながらも、絶対に目の前のスライムだけはぶち殺してやろうと心に決める。それもただぶち殺すだけでは済ませない。徹底的になぶり殺してやる。

 

 そして今ので分かったことだが、ルイには火属性の適性がない。ゲームの頃から好きだった火属性の適性がないのは残念だが、仕方ないだろう。次は水属性の初級魔法を試してみることにする。


「清らかなる水よ、その身を弾丸へと変え敵を撃て……ウォーターボール!」


 再び右手をスライムに向け水属性初級魔法、ウォーターボールの詠唱をした。すると右手から、ゲームで見たような水弾が飛び出す。


 水弾はスライムに見事命中するが、スライムは何事も無かったかのようにのほほんとしている。まあ、当然だろう。スライムには対象を貫く魔法以外は効かないのだ。そのため当然、貫通力のないウォーターボールはスライムに効かない。それよりも……。


「す、すげぇぇ……!」


 実際に自分が魔法を使っているという現実に、興奮を隠しきれない。前世、日本では絶対に有り得ない状況。ファンタジーな世界だからこそ有り得る、魔法という概念。


 ずっとゲームで見てはいたが、やはり実際に自分がやってみると感動はするものだ。それにいつかは魔法を使ってみたいという叶うはずのない夢も叶ってしまった。


「魔法って最高……!」


 つい先程まで感じていた恥ずかしさは、もうどこにもない。魔法が使えたという純粋無垢な喜びを抑えきれない。しかし今まで試した属性はまだ2種類だ。あと4種類も残っている。


 ルイには水属性の他に、どの属性の魔法適性があるのだろうか。興奮を抑えきれないまま、他の属性の初級魔法を試してみることにした。


 それから数分後。全属性の初級魔法の詠唱を試し終えた俺はだだっ広い草原で1人、空を見上げながら寝転がっていた。ちなみに実験台にしたスライムは、用済みになったため徹底的に嬲り殺してやった。


「ふぅ……ちょっと疲れたな」


 魔法を使う際には、当然マジックポイント――MPを消費する。ルイがどれほどのMPを持っているかは分からないが、初級魔法を使うだけで疲労感が感じられた。


 そう、なんとルイは2つの属性の魔法適性を持っていたのだ! 水属性と雷属性。その2つの属性の初級魔法は無事に使うことができた。


 2属性の魔法適性を持っているというのは、まあ普通レベルだろう。6つの全属性の適性を持っているのは、勇者の子孫である主人公バケモノくらい。他の奴らは持っていて2属性か3属性。4属性でも持っていたらすごい方。


 だから俺は、普通な方だ。1属性の適性しか持っていない奴がいると思えば、自分はまだマシな方なのだ。


 …………欲を言うと、4属性の魔法適性を持っててほしかった。それなら学園でみんなからチヤホヤされて、ハーレム生活まっしぐらだったのになぁ!!

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シナリオ通りに動く小物共は退け~ゲーム世界最弱の悪役モブに転生した俺は最強を目指す~ 橘奏多 @kanata151015

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