第9話 ルイでも魔法使えるんじゃね?

 無事にオークを倒し、自分が段々強くなっていることに嬉しくなりながらも屋敷に帰った。【狂乱の森】において、オークは中ボスレベルの強さだ。確かゲームでのレベルは10~15だった気がする。


 そんな魔物を倒せたというのは、最弱キャラであるルイとしては感無量だった。まあ、倒し方は悪役そのものだったが。視界を奪って背後に回り、背後から攻撃。うん、実に卑劣極まりなくて悪役らしい。


 さらに言えば、恐らく今の俺はかなりレベルが上がっている。先程のオーク戦でも感じられたが、オークの首をねるのに攻撃したのはたった1回だ。背後から攻撃したとはいえ、以前なら絶対に無理だっただろう。


「……やっぱり学園に入るまでに、この森はクリアしておきたいな」


 帰り道、こちらに近づいてくるスライムやらゴブリンを蹴飛ばしながらそう呟く。その姿は、まるで雑魚を蹴散らす魔王のよう。

 攻撃される前に蹴飛ばしているため、ルイには見事にダメージが入っていない。魔物が近づいてきては消滅、近づいてきては消滅を繰り返していた。


 【狂乱の森】は中心部にいるボス――オーガを除けば、そこまで強い魔物はいない。だからゲームでは比較的攻略は簡単な方だった。最後に立ちはだかるオーガは少し苦労したが。


「中心部にいるオーガ。あいつは今の俺には倒せない。学園に入学するまであと1ヶ月半くらい。それまでには倒したいが……」


 ゲームでのオーガのレベルはだった。学園入学時の主人公よりも、はるかにレベルが高い。


 そんな相手を学園入学前に倒すことができるのか。普通に考えて、答えは否だろう。元々最弱だった俺が、たった3ヶ月でボスレベルの相手を倒せるわけがない。


 加えて今の俺は使。魔法は大抵、学園で習い始める。既に師匠として魔法士を雇ったりして鍛錬を始めている一部の生徒もいるが、ほとんどの生徒は魔法を使えないのだ。


「魔法を使えれば、俺だって…………って、ん?」


 ここで俺の頭の中に、1つの疑問が思い浮かぶ。


 ――あれ? もしかしてルイにも魔法使えるんじゃね?


 普通なら有り得ない。そう、

 しかし今のルイは普通じゃない。中身はこのゲーム世界を知り尽くした男であり、ずっと勇者の子孫である主人公の身を動かしていた男だ。


 すなわち俺は、使。主人公は魔法における全属性の適性を持っているため、ゲームに出てきた魔法はほとんど覚えている。そのため適性さえ持っていれば、ルイでも1人で魔法を使えるようになるかもしれない。


 だが問題は……。


「……ルイって、魔法の適性あるのか?」


 魔法の適性は学園に入り、特殊の水晶に触れることで分かる。ゲームでは主人公を動かしていたため、当然ルイの魔法適性は知る由もない。


「属性ごとに試していけばいいか」


 とりあえず明日は魔法のために1日を使うことに決める。オーガを倒すためにも、絶対に魔法の存在は必要になってくるからな。剣だけじゃさすがに負けるだろうし。


 当面の目標は魔法の習得になりそうだ。独学なためかなり厳しいかもしれないが、ゲームでの知識さえあればなんとかなるだろう。なんとかなる……はずだ。


「……よし! 頑張るぞー! おー!」


 暗がりの道中、一人で掛け声をする。誰かに聞かれてたらと思うと中々恥ずかしいが、自分を奮い立たせるための掛け声だから仕方ない。さて、明日からも頑張りますか。



 翌日、俺は朝早く起きるとすぐに外に出た。無論、魔法の適性を調べるためだ。本来の適性の調べ方とはかなり異なるが、今すぐにでも知りたいため仕方がない。


 【狂乱の森】に到着する。まずはスライムを相手に実験することに決め、近くにいるスライムを捕まえた。柔らかくて弾力のある魔物で、掴んですぐに広い場所へ投げ捨てる。


「スライムちゃん、お久ー」


 久しぶりにスライムと対峙する。しかし以前までと違うのは、俺が武器を何も持っていないことだ。まあ、最近は蹴り飛ばせば倒せるんだけど……。


 そんな事はさておき、今日は魔法の適性調べだ。さまざまな種類の魔法を、片っ端から試していくことに決めている。初めての魔法練習なため、まずは初級から試していった方がいいだろう。


「スライムちゃんには申し訳ないけど、これから君には実験台になってもらうからね」


 俺は謝っているとは到底思えない、獰猛な笑みを浮かべた。目の前にいる先程まで好戦的だったスライムの目には、なぜか涙が。スライムは今の一瞬で察したのだ。これから自分が、何をされるのかを。

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