第8話 オークごときに負けられねぇ!

 オーク&ゴブリン4匹と対峙し、冷や汗が止まらない俺。未だかつて感じたことのない死の恐怖。それが冷や汗が止まらない原因だろう。


「くっ……オークごときに負けらんねぇんだよ!」


 俺は目の前でヘラヘラしている敵の方へ走っていく。まずは周りにいる雑魚、ゴブリンたちの殲滅。オークとの戦いで邪魔になること間違いなしだからな。


「おらぁぁ!!」


 雄叫びを上げながら抜剣し、オークの目の前に立っている木の盾を持ったゴブリンに振り下ろす。しかし盾で防御され……るかと思いきや、盾ごと真っ二つになってしまう。


(…………あれ?)


 喜ぶべきことには違いないが、さすがに予想外だった。ゴブリンの武器、脆すぎじゃね……?

 木製の武器対真剣だからか、相手の武器がちゃんとした武器として機能していない。俺はニヤリと笑った。


「ははははっ! さあ、お前たちもこうなりたいか? なりたいなら相手になってやってもいいぜ?」


 先程まで見せていた恐怖はなんだったのか。戦う前までとはお互いの表情がガラリと変わってしまっている。


 真っ二つになったゴブリンを見て、周りにいた他の3匹のゴブリンたちは怯えた様子を見せた。そしてオークを残して颯爽と逃げていってしまう。


「あら、残念。そちらのオークさんは……ですよね」


 オークは表情を変えず、ずっとこちらを見下ろしている。真っ二つになったゴブリンを見ても、オイラは絶対負けねぇんだ、と言わんばかりにニヤニヤしている。


 クソ腹立つなぁ。知能低いくせに、煽り性能だけは高いってか? あの顔、めちゃくちゃにしてやりてぇ……!


 と心の中で毒づいていると、オークが金棒を振り上げながらこちらに迫ってきた。スピードとしてはあまり速くないが、中ボスレベルともなるとさすがにその辺のゴブリンとは桁違いだ。


 俺は金棒が振り下ろされる前に受身をとって避けた。このまま普通に戦っても勝てる気がしない。単純に、力での差がありすぎるのだ。


「んっ!」


 受身を取ってすぐに立ち上がり、オークに向かって剣を振った。すると金棒でガードされ、押し合いの形になる。直後、オークの力に負けた俺は後ろへ吹っ飛ばされ、背中が木にぶつかって声にならない声が出る。


「……っ、くそが……!」


 剣を盾にして金棒からガードしても、そのまま吹っ飛ばされてしまう。そのため避けるしかない。

 結局オークからの攻撃を受身で避けまくり、好機をうかがうこと暫し。受身を取ったところに偶然、先程真っ二つにしたゴブリンの木の盾が落ちていた。


「……これだ! 思いついたぜ、あのクソデブ野郎をぶっ殺す方法を!」


 俺は真っ二つになった木の盾を拾い、オークから距離をとる。チャンスは1回きり。ミスすれば恐らく俺はあいつに勝てないだろう。


 意を決して立ち上がり、再びオークと対峙した。そして先程拾った木の盾をオークの顔面に目掛けて投げつける。

 案の定、は金棒に弾かれた。そしてには反応できず、目の辺りにぶつかった。


(今だ……!)


 オークの視界を一瞬だけでも奪えればいい。その隙に距離を詰めるんだ。俺は剣を両手で持ち、オークではなく近くにある木に向かって駆け出した。


 木に近づいてきたところでジャンプし、どんどん木を登っていく。そしてある程度の高さまで登ったところで、俺の姿を探しているオークを見て獰猛な笑みを浮かべた。


「こっちだクソデブ野郎」


 オークがこちらに目を向けた瞬間に再びジャンプし、自分よりも3倍近く大きい化け物の首をねた。

 見事に真っ二つになり、頭は無惨にも遠くへ飛んでいく。俺はその様子を眺めることなく、サッと下方に血の付いた剣を振り払った。


 ……かっこいいから一度やってみたかったんだよね、これ。


 念願だった血振りをし興奮しつつも、倒したオークに目をやった。俺が倒したんだよなぁ……この化け物。

 少し前までスライムすらも倒せなかった自分からしてみれば、本当に有り得ない。最弱だった俺が、着実に強くなっているのが分かる。


「……でもまだだ。きっとまだ、主人公には敵わない」


 主人公。シナリオ通りに進めば、俺を破滅に追いやる人物。

 あいつに決闘で勝てるようになるまで、俺は強くならなければいけないんだ。オークよりももっと強い魔物を、簡単に倒せるくらいまでに強く。


 学園に入学するタイムリミットまで、あまり時間は残っていない。それまでにこの【狂乱の森】の中心部にいるボスレベルの魔物、を倒すんだ。


「オークごときで満足なんかできねぇんだよ」


 倒れたオークにそう吐き捨て、俺は【狂乱の森】を後にしたのだった。

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