第7話 ゴブリンを倒す……だけのはずだった

 父上に許可をもらってから、俺は強くなるためだけの毎日を送っていた。魔物を狩って狩って狩りまくる日々。


 まるであの頃のゲームをやっているような感覚。絶対に倒せないチート級の魔王を倒すため、学校を休んでまで奔走していた日々に似ている。


「今日はゴブリンを倒しに行くんだ」


 正直、スライムでは物足りなくなっていた。気付かれずに背後から核を潰せば簡単に勝てるし、恐らく倒しすぎてもうあまり経験値は入っていない。


 今までどれくらい倒したのかは数えてないが、100体は軽く超えているかもしれない。だって倒すの一番簡単だし、もはや作業とまで言える。……別に、他の魔物と戦うのが怖いからじゃないからね。


「ゴブリンなら確か、【狂乱の森】をもう少し進めば出てくるはず。ゲームでやってたように、スライムは蹴り飛ばして無視するか」


 ゲームで主人公を操作していた時はかなりレベルがかなり高かったため、蹴り飛ばすだけで倒すことができた。まあ、今のルイは言うまでもない。


 今となって考えてみると、蹴るだけでスライムの核を潰せるなんて最強にして最恐だった。でも魔王は何度挑んでも倒せなかった。一体誰が勝てんのかね、あの魔王に。


「……よし、じゃあ行くか」


 前世の頃について考えながら準備を終わらせ、カミラに行ってくるとだけ伝えた俺は【狂乱の森】へ向かう。ゴブリンと直接対峙するのは初めてなため、怖いのに楽しみというなんとも言えない感情が湧き上がってくる。


 突然出てくるスライムは予定通り蹴り飛ばし、どんどん奥へと進んでいく。そしてしばらく中心部に向かって歩いていると、変な鳴き声が聞こえてきた。


 鳴き声のする方にひっそりと、気付かれないように近づいていく。するとそこには、座りながら談笑(?)をしているターゲットの姿があった。


 小さくて醜い人型をしており、肌の色は緑色。鼻や耳は尖っていて、禿げ頭で目つきが悪い。紛れもなくゴブリンだ。


(2匹か……周りに他の奴らはいない、よな)


 目の前にいるゴブリン2匹はまだ俺に気付いていないようだ。そっと、そっと、足音を立てないように近づいていく。ゴブリンたちの背後を取れたところで抜剣し、上半身と下半身を一気に両断するように剣を振った。


「おらぁぁぁ!!!」


 見事に狙い通りゴブリンたちの体は一刀両断され、上半身は見えないところへ吹っ飛んでいく。俺の剣が速すぎて、2匹とも声を出せなかったようだ。ふっ……さすが俺。


 今までずっと敵にバレないように背後を取って戦ってきたが、やはりこの戦法スタイルが俺には合っている。だって最弱だもん。真正面から戦ったら負けるに決まってる。


「……でも、真正面から戦わないとダメだよなぁ」


 もちろん俺が最低で、卑劣極まりないことをしているのは分かっている。いくら勝てないからとはいえ、背後から攻撃するのは相手にも失礼だ。


 そして学園に入れば、シナリオ通りに行かずともだろう。このままではダメなんだ。真正面から敵と戦うすべを身につけなければならないと、勇者の子孫である主人公には勝てない。


「ふっ……やってやるさ」


 覚悟を決めた。次の相手とは真正面から戦ってやるさ!!


 …………とは言ったけどさ? ねぇ、あれはさすがに違くない?

 目の前に立っているのはゴブリン。先程見た小さくて目つきの悪い、緑色の魔物……なはずなんだけどなぁ?


「おいおい、こいつってまさか……」


 だ。さっきのゴブリンたちとは一味違う。俺の3倍くらいの大きさ。イノシシのような牙が口元に生えており、ゴブリンのような緑色の肌をしている。右手には大きな金棒のような物を持ち、こちらを気持ち悪い顔で見下ろしていた。


 そして周りには先程見た小さなゴブリンが4匹。オークを囲うように、俺と対峙している。武器は木の棒やら木の盾やら、それぞれ別の物を持っているようだ。


 普通のゴブリンではない。ゲームでよく見る、ボスの手前で出てくる中ボスがオーク。こいつを倒してさらに奥へ進めば、ボスレベルの奴が待っているのだ。


「あ〜……逃げたい」


 思わず本音が出てしまう。ニヤニヤしながらこちらを見ているゴブリンたちはまだしも、オークが相手となるとかなり厳しいような気がする。


 あー、もう帰りたいよぉ。ゴブリン相手でも余裕だったからって調子乗りすぎたよぉ。謝るから見逃してくれないかなぁ。そうだ、一旦逃げよう。


「あのぉ〜、そこの見目麗しい方々? 私には戦う意思などありませんので、今回は見逃してはくれませんかねぇ?」


 とりあえずまずは交渉してみることにした。すると目の前の魔物共は首を傾げ、こいつ何言ってんの? と言わんばかりにこちらを凝視してくる。


 ま、まぁね、さすがにね、交渉には応じてくれないよね。なら仕方ない。この俺が大勢のスライムたちに囲まれた際に使った、あの最終奥義を使うとしよう。そして逃げよう。


「……あっ! あんなところに可愛いお姉さんがっ!!」


 敢えて大きな声で言い、適当な場所を指で差す。オークたちが騙されたところで……って、あれ? 騙されて、ない?


「な……なんだとッ!?!?」


 俺の最終奥義。『可愛いお姉さんなら誰でも目を奪われること間違いなし戦法』は、オークどころかゴブリンたちにも効かなかった。


 オークたちはこちらから一切目を離さず、気持ち悪い鳴き声で俺の様子をうかがっている。……あ、こいつらって知能低いんだっけ? だから言葉が理解できなかったのか……なるほど、終わったわ。


「しゃおらぁ!! お前らなんかこの俺がぶっ殺してやらぁ!!」


 逃げるのはもう諦めた。だったら戦って、こいつらに勝つしかない。絶対に勝つ! そう心に誓い、俺はオークたちに立ち向かったのだった。

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