第6話 スライム倒したくらいで驚きすぎじゃね?

 ――コンコンコン。


 父上にとある提案をして部屋に戻ってから少し経ち、俺の部屋のドアがノックされた。


「誰だ?」

「カミラでございます。入ってもよろしいでしょうか?」

「入っていいよ」


 カミラは失礼します、と見入ってしまうような美しいお辞儀をし部屋に入ってくる。恐らく、父上から先程の提案に関する伝言だろう。


「ルイ様、ご主人様からの言伝でございます」

「……おう」


 分かってはいたが、なんと言っていたか気になる。強くなれるための証明をしてみせろとは言っていたが、心の中では俺に対して相当怒っていたに違いない。


 ルイは元々父上に褒めてもらえるように勉強を頑張っていたし、突然勉強をしたくないなんて言えば当然だ。それにしても強くなるための証明、どうしようかな……。


「明日中にスライム5匹をご主人様の目の前で倒せたなら許す、とのことです」

「え、それだけでいいの?」

「はい」

「……わかったよ。ありがとう、カミラ」

「はい。では、失礼します」


 カミラはそう言って、すぐに部屋から出ていった。やがて部屋で一人になったところで、ずっと我慢していた言葉をポツリと漏らしてしまう。


 ――え、簡単すぎじゃね?


 明日中にスライム5匹を倒すだけでいいの? え、もしかして俺のことバカにしてる?

 スライムはこの世界で最弱な魔物のはずだ。加えて俺は既にスライムを何匹も倒している。


「はぁ……めんどくせ」


 すべては学園に入るまでの3ヶ月を修行に使うため。主人公に無様にやられないように強くなるため。だとしても、正直スライムを倒すのは飽きてしまった。


 今日だけで何匹倒したと思ってるんだ? 数えてないから詳しくは分からないけど、10匹以上は確実に倒しているんだぞ? もう別の魔物を狩りに行きたいよ。


「……まあ、スライム5匹で父上が許してくれるなら、さっさと終わらせるか」


 これからはスライムより少し強いを倒しに行きたい。この世界のゴブリンはいくつもの種類があり、武器を持たないゴブリンや武器を持つゴブリン、それらを統率する中ボスレベルのゴブリンなどがいる。


 正直スライムを倒せた今のルイなら、中ボスレベルのゴブリン以外だったら倒せるだろう。だが油断は禁物だ。いくらどんな風に襲ってくるか分かっていたとしても、これはゲームではない。現実なのだ。


「ゴブリンなら殺される可能性もある、からな」


 そう、スライムなら致命傷を負わされることはない。しかしゴブリンは違う。武器を持っていれば、油断すると簡単に致命傷を負わされてしまう。


 ルイはまだ雑魚キャラだ。ゴブリン相手でも用心しなければならない雑魚キャラ。そんなのはとうに知っている。


「雑魚キャラだからどうした? だったら雑魚キャラなりに、戦えばいいだけさ」


 そう、俺は悪役モブ。正攻法ではなく、悪役らしく姑息な手を使えばいい。結果スライムも倒せたしな。

 明日、楽しみにしとけよゴブリン共。この俺が狩って狩って狩りまくってやるからな。


 部屋で一人、ルイは獰猛な笑みを浮かべる。そして周りには誰もいないのをいい事に、ガーハッハッハッ! と高笑いをするのだった。


 次の日、昼まで爆睡してから剣を持って外に出るとたくさんの人が待っていた。父上だけかと思いきや、父上を慕う従者たち。さらには護衛のためか、騎士の姿をした人たちが5人ほどいる。


「父上、お待たせしました」

「うむ。では行くぞ、ルイ」

「はい!」


 それから約20分、といったところだろうか。【狂乱の森】に着いてからは10分も経っていない。

 スライム5匹を倒し終えた俺はやり切ったと言わんばかりに、額を流れる汗を拭いた。周りで見ていた人たちは、こちらを見ながら驚きを隠せない様子だ。皆が言葉を失い、唖然としている。


 ……てか、スライム5匹だろ? いくら俺が雑魚だからって、雑魚モンスター5匹ごときで驚きすぎじゃない?


「そんな、バカな…………」


 一番最初に言葉を漏らしたのは父上だった。驚きすぎて目を丸くしている。


「あのスライムを剣一振で、だと……!?」

「…………はい?」


 父上の驚きが、理解できなかった。スライムを剣一振で倒したのは事実だが、それのどこに驚く要素があったのか。


「あのレオは3ヶ月を使っても、スライム1匹も倒せなかったんだぞ……!?」

「…………ぷ」


 おっと危ない。思わず笑ってしまいそうになったじゃないか。

 兄上、そんなに雑魚キャラだったのか。ただ剣を振ってれば倒せると思ったんだろうなぁ……目に浮かぶよ。だって兄上、絶対雑魚だもん。ルイの兄だし。


「だから言ったでしょう、父上。兄上とは違うと」

「……あ、ああ。そうだな。許そう、お前の提案を」

「ありがとうございます!」


 そうして次の日から、俺は生活リズムを変えることにした。

 以前――前世の記憶を思い出す前までは勉学に励む毎日だったが、シナリオ通りに動くと今後の人生が破滅すると知った今。インドアな生活から、アウトドアな生活に完全に切り替えたのだ。


 まず朝早くに起きると、一人で剣の稽古をする。本来ならば騎士などの剣術を深く理解し強い人に稽古をつけてもらう方がいいが、性格上一人で黙々と練習をしたかった。

 そして朝食を取り、すぐに魔物狩りに行く。魔物狩りは外が暗くなるまでやり、終わったら夕食を取り、風呂に入って寝る。


 完全に強くなるためだけに特化した一日だ。できれば毎日したいところだが、父上に相談してみるとさすがに許してはくれなかった。

 毎日修行はダメ。勉学と休息も大事だ、ということらしい。結局、勉学と休息の日を1週間に2日取るという約束で、父上に許可を頂いた。


 かなりハードなスケジュールで大変だが、強くなるためにはすべて必要な事だ。そう自分に強く言い聞かせ、全身全霊で毎日を頑張るのだった。

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