第5話 自信があるようだが
「やはり最近、ルイの様子がおかしい。カミラ、何か心当たりあるか?」
「いえ、特には……。申し訳ございません、ご主人様」
「いや、構わない。それにしてもまさかあんな提案をされるとはな……」
とある屋敷の上質さを感じられる一室にて、2人は頭を抱えながら話していた。アルデレテ家の使用人であるカミラ。そしてカミラがご主人様と呼んだ、ルイの父親。アルデレテ家当主であるレイナルド・アルデレテだ。
――遡ること約1時間前。
ルイが父であるレイナルドのもとを訪ね、その場にいたすべての者を驚愕させる一言を放ったのだ。
「父上! これから学園に入るまで、強くなるためだけの生活を送りたいです!」
今まで父の言う事をちゃんと聞き、真面目に勉学に励んでいたルイ。そんなルイがここ数日屋敷を抜け出していたことは周知の事実であり、【狂乱の森】で倒れていたことは誰もが知っている。
一体何をしていたのか、どうして行ったのか、という野暮なことを使用人が聞けるはずもない。そして何より危険な場所には近づくな、とレイナルドが注意したため一件落着だと誰もが思っていた。
だがルイはその後も、屋敷を抜け出しては汚い格好で帰ってくる。もはや服を汚すのは日課になっており、使用人たちも誰かと遊んでいるのだろうと心配することはなかった。なのに……。
「理由を聞こう」
一瞬驚きを見せたレイナルドは、冷静にルイの真意を確かめることに決めた。するとルイは少し困った顔を見せ、目を泳がせる。
「えっと…………その…………とにかく強くなりたいんです!」
その場にいた使用人たちは、みんな揃って頬を緩ませる。男の子は強い人に憧れる。ルイもきっとそうなのだろう、と可愛い子どもを見るような目でルイを見た。
しかしレイナルドは今すぐにでも「大バカものッ!」と怒りだしそうな雰囲気だ。それでも怒りの表情を出さず、少しだけ黒いオーラを纏いながら言った。
「勉学を粗末にするなど有り得ん。学園に入るまでもう時間がない。お前は勉学に集中しなさい」
「なんでですか! 勉学に励んだところで、学園で役に立つことなどないでしょう!」
紛れもなく、ルイの言う通りだった。貴族としての立ち振る舞いなどは勉強した方がいいが、それ以外は学園でなんの意味もない。役に立たないものばかりだ。
学園では、爵位や武力が自分の武器となる。ルイは爵位も武力も、どちらもあまり高い方にはいないだろう。爵位は仕方ないとして、武力は今から頑張ればまだ間に合う。ルイにとって、勉強などしてる暇がないのだ。
「俺は強くなりたいんです! 誰にも負けないくらい強く!」
「強くなってどうすると言うんだ。強くなったところで、将来はなんの役にも立たんだろう」
「それは……」
「ルイ、黙って勉学に励みなさい。これは命令だ。お前もレオのようになってほしくない」
「…………へ?」
レオ。それはルイの兄、すなわちアルデレテ家長男の名前だ。レオは今学園に通っているはずだが、なぜレオの名前が出てきたのかと疑問に思う。
「レオも学園に入る前、私にそう言ってきたのだ。強くなりたいと。私は許した。だが結局、何も変わらなかった。レオは3ヶ月という時間を無駄にしたのだ」
3ヶ月。それはルイとほぼ同じタイミングで、強くなりたいとレイナルドに言ったのだろう。しかしレオはなんの成果も得られず、時間を無駄にしただけだった。
だからルイもきっと時間を無駄にすることになる。なら勉学に励ませた方がいい。というのがレイナルドの意見だった。
「それは兄上の話ですよね?」
「? そうだが、まさかお前はレオと違うとでも言うつもりか?」
ルイは父の問いかけを聞いて、不敵に笑った。
「もちろんです、父上。3ヶ月もあればきっと誰よりも強くなれると自負しています」
「ほう? 随分と自信があるみたいだな」
「はい。余裕のよっちゃんです」
「よっちゃん……? よくわからないが証拠を見せられるなら、お前が強くなれると証明できるのなら許そう」
「わかりました」
そして現在に至る。レイナルドは頭を抱え、どうしたものかと深くため息をついた。
「カミラ、ルイは【狂乱の森】の前で倒れていたと言ったな?」
「はい」
「ならスライム5匹だ。明日中に私の目の前で倒せたら許してやろう。そうルイに伝えておいてくれ」
「承知致しました」
レオは3ヶ月間、スライムを一度も倒すことができなかった。最弱の魔物であるスライムすらも。
剣術や魔術、ルイにはどちらも教えていないためスライム1匹を相手にするだけでも難しいはずだ。学園に入るため剣は買ってやったが、それだけ。
だったらスライムを倒しただけでも、十分これから伸び代があると言える。きっと無理だろうが、あれだけ自信があるなら大丈夫なのでは? と思ってしまう。
「いや、無理だろうな」
まだ結果は分からないが、レオも大丈夫だと言い切って無理だった。だったらレオと同じように、結果はあの時と変わらないだろう。そう思った。
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