第4話 最弱 = 伸び代しかない

 三度目の正直として、俺は1匹のスライムを見つけると颯爽と核を砕いて倒した。つい先程大量のスライムに苦戦したのが嘘のようで、背後から気付かれないように倒したのだ!


 姑息だ、正々堂々勝負しろよなどと野次を飛ばす奴らがいるかもしれないが、俺としてはやってることが悪役らしくてすごく気持ちが良かった。まあ実際、ルイは悪役だしな。


「とりあえず、また同じようにスライム倒しまくるか」


 今の俺には隙を狙って攻撃するしか、スライムに勝つことができない。最弱かつ悪役として、強くなるためには手段を厭わない。さあ、狩りの時間だ!


 それからしばらく同じ手を使ってスライムを狩り続け、気付けば外は暗くなり始めていた。合計で10体以上は倒したと思う。俺、やっぱり強いんじゃね?(錯覚)


 だが気がかりなのは、最弱だったルイのレベルがどれだけ上がったかだ。ゲームでは当然レベルという概念があったためすごく気になるが、いくらスライムを倒しても強くなったという実感が湧かなかった。


「もしかしてレベルの概念がないのか……? それとも実感がないだけで、レベルが上がっているのか……? いや、さすがにレベルの概念はあるよな」


 暗くなってきたため帰ることに決め、顎に手を当ててそんなことを呟きながら【狂乱の森】を出る。


 ちなみに俺がゲームをやっていた時に、動かしていた主人公がスライムから得られた経験値は1匹5程度。それなりにレベルが高かったため、全くレベル上げの役に立たなかったのを覚えている。


 だが今の俺は、だ。となると恐らくレベル1のルイは、かなりレベルが上がっているのではないだろうか。単純計算でも10匹で50の経験値が得られることになる。


「だったら今はくらいか?」


 経験値とレベルの相関関係は詳しく覚えていないため推測に過ぎないが、恐らくこのくらいだろう。そして確か学園の入学時、シナリオ通りだとだったはずだ。


 主人公は勇者の息子なため、剣術と魔術に長けた父親勇者に両方習っていた。そのため学園に入学する前から、周りと比べてかなりレベルが高い。俺が生き残るためにも、まずは主人公と同じレベルを目指さないといけないな。


「約3ヶ月でレベル30まで上げるのか。ゲームと違って自分のレベルも分からないし、せっかくの知識だって通用しないから結構難しそうだな」


 加えて最弱。相手が最弱モンスターのスライムでも苦戦する雑魚。それがルイだ。

 そんな奴がたった3ヶ月でレベル30になれるのか。結論から言おう。間違いなく、


 理由は単純。レベルが上がれば当然、次のレベルに到達するまでに要する経験値が増えていく。すなわちずっとスライムのような得られる経験値の少ない雑魚モンスターを狩り続けても、全くもって意味が無いのだ。


 強くなるためには、そしてレベルを効率よく上げるためには、強いモンスターと対峙し勝利しなければならない。だが今のルイには勝てるわけがない。


「……決めたんだ。なんとしても強くなって、生き残るって」


 バチバチと心の底から深紫の炎が姿を現す。

 不可能だからって、諦めるのか? 元々最弱のキャラに転生したんだし、仕方ないとか思ってたりしないだろうな?


「…………俺は諦めが悪いんだ。最弱のキャラに転生したくらいで諦める理由にはならない。それにシナリオなんてぶっ壊してやるって言ったしな」


 ニッと不敵で獰猛な笑みを浮かべる。


「シナリオ通りに動けば結局は破滅なんだ。だったら最後の最後まで、精魂尽き果てるまで足掻いてやんよ」


 俺が今最弱なのだとしたら、それはということだ。時間はかなり掛かると思うが、いずれ最強にだってなれるということだ。


 戯言だと、単なる夢物語だと、嗤いたければ嗤え。最弱は最弱なりに努力する。可能性は無限大だ。

 最弱が最強を目指す成り上がりの物語ストーリー。……ふっ、最弱が最強を目指すなんて、燃えるじゃねぇか。


「最初っから最強だとつまんねぇからな。最弱だった奴の成り上がりの方が見てて面白いってもんだ。覚えとけよ、主人公。ルイを破滅に追い込んだ奴は、俺が倍返しで返してやるからな!!」


 主人公がルイを破滅に追い込むのは、元はと言えばルイが悪いのだが。加えてまだまだ先の話だが。スライムを倒したことで調子に乗ってしまったのか、暴走は止まらない。


 先の展開シナリオを知っている俺は暗くなった森の中で一人、ガーハッハッハッ! と豪快に高笑いをする。それはさながら、ゲームに出てくる悪役のように。

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