第3話 二度目の初陣

「…………ん、ここは――」


 目を覚ますと、俺はベッドの上で横たわっていた。視界の先に見える物から、すぐにここは自分の部屋だと理解する。


 確か俺はスライムと交戦していて、一回突進されただけで気を失った。そのため本来ならスライムにやられた【狂乱の森】で目を覚ますはずだが、どうして自分の部屋にいるのだろうか……。


「ルイ様、お身体の具合はいかがでしょうか」


 まさかゲーム同様負けたら最初からやり直しなのか? と疑問に思ったところで、後ろから女性の声が聞こえてきた。寝返りを打つように後ろに振り向くと、そこにはメイド姿の女性が立っている。


 名前はカミラ・マルチェナ。アルデレテ家に仕えるメイドで、長い赤髪と大人びた雰囲気が特徴的だ。ちなみにルイが悪役モブでストーリーにも深く関わらないことから、カミラはゲームでは出てこなかった。


「大丈夫。でも、俺どうしてここにいるんだ? まさかカミラが?」

「いいえ、私ではございません。別の者がルイ様が倒れているのを見つけ、ここまで運んできました」

「……そっか。もしかして俺が気を失ってた間、カミラがずっと見ていてくれた感じ?」

「はい」

「ありがとう、カミラ。あと、俺を運んでくれた人にもお礼言っといてくれる?」

「かしこまりました」


 カミラはそう言って深くお辞儀をし、お大事になさってくださいと言い残して部屋を出ていく。その後ろ姿を最後まで見送り、完全に一人になったところで俺はベッドに倒れ込んだ。


「はぁ……まさかスライムに一撃でやられるとは思わなかったな……」


 ゲームでも最弱キャラとして名高いルイだが、まさかスライムの一回の攻撃でも負けてしまうほどの弱さだとは思わなかった。


 ゲームの時はスライムなんて蹴っただけでも倒せたほどだ。それなのに剣という武器を持ったルイは倒せず、一撃でやられるという始末。


「さすがに弱すぎだろ、ルイくんよぉ……」


 自分の弱さを改めて知り、深くため息をつく。想定外だった。ゲームの知識がある俺ならば、たとえ最弱と呼ばれるルイでもすぐに強くなれると思った。


 しかし現実は甘くない。ゲームの知識があったとしても、動かすキャラによって全然違う。……あれ、もしかしてシナリオ通り破滅ルートまっしぐらになっちゃう?


「――嫌だ。こんなところで終わりたくない……!」


 決めたんだ。どんな手を使ってでも主人公よりも強くなって、最悪な末路を回避する。ゲームのシナリオなんてぶっ壊してやると。なら俺は……。


「まずはスライムを倒せるようにならないと」


 ゲーム内で最も弱い魔物であるスライム。あいつを倒せないと話にならない。学園に入るまであまり時間はないし、今からでも早速倒しに行きますか。そう思って、ベッドから立ち上がろうとした瞬間。


「んうぇあ!?!?」


 体全体にビリビリと電気が走るような痛みが襲ってくると同時に、変な声が思わず出てしまう。なんだこれ……まるで全身が筋肉痛かのように痛い。


 たかがスライムの一撃でここまでなるのか? 体も雑魚すぎるだろルイくんよぉ! 何もかも雑魚なルイ。再び布団に入るという技、二度寝を使った。じゃあ、また明日。


 次の日、全身の痛みが嘘のようになくなった俺は【狂乱の森】に来ていた。理由は無論、スライム狩りだ。


「……ククク。昨日の借りは返させてもらうぞ。二度目の初陣、さすがに何度も雑魚相手に負けてられるか!」


 左腰に差してあった剣を抜き、いつ出てきても応戦できるように構えた。もうこれで絶対に負けない。


「さあ出てこいスライム共! 何匹出てこようがこの俺が成敗してやるぜ!」


 そう挑発してみせると、呼応するように一匹のスライムが草むらから出てきた。今回はちゃんと作戦を考えてきてるんだ。負けるわけがねぇんだよ。


 …………と、思ったのだが。


「……ちょ、ちょっと待ってくれ。スライムさん? いくらなんでも話が違うじゃないか」


 草むらから出てきたスライムはのだ。続々と一匹、もう一匹と草むらから出てきて増えていく。


 そしてあっという間に、指では数え切れないほどになった。俺の周りでは無数のスライムたちが可愛らしくぴょこぴょこと跳ねている。……あー、本当に可愛いなぁ。


「な、なぁ、お前たち? 少し話をしよう? 話せばわかるって」

「「「「むにゅむにゅむにゅむにゅ」」」」


 ……うん、これ詰んだわ。さすがの俺でもこの量は相手にできないって。本当に調子に乗りましたすいません。頼むから許して。誰か助けて。


 このままでは間違いなく、またしてもスライムという最弱モンスターに負けることになる。それだけは絶対に許されない。最弱モンスターに二度も負けるなんて、人生の汚点にしかならないからな。


 あの技を使うしかない。俺の最終奥義……!


「あっ!! あんなところに可愛いお姉さんがっ!!」


 敢えて大きな声で言い、適当な場所を指で差す。するとスライムたちは一斉に動きを止めた。ふっ……かかったな!!


 少しでも俺から注意をそらすことができればよかったのだ。逃げるが勝ち! じゃあな、スライム共!

 一瞬の隙を見逃さず、逃げるように屋敷に戻った。まじで死ぬかと思ったわ……。


「スライム相手にこんなんじゃダメだな、俺」


 二度目の初陣も、失敗に終わった。

 こんなことを続けていても何も始まらない。スライム相手に苦戦してばかりでは、最弱が最強になるなんて夢物語だ。


 三度目の正直。

 次こそは絶対にぶっ潰してやる。そう決めて、俺は再び【狂乱の森】へと向かったのだった。

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