13. 離島のんびり生活

 イノシシの一件以来、定期的にイノシシを探しているものの、今のところ発見されていない。


 ドラスティア旧金貨は10万ルア程度の価値があるようだけど、換金してしまうよりは、何かクエストでより「美味しい」報酬との交換が予想されているため、みんな保管していた。

 集落のNPCさんたちも高価だよとは教えてくれるけど、別に欲しがったりはしていない。


 金貨が配布されたことにより、宝箱の金貨をまだ狙っていた一部の人も、熱がだいぶ冷めて、今はほとんどの人が宝箱を放置している。

 いわゆる「死にコンテンツ」になっていた。


「お、また宝箱ある」

「おぉ、どれどれ」

「開けるわよ」


「はい、銅貨。残念」


 私たちは0.01%やそれ以下の未発見の報酬がないか、わずかな望みにかけて、一種のロマンを求めて今も時間が余っていればこうして宝箱を開けていた。

 ただし無理はせず、スライム狩りのついでや、近くまで来たときとかに。


 しかし残念ながら戦果は芳しくなかった。

 金貨もまだ出たことがない。

 0.1%の壁は厚い。


 釣りは相変わらずしている。

 釣り竿には耐久度というものがあり、定期的に武器屋さんで修理が必要だった。

 初心者の釣り竿の耐久度は50。普通の釣り竿の耐久度は100ある。

 だいたい魚を1匹釣るごとに1減るらしい。


 妹も釣り竿を買って釣りデビューを果たした。

 普通の釣り竿には釣り熟練度+20のおまけがついているのもプロパティを見たら載っていた。


 ▶普通の釣り竿

  攻撃力 5

  防御力 10

  耐久度 35/100

  釣り熟練度+20


 攻撃力とかついているけど、これで殴るのだろうか。

 ちなみに最初に貰ったナイフの攻撃力が10だ。


 ▶ナイフ

  攻撃力 10

  防御力 10

  耐久度 50/50


 ベルムンクソードのプロパティは御覧の通り。


 ▶ベルムンクソード+10

  攻撃力 30+10

  防御力 15+10

  耐久度 100/100


 ベルムンクソードの攻撃力は合計40でスライムに100くらいのダメージを与えられた。

 スライムのHPはたぶん200なので、普通に攻撃しても2撃で倒せる。


 こうやって2撃で倒せるのを2確定の略で「2確」という。

 普通のナイフでスライムを攻撃すると4回は攻撃する必要がある。

 効率は単純計算で2倍になる。

 もちろん移動時間や探索時間を考慮に入れていないので、実際に狩効率は2倍にはならない。

 狩り効率が一番よくなるのが1確なので、みんなそれを目指しているのだ。


 武器屋さんには普通の鉄剣も売っていて、それのプロパティはこんな感じ。


 ▶鉄剣

  攻撃力 15

  防御力 12

  耐久度 100/100


 ベルムンクソード+10を見ればプラス分は強化値によるものと推定されているけれど、チュートリ島では強化石がないので、何とも言えない。

 一番有力視されているのは実はスライムの魔石と、そしてスライムの雫なんだけど、最序盤のモンスタードロップだけで強化できるとも思えないので、スライムの雫は何か違う効果があるんじゃないか、と推測されていた。

 魔石はいろいろなモンスターがドロップすることから、数を集めて利用する方法があると考察されていた。


 さすがに利用方法が皆無で、ただの換金アイテムだとは思えない。

 スライムゼリーは何らかの錬金素材であると推定されている。


「スライムゼリーにお砂糖を入れて、はい、ゼリー」

「そのまんまですにゃあ」

「はい」


 そうなのだ。ゼリーは料理コンロの鍋でスライムゼリーと砂糖を合わせて煮て冷ますとできるもので、料理の一つだ。


 ▶スイートゼリー

  15分 防御+10


 これは文字通り防御力が+10されるものだ。

 生身のレベル1で防御10、レベル10で防御20で、レベル10分なのでそこそこお得ではある。

 問題はスライムの攻撃が弱っちいため、なかなか出現しないイノシシくらいしか役に立たない残念料理となっていた。


 料理と言えば豚肉を焼いたものをパンにはさんだものも作ってみた。


 ▶豚肉サンドイッチ

  15分 攻撃力+10


 こちらは攻撃力が+10されるようだ。

 スライム換算でいえばレベル10本人の攻撃力20。ナイフの攻撃力10。料理で10、合計40でダメージが80くらいになる。

 攻撃力の倍の値がスライムに与えるダメージだ。

 スライムは防御力が紙装甲なので、あまり参考にならないが、他のモンスターだとどのようになるかは非常に興味深い話題だ。

 計算式が攻撃力に対して正比例なので、ひょっとするとスライムは防御力0なのではないかと言われている。


 実際にはダメージの数値の20%くらいの幅がランダムで、さらにランダムのクリティカル補正、アクション要素のクリティカルヒットがある。

 クリティカル補正はクリティカル判定で単純に最終ダメージが倍になる。

 クリティカルヒットは弱点部位に当たるとクリティカル判定の確率が大幅に上昇する。

 逆にスカ攻撃だとダメージが半減または4分の1くらいのカスダメになることもある。


 スライムのクリティカルポイントは顔周辺となっている。


 いろいろ検証もされるようになって、分かってくることが出てきた。


 この計算式からするとクリティカルで防御を貫通するのは難しそうだ。

 クリティカルの式が、攻撃力が倍になるのであれば、防御貫通の可能性が出てくる。

 スライムではどちらであるか判別が難しい。


 強い敵が出てきたときに、通常攻撃では歯が立たなくても、クリティカルであればダメージが与えられるかどうかが決まってくるため、この話題は多くのプレイヤーにとって関心事となっている。




 さて、ところで私たちが何をしているかと言えば……。


「釣りですなぁ」

「釣りですね」

「釣りだね、お姉ちゃん」


 3人で並んで釣りをしていた。

 スライムばかり狩りをしていても飽きてしまう。


 そういえばスライムペンダントというレア装備があるらしいが、確率はそこまで低くはない。

 0.1%くらいだろうか。

 2000匹も退治すれば1個くらいドロップしそうではある。


 こういうレアドロップ品は集落で物々交換やルアで取引することもある。

 スライムペンダントの相場は2万ルアくらいだろうか。

 実際の値段はピンキリで交渉しだいで欲しいと言えば欲しいけれど、今すぐゲットしないといけないかと言ったら、別になくても問題はない。


 なんせ強い敵がいないので、あまり装備強化のモチベがない。


 携帯錬金窯というものがあるが何に使うかといえば、レタスジュースを5個投入して、濃厚レタスジュースを作ることができる。

 実は別に錬金窯でなくて料理コンロでも同じものが作れる。


 ▶濃厚レタスジュース

  15分 10秒毎HP+15


 確かに回復剤だけど、1分に90回復する。

 レベル10でHP200なので悪くはないが、そもそもスライム相手には過剰回復だった。

 あと味が微妙すぎる。

 これも2つ飲むと時間を30分まで延長できる。

 ただし欠点があって、料理と併用できない。


 錬金窯の使い道が出てきた。

 魔石の塊、初級強化石だ。

 どこかのNPCが知っていたらしい。

 武器屋さんの好感度を+100くらいまで上げると教えてくれたという。


 魔石の塊は魔石10個を錬成してできるが確率により失敗する。

 成功確率は30%ぐらいらしい。

 魔石の塊5個、スライムの雫1個、月日草1個を錬成すると確定で初級強化石になる。


 これで武器、防具、釣り竿などを+5まで上げることができる。


 成功確率は+1は90%、+2は80%と10%ずつ下がっていく。

 失敗時には初級強化石が消える以外には特にペナルティはない。

 強化石は+1には1個、+2には2個と必要個数が1個ずつ増える。


 月日草は頂上に1つ採取ポイントがあったけど、あれ以外にも林の中などに点在していて、リポップも最短10分、最長1時間くらいらしく、そこそこの数を採れた。

 実は林だけでなく、集落の広場の隅とかにも生えている。


 多くのプレイヤーが魔石とスライムの雫はたくさん持っていたので、すぐに挑戦して強化をした。


 装備はみんな同じように鉄剣に鉄鎧に普通のマントだ。

 両手盾というタンク向きの装備もあるが、この島では必要とされていないため、購入したもののアイテムボックスの肥やしになっている人も多い。


 私たちはそうそうにメイン武器、防具、マント、釣り竿を+5にしてしまった。

 私の場合はメイン武器のベルムンクソードがすでに+10だったので、強化する必要がなかった。


 朝は干物並べ、夕方は干物の回収。

 お昼過ぎにはおばあちゃんの畑の手伝いのアルバイトもあった。


 後の時間は釣りかスライム狩りくらいしかすることはない。


 私たちはスライム狩りをたまにして、残りの時間釣りをした。


 こうして体験版の一週間が過ぎていく。

 釣りの熟練度は100の大台に乗って止まった。


 こういう風にレベルなどの上限を制限するのを「レベルキャップ」と呼ぶ。

 キャップはもちろんフタという意味だ。


 熟練度のキャップは100らしい。

 レベルも同様に体験版のキャップである20で止まっている。


 することが宝箱を開けるか釣りくらいしかないので、釣りをしてゲーム内の毎朝に料理をして魚フライサンドを作って売る。

 そしてまた釣りをする。


 今売っている魚フライサンドには採取したレタスもはさんである。

 島のあちこちにはなぜかレタスが自生しているからだ。

 暇だったので、かなりの数を取って歩いた。


 他の人たちはイノシシの出現を未だに待ってスライム狩りを続けている。

 よくスライムだけで飽きないなと感心するが、スライムの雫とスライムペンダントが出ると、かなりよろこんでいた。

 やっぱりレア狩りは楽しいらしい。


 そしてついに、正式リリースの日を迎えることになった。


□◇□─────────────


 と、いうところで原稿の残りがございません。

 この後「正式リリースになり船で大陸側に渡って、王都で引き籠る」という話です。

 このお話はここで終了です、申し訳ありません。

 ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

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春空VRオンライン ~街から出ない採取生産職ののんびり体験記~ 滝川 海老郎 @syuribox

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