風が吹く
——ゴールキーパーは源田、鉄壁の守りでこのワールドカップでの失点はたった2点のみ。今までの2人のPKも止めています、あと1人止めれば日本の優勝が決まります。
(何だって?)
杉浦の目はテレビに釘付けになった。
ゴールキーパーの顔を見た、見覚えのある顔だった。あの時、ぽっちゃりした、転んでばかりの少年が凛々しい青年となって、ゴールの前に立ちはだかっていた。
——源田はずっとこの時を夢見ていたと言っていました。サッカーが大好きだった幼少期、自分はサッカーが苦手でしたと。コーチから向いてないと言われることもあったそうです。でもキーパーならできる、守護神としてW杯で日本を優勝に導くんだ、その時誓ったそうです。今その瞬間が目の前に迫っています——
審判のホイッスルが鳴った。杉浦も固唾をのんで見守った。
相手チームのキッカーがボールを蹴る、それを源田が飛んで……
——止めたーー! 日本、優勝! アジア勢初の、ワールドカップ優勝を果たしましたーー! ——
男は杉浦を見ずにつぶやいた。
「あのさ、思い上がるなよ。あんたの一言くらいで何か変わったり壊れたりなんかしねーよ。人は苦しみがあっても、それを受け止めて、乗り越えてやっていくもんなんだよ。でもな、その一言で喜んだり、時には悲しんだり命を絶つ者もいるんだ。だからどうせ掛ける声なら……」
男が杉浦を見ると、杉浦は目を閉じ、止まっていた。心電図のモニターはフラット、心臓が止まっていることを示していた。
「もう聞こえてねえか」
がちゃん、と扉が開くと、看護師が入ってきた。杉浦が死んだことを確認しにきたのだ。
「あれ? またこのテレビ故障してる。たまにテレビカード入れてないのにテレビがつくのよね」
部屋には杉浦の死体が一つ。きっとテレビは壊れていたに違いない。
今宵、何処かの病室で 木沢 真流 @k1sh
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