第6話 鉄のハインリヒ
「待て!」
自分は
「私の目を利用するなんて……あの魔女とは気が合わなそうだ」
そう言って金髪をなびかせたのは、荒野キキョウ。毒の『櫛』はもう抜けており、自らの意思で立っている。
自慢のブロンドを盛大に4,5本引き抜き、ふっと息をかけて飛ばす。黄金の網が出来上がり、カラスを捕えようとする。
『ホァア!』
カラスは方向転換して、開きっぱなしの窓から時計塔内部に入る。
「魔女は俺の好みじゃねぇな」
そう言って目を覚ましたのは、伊原木ツムギ。『胸紐』はもう切れており、自らの意思で立っている。
時計塔の壁に、両手をあてる。彼の服の袖からスルスルといばらの蔦が伸びていく。時計塔は見る間にいばらの棘で覆われ、出口がふさがれた。
『カァ、カァ』
塔の中でカラスの鳴き声が反響している。
「オレ様がこの美脚でもって、奴を打ち落としてこよう」
そう言って立ち上がったのは、落窪リオン。『毒林檎』をペッと吐き出して、自らの意思で立っている。
「
彼の美脚から生まれた二羽の鳩が、高速飛行してカラスに追いつき、その赤い目をえぐりだす。
『アホォ、アホォ!』
ボトリと落ちた赤い目は、そのままグジュグジュと崩れて血だまりとなる。
ぐったりとした一羽のカラスと一匹のカエルは、そのわきに横たわる。
「やったか?」
「いや、まだです」
ホクトの指さす先で、血だまりから生まれた黒々とした影が魔女の形を成す。
『おのれらぁ、ゆるさんぞぉ』
「ここはボクにやらせてもらいます」
不二ホクトが自分の前に出る。
「お前たち、どうして……」
魔女の異能のせいとはいえ、殺しあう気満々だった王子たちが、ここまで道を切り開いてくれた。それはなぜか。
「ボクたち王子様は、美しいものが大好きだからですよ。あなたたちの友情とか、ね」
テツヤはぐったりとして動かないカエルの井上ケイのそばにひざまずいていた。
「真の白雪姫を見せてあげましょう」
喉につっかえた毒林檎を吐き出したお姫様は、王子様と結婚するのだが、話はそこで終わらない。『魔法の鏡』を使った継母への刑が執行される。邪悪なお妃さまは、焼けた鉄靴を履かされて、死ぬまで踊り続けるのだ。
「
『ぐぁああああああああ!』
白雪姫の物語には不釣り合いな紅の炎が、魔女の影を焼く。
「とどめだ!」
灼熱の炎に焼かれる魔女に、王子様でも何でもない、ただの男――三ツ矢テツヤが普通のパンチをくりだす。
それがとどめになったのか、魔女は完全に沈黙した。
「……やったな、テツヤ」
テツヤの背後で、か細い声がする。
「ケイ!」
先ほどまでカエルがいたところに、深い緑色の髪をした美少年が横たわっていた。
こうして5人の王子様と1人の元王子様の間には謎の友情が生まれましたとさ。
めでたしめでたし。
〈了〉
ウィッチクラフト★メルヘンプリンス 美崎あらた @misaki_arata
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