不幸体質な少女
古屋七加と古島家のその場にいなかった男性を除いた二人が死亡したという情報はいつものように繰り返し報道されている。
凶器が鋸であること、女子中学生のみが古島家の者でなく死因が別だということから七加が事件の犯人だと特定され詳しい捜査が行われている途中だという。
詳細がわからぬうちから学校は大騒ぎだ。
同じクラスの生徒が立て続けに死んでいることに加え、前に死亡した生徒の家族までもがこの世からいなくなった。
生徒よりも教師が大混乱だろう。
だって結局のところ子どもの責任なんて少しあるかないかで全ては教師の教育に唾を吐かれる。それが目に見えているし何より自分のいる学校の生徒が殺されることの気味悪さは子どもよりも大人が感じる胸糞悪さだ。
「これ以上の死者が出ないことを願って。
黙祷」
学校では普通聞かないフレーズ。
一人以上の死者が出ていなければ出ない文だが今の状況では文句だって言えたものではない。古島似千花、使手ひなき、古屋七加は人気な生徒ではないにせよ相当な傷を社会に作り上げたのだ。
冴は一人机に伏せていた。
涙ぐむクラスメイトを横目に口元を隠して口角を上げる。
これが望んでいたことなのだから。
新島冴は幸福とは言い難い家庭環境だった。
父は母との営みに夢中で母も同じ。
年がら年中互いのことのみを考えるラブラブっぷりは見上げるものがあるのだが子どもの冴にとっては寂しい、の一言。
幼稚園や小学校での楽しかったことの話や相談も聞いてくれない。
冴はそんな両親が好きではなかった。
ある時、学校で女の子が違う女の子にゴミを投げつけているのを見た。
それは日に日にエスカレートしたらしい。
隣のクラスの子だったものだから、そのいじめが問題視された時に当然耳に入った。
どうやら親が呼ばれてこっぴどく叱られたようだ。考えていて惨めな気持ちになるが、冴にとっては羨ましい。
人を虐めれば自分も親に見向きしてもらえるかもしれないから。
それから自分よりもトロそうな子、使手ひなきを虐めることにした。
ひなきの妹を失明させても、ひなきを追い詰め家庭を壊し、問題児として親に連絡が行っても誰も冴を見てはくれなかった。
慕ってくれているように見える友人だってきっと恐怖から仲良くしてくれるだけだと、
孤独感が冴を覆う。
逆に中学生になってからは虐められてみることにした。
単純なひなきのことだ。
同じ学校に復讐対象がいて、それが無抵抗だったならかつての冴にやられたことを冴に返すだろうと踏んでひなきのいる中学へ着いてきた。
思い通りだった。
冴は虐められて、ひなきは虐める。
小学生の時とは真逆の戯れ。
楽しんでいる冴がいた。
傷を作って帰れば親は見てくれるだろうか、
少しは心配して絆創膏や包帯をまいてくれるだろうか。
それを求めて突き進むうち、庇ってくれる子も現れて冴の心は晴れ渡った。
彼女らが死んだのは悲しかったけれど、それすら、ニュースで流れたら少しは親が心配してくれる材料になりそうで心が躍った。
退屈な一日が終わる。
家に帰るとどうせ何も考えていない両親がいて.........。
幸せだろう。衣食住は確保されている。
幸せだろう。美人な母と優秀な父がいる。
幸せだろう。点が悪くても叱られない。
幸せだろう。親がうざくない。
「あぁ...何て不幸なんだろう。」
衣食住が確保されているから文句が言えず。
遺伝子は優秀で期待はされるが与えた本人らが無関心で。
点が良くたって褒められたことはない。
うざいも何も話してもくれない。
なんで生きているのだろうか。
親にも認めてもらえない自分が。
生まれて初めて知った人間達にすら言葉を紡いでもらえない自分が。
人の痛みや死を道具と認識してしまうようになった自分が。
「そっか..死ねばいいじゃん。」
急に思い立った。
家に帰ると夕方だというのに既に両親が営んでいて自分の場違い感を思い知らされた。
台所にある包丁、両親は料理なんかしないから放っておかれた切れ味の良くない包丁。
それを手に取った。
「もっと前にすれば良かったんだ....」
壊す前に。もっと前、壊れる前に。
絶望を感じた時に悪足掻きせずにこうしてしまえば良かった。
自嘲しながら決意する。
包丁を胸に突き刺した。
少しは自分の死のことで心を乱してくれますように。
「さよなら。」
「な..中原梓、です。あの..高校生活..頑張り、たいです。よ、よろしくお願い、します。」
「新島冴です......。皆さんよろしくお願いします。皆んなでいい思い出を作りましょう。」
「中原さん?」
「ど、どうしたの?新島さん。」
「これあげる。」「何?」
「え?給食の残飯。早く食べなね。」
生きたくても生きれない人がいるように、
死にたくても死ねない人がいる。
「なんて不幸体質なんだろう。」
不幸体質 白薔薇 @122511
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます