狂信者な少女
ニュースが流れた。使手ひなきとその母が家で血を流して見つかった。
父親は不倫をしており偶然発見日に家に戻ったそうだ。これは殺人者の家族の妻は嫌だと不倫相手の女が告発した情報だ。
「古島さんが亡くなったばかりなのに使手さんまで...辛いわよね皆んな。黙祷。」
七加は思う。それだけなのか、と。
個人面談や保護者会がある中で本当に使手ひなきの母親の異常性には気が付かなかったのか。
冴の時といい見て見ぬふりが過ぎる。
教師だって腐っているのだ。
そんなことよりも七加はひなきが亡くなってから決めたことがあった。
冴が悪者だと分かりそれを庇っていた古島似千花も悪者だった筈だ。
似千花という名前には前から違和感があった。
一人目の子供に似という字を付けるだろうか。
いや、付ける人はいるのだと思うけれど。
そうではなく、千花だけではダメだったのか。
完全に似る対象である千花が存在する。
母親の可能性もあるが確か古島似千花には姉がいたはずだ。
七加は似千花の姉の名前を千花だと推測する。
「冴、古島似千花のお姉さんについて知ってる?」
「ニチカちゃんのお姉さん?いるとは聞いたことがあるけど...。なんか複雑みたいで。」
「そっか..あの子の話を聞いても表情一つ変えないんだね冴は。」
「え..そんなことないよ?ニチカちゃんが亡くなったのは悲しいし悔しい。私のせいでって。」
何を白々しい。ひなきのことをいじめた罰。
それを庇い、自分のように改心することもなかった罰だ。七加は自分を正当化しながら心の中で毒を吐く。
改めて見れば冴はどう見たって悪い奴だ。
ひなきの訃報を聞いた時は嬉しそうに笑っていた、虐められていたのだから当然かもしれないが元はといえば虐めていたのは冴。
確実に冴の頭はおかしい。
理解できない怪物だ。
冴のことは今はどうだっていい。
悪人の家族は悪人。七加は似千花の家を知っている。少し前、まだ彼女らを善人だと思っていた頃に似千花が落とした学生手帳を拾った。
渡すついでに中身を見た時のことを鮮明に覚えている。彼女の住所はとても語呂がよくて今でも頭に残っている。
冴の家は知らないし今聞くのも自然ではない。
ひなきの意思を継ぎ、似千花の家族を殺す。
悪人を裁くのは正義の仕事だ。
そのために家族構成を知るのは必須。
姉だけの存在にこだわっていたのではないが、姉がいるといないとでは手間が違う。
家に帰ると昔、椅子を修理するときに親戚の大工からもらった鋸を手にもつ。
通報されないように大きなリュックに入れて。
似千花の家までは割と近いのですぐに着いた。
インターフォンを押すと。
『はい、古島ですが。』
と酷く疲れ切った声が聞こえた。
「クラスで作っていた天国の似千花さんへのお手紙を渡したくて。」
苦しい嘘だ、似千花が死んでからは何日も経っているし教師でもない1人の生徒が家に連絡もなく押しかけている。かなり苦しい。
『今開けますね』
弱々しく聞こえたあとすぐに扉が開いた。
娘が死んで少ししか経っていないのに不用心なことだ。
「ありがとうございます。」
家の周りに人がいないことを確認し、強引に家の中へ押し入る。
強盗のような行動でも正義は勝つ。
「貴女何を!?」
「鈍いですね、貴女達が悪いんです。」
狂信者・古屋七加は悠々とリュックの中から鋸を取り出して躊躇なく古島似千花の母親の首を掻っ切った。
「え.....」
信じられないというような声を出し、叫ぶことも叶わぬまま噴水のように首から血を噴き出して倒れた。
そのまま奥へと足を運ぶと信じられない光景だった。
管に繋がれて、生きているのか死んでいるのかもわからない少女。
自分よりは年上なのだろうけれどそれすらもよく分からない。
「....貴女がそういう人生でも、ナナは自分を悪いと思わないから。」
目を閉じてあらかじめ黙祷を捧げ首筋に鋸を当てる。
「だ....れ」
掠れた声。ギリギリ聞こえた声に答える。
「正義の味方。」
首に当てた鋸を勢いよく引く。
母の時と同じように血が溢れ、少女はゆっくりと目を閉じ、閉じきれずに半目のまま事切れた。
帰ろうと鋸を洗面所で洗い流していると物音が聞こえる。擦り寄ってくる音。
「まさか..!」
壁に体を預けながら大きな花瓶を持って寄ってくる似千花の母親。
「ち........か。」
逃げればいいと思ったが凶器を手にしていたら通報される。指紋や血を拭かなければ、それもまた捕まるかもしれない。
鋸で応戦した。
「化け物じゃん...!ナナ悪いことしてないっ」
死にかけの女と揉み合いになり鋸は女の腹部に当たり擦れる衝撃で皮膚が切れたようで女の血が飛び散る。
そして女が闇雲に振るった花瓶が七加の頭に勢いよくあたり、女が倒れた上に七加が力なく倒れた。
「こんな.......なんで。」
涙が頬を伝う。
七加の中で七加は何も間違っていなかった。
それなのになぜ。
意識が遠ざかって行って自分が死ぬのを感じた。
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