調子に乗るオバター
「どうだあああ、見たかああああ!」
演出もあり、暑苦しい顔のアップで冒頭を飾り、試合を振り返った。試合の映像が残っていないので、口頭だけで試合展開を説明した。ところどころに「その時、俺の放つ神の右が炸裂した」等の大仰な演出を加えながら。
詐欺師の才能でもあったのか、小幡は意外にしゃべりが巧かったので、それとなく試合展開が想像出来るトークにはなっていた。最後には対戦相手の感謝も忘れない。仮に「相手が弱かった」といった発言があればすぐに炎上する。
そのタイプの炎上はダメだ。他の人を傷付けて被った炎上というのは、自身が体を張って起こした炎上とは性質が違い、かなり冷ややかな目で見られる。
それはゆくゆくアカウント停止といった最悪の事態に発展しかねない。動画配信が生命線となっているオバターにとって、そのような事態は決してあってはいけない。
配信が終わると、会場で撮った試合の映像をアップロードしてくれたフォロワーがいた。こちらも配信とセットで観られて、それなりの閲覧数になった。
試合の動画は好評だった。「口だけ番長に違いない」と言われていたオバターは実際に強かった。
過去の栄光にすがる痛いボクサーもどきではない事が知られると、今までアンチであったユーザーでさえオバターに好意的なコメントをするようになった。勝てば官軍という典型的な例だ。
「これはいけるぞ」
小幡はかなりの手ごたえを感じていた。
そこそこのネット有名人であったオバターの試合でさえ、いざ発表になれば面白がって視聴者がチケットを買い、会場へと来てくれた。
今後このパターンでファン層を拡大していけば、下手な日本チャンピオンよりも稼げるボクサーになる事も夢ではない。調子に乗りまくった小幡の脳内にバラ色の妄想が広がる。
小幡は完全に調子に乗っていた。小さい頃から練習だけは真面目にやってきた。
大迫との不仲でだいぶ腐った時期もあったが、いい試合をして観客を喜ばせれば、それが収入へと繋がる。まだ何も成し遂げていないのに、朝倉未来にでもなった気分だった。
――だが、私達は知っている。
こういったお調子者がおおよそどのような末路を辿るのかを。
(カクヨム版はここまでです)
無敵の人 カクヨム版 月狂 四郎 @lunaticshiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます