第4話 比和野の珍解答



「さて、ようやく最後の珍解答を見られるね」


 三輪の発表からしばらく笑いが絶えられず笑いこけていたのがようやく落ち着いたころ山田が口を開いた。


 最後の解答者、比和野は一人汗をかいている。



 それは恥ずかしいからというよりはこの流れでオオトリを飾るにふさわしい珍解答ではないのではないかという謎のプレッシャーからであった。


 そんなところにプレッシャーなど感じなくてもいいはずであるのだが、この比和野、根がとてつもなくまじめであるのだ。



 それ故こんなこと(珍解答の暴露大会)であっても責務を全うしようとしていた。


 本当はオオトリなんて飾りたくない。

 何なら皆もうひとしきり笑い終わっているのだから、自分の暴露はしなくても良い流れになってくれないかと思っていた。


 自分の珍解答は単純なミスであるし、ほかの3人のように新鮮味もない。

 使い古されたミスの仕方であろうと思っていた。

 よく珍解答で調べれば出てくるものである。


 ベースはだが。


 インパクトに欠けるだろうし、もう笑いつかれた他の3人には笑えないものではないかとおもいつつ解答用紙をテーブルの上に置いた。



 比和野の珍解答

 科目:世界史

 問題:カナダのオンタリオ州とアメリカ合衆国のニューヨーク州を分け国境となっているものの名称を答えよ


 答:ナイアガラの滝

 比和野の答え:ナイアガラの龍


「んっ」

「誰かやるとはっ思ってたけど、っこれは違う」

「純粋に疑問……ふふふ」


 王道中の王道。


 むしろそれが進化している珍解答に困惑と笑いが半々になった何とも言えない表情をする面々。


「いや、笑うんだったら思いっきり笑ってよ」


 比和野は予想通りの反応に泣きたくなってくる。



「なんでこうなったの???」


 山田がすごく真面目腐った顔をして聞いてくる。


「……く」

「え? なんだって?」


 ぼそぼそと下を向いて話す比和野の声が全く聞こえなかった彼女は純粋に聞き返したつもりだった。


 だが、受け取る比和野とすれば弄られているように感じたのだろう。

 とてつもない大声で「ナイアガラの龍!!!」と叫んだ。


「うるさ!」


 耳を傾けていた山田は耳が痛くなり、耳をふさいだ。

 周りを見れば他の2人も同じように耳をふさいでいる。


 だが、比和野はそんなことお構いなしに理由を話していく。



「だってよく見る珍解答でやっているなって印象が強すぎて、引っ張られたんだよっ!! 竜が違うなら龍だろって意味わからん間違え方をしたの! 僕だってよくわかってないんだから」


 一息でしゃべり、息切れを引き起こしていた。

 はあはあと肩で息をしている。

 逆ギレである。


「キレんなし」

「釣られちゃったんでちゅよね~ちかたないでしゅね~」

「おおよしよし。怒らなくても大丈夫ですよ龍君」


 それでもめげない3人はやはり思い思いに彼を弄った。

 むしろキレればキレる程彼を弄る長さは長くなっていく。

 その顔は意地悪な微笑みを称えていた。


「はあー-? マジで君達意地が悪いよね」


 その顔は比和野を苛立たせるのに十分であった。

 悔しそうに下唇を嚙んでいる。


 それすらも弄るための燃料へと変換されていると冷静を失った彼は気が付かない。

 水野は幼子をあやすように話し、山田は比和野の顔をまねているし、三輪はその様子にお腹を押さえて転がっていた。



◇  ◇  ◇



「はあ、はあ」


 あまりにも笑いすぎて過呼吸気味になっている面々。


 当初の目的であるミスを笑い飛ばすという目的は十二分に達成できたといえよう。


 ただ、なんだかとても疲れた。

 それは4人の総意である。


「もうなんだかどうでもよくなっちゃった」


 山田の声にうんうんと頷く一同。

 彼らは己がミスをもう二度と起こさないように今日のことを深く刻み込んだのだった。


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山田さんの心臓マッサージは35cm 香散見 羽弥 @724kazami

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