日本人の深層心理を明らかにする。

日本人の深層心理は、他の先進国には見られない独特の原始性に満ちている。自分以外のあらゆる事物に人格や意思を見出すからこそ、日本人は夜中の誰もいない交差点でも、赤信号で立ち止まる。信号が、道路が、空気が、木が、月が我々を監視しているから。
そんなアミニズムの深層心理ゆえに、日本人は日常風景のそこここに怪異を見出して畏れ慄く。本作はアミニズムの畏怖を、現代的な文体で幾重にも積層し、我々をして、仄暗い神々の深淵に引き摺り込む。
物語の構成も巧みという他にない。ひとつの怪異について、多くの短編を重ねていく。断片的に浮かび上がる怪異の姿は、不完全な像しか結ばない。真相を探求し、この世界観から容易に逃れられなくなる。そして、そういった我々の心の動きさえ利用して、より危険な闇の世界に我々を引き込む。
文章も構成力も一級の作品であり、英訳して外国人に読ませれば、日本人研究のいい題材になるだろう。
現代の泉鏡花、高野聖と言っても誉めすぎではない。