教科書と紅茶
これは、ニコライ国滅亡から数十年後のお話。
その日はとても心地の良い春の日であった。鳥が2羽ほど、青いペンキで塗りたくられたキャンパスのような青空を飛んでいる。彼らにとってニコライ国の滅亡は、風が一つの落ち葉をかっぱらったこととまったく同じようなことである。今世間はその話題で持ちきりであるのに、彼らはそのことなど知りはしなかった。
鳥たちが知らない話題の一つに、ストーンジェリー家の衰退がある。
かつては政治の最前線に君臨していたストーンジェリー家だったが、それから年月が経った今ではもはや一般家庭と同程度の勢力に過ぎなかった。
そしてその娘であるセーラ・ストーンジェリーは、青空の下の教室で歴史の教科書を読んでいる。彼女の机にはカフェテリアで買った紅茶が置かれてある。やはり貴族としての華やかな精神を忘れてはいないようだ。
「…、マッケイ様はこの年にお亡くなりになられたのね…」
とセーラはつぶやいた。
すると、教室のドアから一人、緑色のセミロングヘアーに茶色のカチューシャを付けた少女が現れた。リナ・ララジックだ。
「おはよう」
「おはよう」
「何か読んでるの?」
「あぁ、歴史書」
「レポートの課題?」
「うん」
「あのさ…」
「何?」
「あくまでも中立的な態度をとっといたほうがいいよ」
「わかってる」
「先生がどちら側についてるかなんて分かったものじゃないから」
そう小声で話すとリナは自分の席に着き、とある大学ノートを取り出した。シャーペンを動かしている。しばらくするとページを破り、窓から捨ててしまった。絵でもかいているのだろうか。
「おはよー!」
「あぁ、おはよう」
「おはよー」
入ってきたのは黄色の髪をツインテールにしている少女である。サマンサ・オリーブバローだ。
「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た?」
「もー、サマンサったら、またドラマ徹夜で見たでしょ?」
「ただのドラマじゃない!『ハピネス・リーフ』っていう名前があるんだから!今回だって最っ高だったんだよ!?」
「どーでもいい」
「ガーン」
「てかドラマってただの作り話だし…」
「ガーン」
ドラマチックな話とは、サマンサの心を思いっきりつかむ最高のアイテムである。まったくもって、その通りだ。しかしリナとセーラの心には全く響かない。
「作り話ってあまり好きじゃないの」
「え!?へぇあ!?」
「私は…、ドキュメンタリーが好きかな?」
「ああ!いいよね!ドキュメンタリーの再現ドラマとかさ!」
「でしょでしょ!」
「私たち気が合うねー」
「ねー」
「確かに」
「レオンも好きなのかな?」
「来たら聞こうよ」
「でもあいついつも遅刻してるやん」
「いいツッコミ」
「グッドジョブ」
「ありがと」
すると、教室のドアがガラガラとあいた。
「久しぶりだな。あいつが遅刻せずに来るの」
赤い髪をぎりぎりまで高く結わいた少女がやってきた。名前はレオン・アビー。とにかく明るいが頭は弱い。
「おっはよー!」
「おはよー」
「おはよう」
「おはよ」
「ねぇねぇ!今日は奇跡だよー」
「このまま無遅刻無欠席になればいいね~」
「なれるかな?」
「なれるか」
「おおっ…」
「相変わらずセーラの言葉のトゲ凄いね~」
「リナには言われたくない」
4人が話していると、チャイムの音と同時に先生が入ってきた。
「あ、キャメロン先生」
「おはよーございまーす!」
「こら、私語禁止だぞ」
キャメロン先生は教壇についた。
「さて、レポート課題は済んだか?もちろん中立的な態度をとっているかで審査をする。そして…、くれぐれもニコライを支持するな」
「ハイ」
「くれぐれも支持するな」
「ハイ」
「くれぐれも」
「ハイ」
「くれぐれも…」
「ハイ」
キャメロン先生は、歴史の教科書を取り出した。
「さて、今日学習することは……」
奴らはクレイジーだった。 @himeyomu
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