牛丼神話論

ほらほら

牛丼神話論

 原始、牛丼は神の使いであった。


 舶来の肉食文化と、日本古来の米食文化が組合わさり産み落とされた、神からの恩寵であった。

 

 艶々の米飯の上に載せられた甘辛く煮込まれた滋味に溢る牛肉。それをより引き立てる玉葱の甘味。

 そして何より一つの教えに拘泥しない懐の深さ。


 人はそのあまりの神々しさに涙し、より多くの者に教えを広めるべく天啓を授かったのだ。


 結果、より美味で、何より安価なそれが、多くの者達に至福の時を与えうるに至った。

 それは世を変えるだけの力強さを、人々に与うるに相応しい癒しだった。


 数々の困難にも屈せず、人々と共にあった牛丼は今や、確固たる信仰を築き上げたのだ。


 しかして、人は神から与えたもうたうた、その恩寵をいつからか当然と思うようになる。

 その神威に胡座をかき、その恵みを当然の如く享受するようになってしまったのだ。

 神からの恩寵を欺瞞に満ちた言葉にて偽り、欲のままに費やす堕落した者共まで現れる始末だ。


 かつて、人には神への感謝があった。

 だが、いつかからかそれはすっかりと忘れ去られてしまった。


 その結果が、この惨状である。

 これが、人の罪なのだ。

 そして、我らは神の怒りに触れた。

 もうすぐ神罰が下る。


 我々がその恩寵を目にすることは、もう二度と無くなるのだ。

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