第36話 真の魔王登場

はむきちは、鑑定魔法によって全ドラゴンが倒された事を再確認した。


「よし、ドラゴン事案は終了。あとは国境付近から進軍中の魔王軍だけど、おそらくは撤退すると思う。先兵となるドラゴンが瞬時に殲滅されて、そのままノコノコ進軍を続ける程彼らも間抜けでは無かろう…」


「必要であれば、魔王軍も即時殲滅が可能という事ですな?」


校長の問いにはむきちが答える。


「もちろん可能さ。しかし、それこそ非道だと思うよ。今回彼らがドラゴン達を操って成した事はもちろん非道だけれど、だからといって、僕まで同じ非道に堕ちるつもりはないんだよ」


はむきちの言葉にレイム君が反応する。


「ところではむきち、君の魔法は凄かったけど、ついでに一般市民まで巻き込まれたんじゃないだろうか?ドラゴンを倒すのにはあれくらいやらないと無理かとは分かってるけど、非道と言えば非道じゃないか?」


「ブラックホールの効果範囲に人間の生存反応が無いのは確認済みだったよ。ドラゴンの周囲は奴のブレスでかなり広範囲に蒸発してたし。それでも外縁部には死体が残ってたから、魔法で生き返らせることができた可能性はあったと思う。彼らを救えなかったのは残念だし、僕が無能とそしられても仕方無いと自覚してる」


「秒単位で大量虐殺が進行してたから、君は死者復活よりも、状況の即時解決を優先したんだね。了解、わかったよ。君は僕を勇者として育てたいと考えているようだから、圧倒的暴力の非道について、敢えて聞いておきたかったんだ」


「うん、どんなに魔法術者としての能力が優れていようと、使い方を誤れば、君も僕も魔王と同じになってしまう。それは用心しないと。僕にとっての幸運は、ジャンガリアンハムスターであるという事さ。僕は鏡で自分を見る度に、踵で踏まれたら死ぬような自分なのだと自覚する。そして、そのような弱者の為に自分の力はあるのだと、そう思うんだ」


はむきちはかっこつけているが、実はこれも過去に読んだラノベ内台詞の改変に過ぎない。


校長は、今回の侵攻によって多くの人間が亡くなったのは事実なのだから、幾らかでも魔族に直接報復して欲しいと考えていた。


しかし、はむきちの言を聞いて、それこそが血で血を洗う戦いの幕開けであるということに気づいた。


「無念ではありますが、使徒様のご判断は賢明と思われますな」


校長がそう語り、程無くして羽アリさん地図に表示された魔王軍の即時撤退が確認された。


「犠牲は大きかったですが、とりあえず国家存亡の危機は脱する事が出来ました。とはいえ、長期的に見れば、このまま終わると言うことも無いでしょう」


「使徒様とレイム様がおられれば、魔王軍が無防備に特攻してくる可能性は無いと思いますが、何かしらの奇策を用意してくるかもしれません。油断は禁物かと」


校長の言葉にはむきちは頷き、言葉を返す。


「そういえば、王城の軍議に参加するよう王女に言われているのです。ドラゴン事案は収束しましたが、今後の事もありますから、今から皆で王城に転移したいと思います」


校長、レイム君共に分かったと頷く。


「ちょっと待ってくれ、君達は来客に茶の一杯すらも出さぬまま、この部屋から出ていくというのか?」


唐突に発せられた言葉の主を探して、皆が声が聞こえた方角を注視する。


するとそこには、壁際の椅子に足を組んで座る、魔王がいた。


「はじめまして、私は魔王アレクサと申します。どうぞ皆さんお見知りおきを」


ニッコリ微笑む彼は、高身長で笑顔が爽やかな好青年であった。

黒髪の短髪、質実剛健なる軍属の長という雰囲気も漂わせている。

皮肉な事に、容姿で言えば彼こそ真の勇者らしく見えている。


邪念も悪意も感じられない、爽やかな笑顔。


「認知阻害の魔法か!この校舎は魔力無効化の結界に守られているはず、一体どうやって!?」


校長が驚きの声を上げた。


「魔力無効化だって?冗談はよしてくれ、目の前に大量の魔力を消費しているブツがあるではないか」


魔王がテーブル上の羽アリさん地図を指差す。

言われてみれば確かにそうだ。

この地図は大量の魔力を消費し続けている。


「高位者にとって、この程度の魔力無効化結界など、目の粗いザルに過ぎん。気付かねばウッカリと言うこともあろうが、気づいておればどうという事もない。第一、そこのネズミに出来る事が、我に出来ぬはずかなかろう」


その言葉を聞いて、皆が顔面蒼白になった。


特にはむきちの恐怖は尋常ではなかった。


はむきちは、魔王の存在に一切気付かなかった。


つまり、魔王は文字通りはむきちを踵で踏み殺す事も出来たのだ。


もちろん、はむきちは自身に様々な防御魔法を常時展開して、物理、魔法共に攻撃から耐える準備はしている。


しかし、それらの全てすら、この魔王にとっては目の粗いザルなのかもしれないのだ。


「…何故先に僕を殺さなかった?」


恐怖を抑えて、はむきちは魔王に問いかける。


「答えたところで到底お前には全貌を理解できぬ。しかし、敢えて答えるのであれば、ネズミ、お前に興味があったからだ。お前は自覚しているのか?お前は明らかにイレギュラーだ」

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