謎のゲートとスライム Episode.5

「華衣ちゃんご飯だよー!!」


華衣はその声ではっとおきあがり、時計を確認する。時計は6時半を指していた。雪原家はいつも6時半頃に夕食を取る為、華衣はベッドからのそのそと起き上がると、ふぁいと情けない声で返事をし、のろのろとリビングに降りていった。

リビングに降りると、華奈は、食事を運ぶ手伝いをしていた。


「あなたが呼ばれてすぐ来ないなんて珍しいわね、華衣ちゃん。寝てたの?」


母、雪原雅日ゆきはらみやびが、ご飯をよそいながら言った。中々の資産家の家に生まれ、昔からかなりの美意識を持っていた母は、真っ白な肌には毛穴一つも毛一つも無く、黒い髪は繊細でとてもサラサラ、綺麗に切り揃え透明なネイルが塗ってある爪、華がある子どもらしい顔、という、今年40のおばさんとは到底思えない外見をしていた。10代だと言われても、十分納得できるほどだった。

「うん、ちょっと眠くてね」

頭を掻きながら、食卓へ向かった。食卓には既に、父、雪原剛志ゆきはらつよしがおり、夕刊を読んでいた。


「父さんそれ読んでて楽しいの」


「…おう」


父の隣に座りながら、父に話しかけた。父は無口な人であり、おまけに強面な為、初対面の人には、怖がられてしまうことが殆どだった。しかし実際は、殆ど怒ることはなく、動物好きで心優しい、というありきたりなギャップ人間だった。本当にこんなギャップを持つ人間がこの世に存在したのか、という程だった。


「じゃあ食べましょ。いただきます」

「いただきまーす!」

「いただきます」

「…いただきます」


それぞれがそれぞれのテンションで挨拶をして、食べ始める。


「華奈ちゃん、今日学校はどうだった?」


雅日が優雅な動作でご飯を箸で口に運びながら華奈に聞く。

「楽しかったよー!今日はユウちゃん達と鬼ごっこした!」

華奈が笑顔で答える。”ユウちゃん”と言うのは、華奈が特に仲の良い友達である。


「あら、それは良かったわね」


「うん!私が鬼になった時は無双したけどね〜w」


華奈が悪い笑顔でニヤつく。


「ふふ、楽しそうで何よりだわ。あ、そう言えば、お昼頃地震があったわよね。結構大きかったけど、大丈夫だった?」


雅日が心配そうに華奈を見る。地震というのは、昼頃に起こった、震度5弱の地震である。華衣の高校でも少しざわついたが、地震大国日本において、震度5弱程度の揺れなんぞへでもない。


「ううん、全然平気!むしろみんな笑ってたし!」


華奈が雅日の心配顔に笑顔でそう答えた。


「そう、なら良かった。華衣ちゃんと剛志さんは?大丈夫?」


「うちも大丈夫だよ。みんな笑ってた」


「…俺も平気だ」


「良かったわぁ。みんなのことが心配で心配で、家事に力が入らなかったのよぉ」


雅日は安心した様に、上を向いて溜め息を吐いた。

その後もたくさん話しながらご飯を食べ終え、雅日は食器洗い、剛志は雅日の手伝い、華奈は風呂、そして華衣は自室へと戻った。


「さてと…」


華衣は軽く伸びをしてから、机に放り投げてあった魔石を見つめた。


「これどうすっかな…」


家族は全員勝手に部屋に入ってこない為、引き出しにでも入れておけば、バレることはない。しかし、万が一にもバレたり、引き出しの中で魔石が割れてしまったりしたら、どうするべきか、華衣は悩んでいた。


「あとでタオルにでもくるんでおくかぁ」


そのまま魔石を放置し、華衣はゲートの前に転がっていた靴を拾い、ゲートをくぐった。

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Two Worlds War Records すずき @suzuchaan

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