後編_前に進むきっかけ
君から連絡が来たときぼくはなんて思ったんだろう。
やっと思い出さなくなってきたのにどうして今更連絡してくるのかな、とかせっかく忘れてたのになに、とか?
ぼくがどれだけ考えたところで答えはとっくに決まているのだけどね。
ぼくは公園に来ていた。一か月前にぼくが来た君との思い出の公園。そこに君は立っていた。ぼくが君の元に駆け寄ると、君は気まずそうな笑顔でぼくを見た。二人の間に沈黙が流れた。
不思議と怒りや悲しみはなかった。ただただぼくは君のことを見ていた。君もぼくを見ていた。先に口を開いたのは君だった。
「変わってないね」
と一言。
「そう?髪切ったけどな」
「外見の話じゃないよ」
ぼくが唖然としていると君は
「ごめんなさい」
そう謝ってきた。どれだけぼくを困惑させたら気が済むのだろう。
「それはいきなりいなくなったことに対して?」
君は無言で顔も上げずに頷いた。再び二人の間に沈黙が流れた。
今度はぼくが口を開いた。
「今更責めるつもりないよ。きっと君のことだからなにか理由があったんでしょ?」
縋るようにぼくが言う。君は頷く。
「気になってた人から告白されて…で、でもほんとにあなたのことも愛してたんだよ…?」
とぼくの顔色を伺うような口調で言った。ぼくは君に厭悪の情を抱いた。
それと同時に安心した。
「聞けて良かった」
そう一言残し、ぼくはその場から去った。後ろから君の声がしたが気にせずその場を後にした。気にする余裕などなかった。
家に着いてぼくは、今まで見て見ぬふりをしていた自分の感情に目を向けた。
君を思い出にできるように、と。
君がいなくなってからぼくは、抜け殻のようになってしまった。
寂しくて苦しくて、呼吸をすることすらままならなかった。
そんな自分が惨めに思えて、受け入れたくなくて今までずっと見ないようにしてきた。でもそのままじゃ終わりきれない。
きっとまた君を思い出して泣くことはあるし、過去のことにするにはそれ相応の時間が必要になると思う。
でもぼくは今まで逃げてきた分、ちゃんと自分と向き合いたい。
君が、ぼくが、これからも笑って過ごせるように。
でもせめてこれだけは言わせてほしい。
愛してました、と。
君が思い出になるまでのお話 桐谷 @Qa_Rgrey
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