俺と義妹、二人きりの休日。






「休日にどこも行かない、ってのも暇なものだよな」

「んー、そうですか? 私は意外とのんびりするの、好きですよ?」



 俺と涼香はリビングで各々くつろぎながら、そんなことを話していた。

 春も最盛期を終えて、桜の花も散りゆく頃合い。もしかしたら、早いところではすでに葉桜になっているかもしれなかった。そのような風情を感じる気持ちも、改めて大切だと思う。

 それというのも、俺はいままでずっと野球漬けの日々を送ってきたわけで。

 春先のこの時期にここまでフリーなのは、初めてなのだった。



「散ってるかもだけど、一緒に桜でも見に行ってみるか?」



 それは、涼香も大差なく。

 マネージャーにならなかった彼女は、基本的には家でのんびりすることが多かった。だから、俺はふと思いつきで涼香を花見に誘ったのだが――。



「それって、デートのお誘いですか?」

「ぶふっ……!」



 それこそ、思わぬ反撃を喰らってしまった。

 義理とはいえ、兄妹での外出をデートとは言わないだろう。しかし小首を傾げる無垢な少女に、そのツッコミをするのは気が引けた。

 だから一つ息をついて、こう伝える。




「あぁ、デートだな……」――と。




 すると、涼香がいるであろう方向から『ぼんっ』というような音がした。

 何事かと思って振り返ると、そこには目を回している義妹の姿。

 彼女はどこか蕩けた表情になって、こう言った。



「デ、デート……義兄さんと、デート……!」

「おい、大丈夫か?」

「は、はいぃ!!」

「全然、大丈夫じゃないな……」



 こちらの指摘に背筋をピンと伸ばす義妹の様子に、俺は思わず呆れてしまう。

 しかし、苦笑しつつもそんな彼女の姿が微笑ましくも思うのだった。









 ――なお、これは余談だが。



「なぁ、涼香。まさかだけど、それで行くつもりじゃないよな?」

「え、駄目なんですか?」

「駄目に決まってるだろ!?」



 涼香はあろうことか、メイド服のままで外出しようとしていた。

 どうやら、あの一件以来この義妹はコスプレが趣味となってしまったらしい。俺はそのことに頭を抱えつつ、こう告げた。




「さすがにマズいから、着替えてきなさい」

「えー……こんなに可愛いのに?」

「可愛いから駄目なの!」




 そう指摘すると、ようやく涼香は自室へ着替えに向かう。

 俺は大きなため息をつき、ふとスマホにメッセージが届いていることに気付いた。




「ん? なになに……?」




 差出人は義妹だ。

 画面をタップして、俺はその内容に目を通す。




『せっかくですし、どこかで待ち合わせしましょう?』




 するとそこにあったのは、そんな文面だった。

 たしかに、デートと銘打ったなら、待ち合わせした方が通りがいい。――などと彼女の言葉に乗せられつつ、返信を送った。




『それなら、近所の公園で』――と。




 そして俺はスマホを仕舞い、外へと出るのだった。



 

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仲の良かった義妹との関係が、俺のスマホの検索履歴を見られたことで大きく変わった。 あざね @sennami0406

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