俺を振りまくる学園一の美少女が毎回振った俺のことを慰めてくれてデートも誘ってくれるのに付き合ってくれない件〜俺がラブレターを貰ったらなんかなんかバグった〜

社畜豚

第1話




皆さんは失恋というものをしたことがあるだろうか?

失恋とは恋する相手への気持ちが成就しないことだ。



俺はこれまでたくさんの失恋をしてきた男だ。


最初に振られた時はマジで辛かったけど最近は振られても心の傷は浅い。

なんというか……心が慣れたって感じだ。



……すいません。見栄はりました。めっちゃ辛いっす。めっちゃ深いっす。



俺、後藤陽一は高校に入ってから10回ほど振られている。


ていうかさっき10回目達成を成し遂げたところだ。

いつも通り無事に振られ、いつものように河川敷で夕日をみながらぼーとしていた。



おー運動部が掛け声を出しながら走ってる……がんばれー


おー高校生カップルがいちゃいちゃしながら歩いてる……見せつけてんちゃうぞオラ、とっとと失せろ。



「あ、やっぱりここにいた。おーい。よういちくーん」



振り返るとそこには学園中の人気者である久川楓がいた。

華奢で可愛らしい容姿と人好きのする柔らかい物腰、どこか飄々とした雰囲気を持った美少女だ。

こいつとは長い付き合いだが、かなりモテる。


デートの誘いはもちろんのこと告白する者が絶えない。



「……何の用だよ」


「どーせまた振られて落ち込んでここにいるんじゃないかって思って」



楓はそう言いながら俺の隣に座った。

肩と肩が触れ合っているくらい距離が近い。



「よしよし……」



楓は慰めるように俺の頭を優しく撫でる。



「……大丈夫だよ。私、よういちくんの良いところたくさん知ってるもん。だから絶対に君のことが好きだって言ってくれる子が現れるよ」



楓はぎゅっと優しく俺の頭を包み込むように抱きしめてくれた。



「だから、そんな悲しまないでよ。よういちくんの顔が曇ると私も悲しくなるんだよ」


「かえでぇ……」


楓は振られた俺のことをいつもこうして慰めてくれる。

辛い時には必ず現れて、抱きしめてくれて、辛い気持ちを受け止めてくれる。






まぁ、俺のこと毎回振ってるのお前なんだけどな。



はい、俺は高校に入って10回この女……久川楓に振られている。

そのくせ、俺が落ち込んでいるとこうして必ず慰めにくる。


結果、俺は楓によって脳の破壊と再生を繰り返しているのだ。


こいつはどういう感情で毎回慰めにきてくれているんだろう?

おかげで俺の感情はぐちゃぐちゃなんだが?



しばらく楓の胸を堪能させていただいたことにより心に余裕が生まれた俺は再び夕日を眺める。



「よういちくん私に振られるの今回で何回目だっけ?」


「……10回目」


「うわーすごいねーそんなに振られたら諦めるでしょ?」


「お前……よく振ってる本人の前で言えるな」


「大丈夫、こんなこと君にしか言わないから!」



うわ……全然嬉しくない。



「あ、ねぇねぇ。今から何か予定とかある?」


「え? いや……ないけど?」


「よしよし、なら勉強教えてよ〜」


「ああ、確かにもうすぐテストだもんな」


そういえばここ半年くらいやけに勉強に対して意欲的なんだよな……


去年は勉強嫌いで成績も底辺レベルだったのだが、こうして一緒に勉強をやり始めてからは学年内20位には入っている。


やれば出来る子……と言ったらいいのだろうか?




「それとそれと、週末なんだけどさーここのパンケーキ屋と水族館行こうよ!! ペンギンふれあいの場もあるよ!!」



「よういちくんペンギン好きだったよね?」と楓はうきうき顔で俺にスマホを見せてくる。



あのさぁ……俺さっきお前に振られたばっかなんだぞ? 


そんなことを思いながら楓のスマホを覗く。



「は? ペンギンかわいすぎんだろ……絶対行くわ」


「やた! 予定表に書いておこー♪」



嬉しそうにスマホのアプリに予定を書き込む楓。


俺と楓はこんな感じで毎週どこかに遊びに行っている。

映画、スイーツ、遊園地、ショッピングモール、お互いの家などなど。


しかも毎回誘ってくるのは楓なのだ。


え? これで付き合ってないの? って思うだろ?


はは、俺もそう思う。


普通、なんとも思っていない奴と一緒に遊びに行くか? だから、毎回もしかして……という思いが生まれてしまう。



そして玉砕するんだけどな!!



「……ん? どうしたの? そんな複雑そうな顔して?」


「いや……その……楓は俺と一緒にいるの嫌じゃないのか?」


「え? そんなこと思うわけないじゃん。絶対に、ありえないよ」


楓の言葉の圧でつい、息を呑む。

普通は興味のない奴からの好意なんて迷惑なものなんじゃないのか? 一緒にいたくないものなんじゃないのか?

 

振られたらお互いに気まずくなって、話さなくなって、だんだん疎遠になるものだと思っていた。


振られても友達のまま仲良くしていくこともあるだろう。

でも、俺たちの距離は近すぎると思う。



「言っておくけど……誰でもいいってわけじゃないよ? 私、よういちくんとしかデートはしないもん」


「……でも付き合ってくれないんだな」


「うん! それとこれとは話は別!」


「ちくしょう!!」



なんだかんだ。こうやってこいつに振り回されるのも悪くないなと思ってしまう。

多分……いや確実に惚れた弱みというやつなのだろう。



「ねぇ、よういちくん」


「何?」


「まだ、私のこと好き?」


いつものようにからかうような笑みをしながら楓は言った。



そんな楓に「……悪いかよ」と言いながらそっぽを向いた。



数日後




「よー後藤〜昨日のデートは楽しかったか〜?」



登校早々、クラスメイトである山田に絡まれる。後ろからぞろぞろと男子どもが後に続いてきた。



「なんで知ってるんだよ……」


「え? だって久川さんがみんなに話してるんだもん」



あいつ何やってんだ……!?

だから、俺と付き合ってるとか噂されるんだぞ!?


女子達と楽しそうに話している楓に視線を送るとふりふり〜と手を振ってきた。

女子達もそんな俺たちを見てなんか生暖かい目をしている。



「写真見せてもらったけど楽しそうだったじゃねぇか」



しかも写真も見せてるのかよ!!



「ペンギンと戯れてる姿可愛かったぞ後藤」


「パンケーキのクリームつけてるお前の写真可愛かったぞ」


「ほんと、付き合ってないのが嘘みたいだよな〜お前ら」


「あの久川さんと毎週デートできるなんて羨ましいぜ」



そんな男子からの声が次から次へと飛んでくる。



「ま、毎回振られてるんだけどな」



ちょっと自虐気味に言った。



「それでも、昔から久川さんと一番仲良いのお前だろ?」



「そうなのかな……」



「確かにお前は毎回久川さんに振られてはいるが……振られてはいるが!!」



おい、そこ強調すんなや



「それでも挫けずアタックしているお前のこと……俺たち2年2組は応援してるんだぜ?」



山田の言葉にクラスメイトたちは笑顔でサイズアップをする。



「み、みんな……」



「まぁ、お前の告白が成功したら2年2組でリンチするんだけどな!」



山田の言葉にクラスメイトたちはサイズアップを下に向けた。



「み、みんな……」



楓に振られて、また慰められて、デートして、クラスのみんなに弄られて、そんな日が続くと思っていた。


差出人不明のラブレターが俺の下駄箱に入られるまでは。



久川楓視点。



私、久川楓は後藤陽一のことが好きだ。


いや、違うかな? 好きじゃなくて大好きだ。


半年ほど前、家族みんなで晩御飯を食べていたとき、お父さんから。



『半年後、北海道に引っ越す』



そう言われた。

お父さんの働いている会社は大手企業で本社が北海道にあるらしい。

お父さんの働きが評価され、本社に転勤が決まったのだろう。


だからこそ



『好きです。付き合ってください』



ああ、どうしてなんだろうと思った。


転校さえなければ迷わずその手を掴んだのに。


私が、陽一くんの彼女になれたのに。


初めて振った日の夜は一晩中泣いた。



次の日はやっぱり陽一くんとはぎこちなくってあまり話さなくなり、振ったことがクラス中にも広がった。


昼休み、陽一くんはクラスの子達からカラオケに誘われていた。

メンバーには女の子もいるみたいで、楽しそうに女の子と話ている陽一くんを見て思ってしまった。



ツラい。胸の奥がズキズキする。こんなの嫌だと。


振ったくせにそんなことを思ってしまう自分が嫌になった。


放課後、一人で帰ろうとしていた私に陽一くんが慌てた表情をしながら



『楓!! 久しぶりに二人で帰らね?』



そう言って声をかけてくれた。

なんか、そんなに日が経っていないはずなのに久しぶりに話しかけられた気がする。



『……みんなとカラオケ行くんじゃないの?』


『え? あぁ……うん。今日は用事があったて言っといた』


『……なんで? 楽しみそうにしてたじゃん』


『楽しみだったけど、楓の背中が寂しそうに見えたから』


君は困ったように笑った。



『……もしかして余計なお世話だったか?』


『そんなこ…………陽一くんは振った女の子なんかと一緒に居て辛くないの?』


『え? あぁ……なんか楓が寂しそうに一人で帰って行く姿見たらどうでもよくなった』


『は、あはは……何、それ……』



あの日から、私はある決意をした。


家に帰って、初めてお父さんに我儘を言った。


転校したくない。ここで一人暮らしがしたいって。



『……出来るのか? 家事も勉強もろくに出来ない。何事も長続きしないしないお前が』



お父さんのその言葉にぐっと言葉を詰まらせてしまった。



『……出来る……ようにする』


『なら、言葉ではなく、行動で示してみろ』



この日から必死に勉強して、家事もお母さんに教えて貰いながら覚えた。

よういちくん私から色々とアタックして、他の女の子が近づかないように外堀を埋めて勉強も必死にやって、底辺レベルから、上位20位、そして今回のテストで上位10位に食い込めた。


そして今、お父さんからもらった私は鍵を見ながら登校していた。


今日、私がよういちくんに告白する。


放課後屋上にくるように書いたラブレターを鞄に入れて学校に着く。


ウキウキ気分でよういちくんの下駄箱を開けると



ラブレターが入っていた。




???


???????????



あれ? え? は? 何この手紙。 へ? 私のじゃないよね? だって持ってるし。


ん? ということは……私以外の誰かが入れたやつ?


………………なんで?



ざわざわと人の声がしたので下駄箱をしめて、教室へと走った。


あの手紙……よういちくんはどうするつもりなんだろう。


い、いや……よ、よういちくんは私のことまだ好きでいてくれているから大丈夫、大丈夫……なはず。


不安と緊張で胃が痛くなるながらもよういちくんが来るのを待った。


……きた!! よういち……ああ!! なんかソワソワしてる!!


「よ、陽一くんおはようー」


「お!? お、おお……お、おはよう」



なんでそんなに挙動不審なの?



「な、何かいいことでもあった?」


「え? い、いや……別に。何も」


じゃあ、なんでそんなににやけてるの?



「ふ、ふーん」


結局、よういちくんからは詳しいことは聞けず悶々としながら放課後を迎えた。


放課後、改めて手紙の件を聞こうと思ったんだけど、よういちくんの姿はなかった。



次の日



「そういえば昨日の放課後、よういちくんすぐ教室から出て行ったよね? 何かあったの?」


「え? あー……まぁ……色々と」


放課後、全然帰ろうとしないよういちくんに昨日のことを聞いてもはぐらかされる。 


なんで、はぐらかすんだろう……もういっそ告白されて付き合いましたって素直に言って欲しい。トドメを指して欲しい。


……いや、やっぱり心が耐えられる自信がないのでちょっと遠回しなでいい感じな言い方をして欲しいかもしれない。


……私ってこんなにめんどくさかったけ。


妙にソワソワしているよういちくんを見ているとクラスメイトから声をかけられた。



「ご、後藤……隣のクラスの女の子が、お、お前にようがあるって」


クラスの男子の視線の先に可愛い女の子がすごく嬉しそうな顔をしながら手招きしていた。



「!! おう!!」


え、ちょっと待って? なんでそんなに嬉しそうな顔をするの!?

よういちくんは隣のクラスの女の子の元へ向かい、何やら話し込んでいる。


なんだか、二人ともすごく親しげで嬉しそうに会話している。



……見たくない。



教室内も少し困惑した空気になる。


だめだ……泣きたくないんかないのに涙を堪えられそうにない。


私は逃げるように教室から出た。



辿り着いたのは河川敷。



私はそこで夕日をみながらぼーとしていた。


これが……失恋。


あはは……きつい。キツすぎるよ。


告白、受けておけばよかったのかな?


いやでも、素直に「北海道に転校するかもだけど私のこと好きでいてね⭐︎」なんて言えないし……


流石によういちくんもそれはちょっと……ってなるに決まってる。


どうすればよかったのかな……どっちにしろ叶わなかった恋だったんだ……


あー……なんか……今は何も考えたくないかも。


………………


あ、運動部が掛け声を出しながら走ってる……ふぁいとー


あー高校生カップルがいちゃいちゃしながら歩いてる……爆発すればいいのに。



「あ、やっぱりここにいた。おーい。楓ー」


振り返ると息を切らしながらこちらに来るよういちくんがいた。


何も言うこともなくよういちくんは私の隣に座った。

肩と肩が触れ合っているくらい距離が近い。



「何かあったのか? クラスの奴らびっくりしてたぞ楓がいきなり泣きそうになりながら教室を出ていったって」


「……別に……何も……よういちくんこそ……彼女ほったらかして私のところに来ちゃっていいの?」



違う……こんなことを言いたいんじゃない。

来てくれて嬉しい。とか心配してくれてありがとうとかそんなことを言いたいのに。



「彼女? いや、俺に彼女とかいないけど」



……………………はい?



「えっ……だって……昨日……さっき……女の子と……」



頭が真っ白になってうまく言葉が出てこない。



「昨日? さっき? 女の子? ……小野田さんのことか? 昨日手紙で呼び出されたんだけどさ、どうやら差出人を間違えてたみたいで」



………………へぇ?



「んで、その時に色々と励まして。今日改めて告白して付き合ったんだってさ。さっきはその報告をしに来てくれてたんだよ」



「え? だって……え? それじゃあなんでそんなにそわそわしてたの?」


「手紙もらった時は差出人が不明だったから……その、もしかして楓からなのかなって思って……さっきまでは小野田さん告白成功したのかなって」


「あ、そう……なんだ」



つまり……よういちくんは誰とも付き合っていない?


……よういちくんは誰のものにもなっていない?



「…………ふ、ふふふふふふ」


「え? ど、どうした? なんでいきなり笑い出すんだ?」



あはははは……なんだか、脳が破壊されてまた再生していく気分だ。


つまり……今の私は最高にハイな状態になっている。


ここは河川敷だとか、人の目が多いとかそんなことは関係ない。


今の私は無敵だ。


トンとよういちくんを押し倒してそのまま上に乗った。


逃げられないように。



「え、えっと? か、楓さん……? ど、どうした?」



「ねぇ……よういちくん」


何が起こっているのか理解が追いついていなくて困惑しているよういちくんに私は笑顔でこう言った。





「私のこと、まだ好き?」












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俺を振りまくる学園一の美少女が毎回振った俺のことを慰めてくれてデートも誘ってくれるのに付き合ってくれない件〜俺がラブレターを貰ったらなんかなんかバグった〜 社畜豚 @itukip

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